曖昧な告発と世間の空気によって犯罪者にされたジャニー喜多川と、潰されてしまった事務所。その流れは、今年の中居正広、さらには国分太一をめぐる騒動にも引き継がれている。
第11回 東山紀之らが担ったジャニーイズムの継承。しかし、山口達也の退場が時代の変わり目を告げた
ジャニーズが我が世の春を謳歌していた頃、よく話題になったのが後継者問題だ。ジャニー喜多川もメリー喜多川もいずれはこの世から退場していく。審美眼と独創性に長けたジャニーと、凄腕の経営者であるメリー、この姉弟がいなくなったあと、事務所がどうなるかは芸能シーンを左右する重大テーマだった。
もちろん、創業者一族の藤島ジュリー景子やSMAPを手がけてのし上がった飯島三智という候補はいたが、ジャニーズの色とカリスマ性を保つうえでは、タレントもしくは元タレントがトップに座るというやり方もある。その候補も何人かいて、最有力ともされていたのが東山紀之だ。
「ジャニーズの長男」と呼ばれた近藤真彦が政治や経営、継承や育成といったことに興味がなさそうだったのに対し、こちらはそういうことにも熱意がありそうだったし、実際、今回の騒動のなか、短いながらもトップを務めた。ただ、芸能界を引退してまで、火中の栗を拾おうとしたにもかかわらず、結局、補償業務だけに専念させられることとなったのは気の毒というほかない。
とはいえ、継承や育成については別の大きな仕事をした。
平成になったあたりから、特にテレビの時代劇は不振に陥り、見栄えと運動神経のよさを併せ持つジャニーズ勢に期待する気運が高まっていた。まず白羽の矢が立ったのはマッチだが、本人にそこまでのやる気がなく、代わりに東山が積極的な取り組みを見せる。もともと『名奉行 遠山の金さん』シリーズに出て、松方弘樹に可愛がられるなど、先輩スターとのつきあいが上手い人だ。藤田まことと共演しながら『必殺』シリーズを引き継ぎ、また『大岡越前』シリーズを復活させた。
彼は後輩の面倒を見るのも好きだから、それもあってか『必殺』には松岡昌宏や大倉忠義、知念侑李なども出演するようになる。その流れと並行して、木村拓哉の映画『武士の一分』や滝沢秀明の舞台『滝沢演舞城(のち、滝沢歌舞伎)』も生まれた。
近年の時代劇におけるジャニーズの存在感は、けっこう大きい。お家騒動にやきもきしている関係者も多いのではないか。
時代劇ではないが、刑事ドラマの『警視庁捜査一課9係(のち、特捜9)』シリーズを渡瀬恒彦から引き継いだのが井ノ原快彦。この人も芸能だけにとどまらない能力を持ち、実際、滝沢が電撃的に事務所から去ったあと、その後任を委ねられた。その後、新会社の幹部を務めた時期もあるが、逆風がやまないなか、手腕を振るうのは大変だっただろう。
そしてもうひとり、山口達也がかつて果たしていた役割も見逃せない。そこを理解してもらうために、筆者が18年に書いた文章を引用することにした。『LOVE!ジャニーズ新世代』(宝島社)に寄稿したものだ。
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もしこの世からジャニーズアイドルがいなくなったら――。それはこの本の読者にとってありえないし、あってはならないことだろう。しかし、その可能性はゼロではない。実際、山口達也は姿を消した。他のアイドルだって、いなくならないとは限らない。深刻なのは、彼を抹殺したのがスキャンダルそのものというより、スキャンダルを否定する世間の気分だったことだ。今や誰もが、そういうかたちで消される可能性があるということでもある。
ちなみに彼の場合、おそらく落ち度はあったとはいえ、最終処分はあくまで不起訴。
というのも、芸能、とりわけアイドルはSとMの関係上に成り立つからだ。たとえば、嵐がデビュー時にまとったスケスケの衣裳には「やらされてる」感が丸見えだったが、それでもファンがちやほやすることで、彼らは「オレ様」感を得ることができる。また、表では爽やかな王子キャラに徹しつつ、裏では色っぽい遊びもすることでストレスも発散できるわけだ。
したがって、現場は公私混同なくらいが望ましい。恋人同士を演じるなら実際に恋におちたほうが手っ取り早いのと同じ道理で、バラエティも男女がわちゃわちゃ楽しくやれていたほうが独特の面白さが生まれる。恋愛への圧力や自制心もあいまって、そのねじれがエロスを生むのだ。『Rの法則』はまさにそういう空間だった。子供番組の多いEテレのノリで楽屋が男女一緒だった時期もあり、大人の番組ではありえないような、共学校の教室みたいな爽やかさと色っぽさが混在する場になっていた。
そういう場に、山口はうってつけの存在だった。かつて『おネエ★MANS』のMCとしてオネエブームにひと役買ったように、どこか猥雑でもある空間を明るく健全そうに仕切ってみせ、うまく盛り上げていた。もちろん、きわどい場でもあるから、後輩のジェシーや田中樹らが番組内交際をネットで噂されたり、川谷絵音と騒がれたほのかりんのような子も輩出。最後は山口自ら、その魔力に身を持ち崩してしまう。これはある意味、昭和生まれの貪欲さゆえだろうか。
とはいえ、今のアイドルだって自由にいろいろやりたいだろう。問題は誰がそれを守れるかだ。事務所に期待したいところだが、かつて田原俊彦や近藤真彦のスキャンダルを丸くおさめたようなことは難しいかもしれない。事務所自体にセクハラやパワハラといったイメージがあり、世間のスキャンダル否定派の覚えがよくないからだ。
また、事実上のトップであるメリー副社長が下品な下ネタや下賎な女性を嫌悪しているという事情もある。自社のアイドルが攻撃されれば全力で守ろうとはするものの、スキャンダルの質や相手によってはシビアにもなるということだ。そんな彼女のお気に入りは松岡昌宏や櫻井翔。
そんななか、絶妙なかたちで爽やかさと色気を両立し続けていたのがSMAPだ。できちゃった婚をはじめ、駐車禁止を咎めた婦警を轢きかけたり、飲酒して全裸になったり、スキャンダラスな話題もふりまきながら、平等的多様性を歌ったり(『世界に一つだけの花』)フェミニズムに寄せたり(資生堂CMソング)して、清濁併せ呑む稀有なアイドル像を作り上げた。それでもなお、最後は空中分解してしまうのが芸能の宿命である。
では、誰が彼らを守るのか。それはやはり、ファンだと思う。実際、山口のときも、あるいは小山慶一郎のときも、ネットを中心に擁護の声が多く挙がった。アイドルとして建前を演じ続けるにはどこかで本音を発散することも必要で、そのメカニズム上、スキャンダルは不可避だ。凶悪犯罪ならともかく、法に触れない火遊びも許されず、生活のすべてに建前だけを求められるのなら、アイドルなど誰もやらなくなるだろう。
ジャニーズアイドルが好きなら、スキャンダルも愛でてほしい。
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今思えば、その後のジャニーズ潰しを危惧していたかのような内容でもある。というのも、今回の騒動においてもまた、性的なスキャンダルを嫌悪するという時代の気分が大きく影響したからだ。多様性がどうとかこうとかいいつつ、性に関しては健全かつ良識的なかたちしか認めない、いや、許さないという気分が近年では支配的だ。
そしておそらく、この流れはもう簡単には変わらない。いくら私刑ごっこがブーム化している世の中とはいえ、事件化もされないまま、故人を極悪人に仕立てて、その後継者やタレント、さらにはファンまで叩くということがここまでエスカレートしたのは、それが誰も止められない激流となってきたからだろう。
種の存続にとって根幹ともいえる「性」についてそこまで禁欲的になりすぎるのはどうかとも思うが、何がよしとされるかは多数決でしかない。言葉の問題などもそうだ。たとえば「煮詰まる」という言葉を「行き詰まる」という意味で使う人が増えれば、それが普通になってしまう。誤解が正解を上回れば、それが新たな正解になったりもするのである。
ジャニーズ騒動はまさに、世間の多数決によるものだった。その決め手は性的にいかがわしいスキャンダルへの拒否感だ。ひと足先に消えた山口は、世間の空気が変化しつつあることを身をもって予告したともいえる。
ただ、性への衝動を全否定してしまうと、人間も芸能も成立しなくなる。性は本来なんでもありで、それを暴走させないために法やモラルが存在するのだ。芸能はそのギリギリを攻めるために人間が発明したものでもある。
ジャニーズという芸能もまたしかり。世間的にはいろいろいかがわしいイメージもまといつつ、真逆の健全さもちゃんとアピールしたりして、そのあたりのバランスが絶妙だった。大ざっぱにいえば、爽やかさと色っぽさの混在、そこが日本女性を長年惹きつけてきたのだ。
そんなジャニーイズムの体現者かつ継承者のようだったのに、じつはそうでもなかったのではと思わせる人もいる。次回はその男についての話から始めるつもりだ。
文:宝泉薫(作家、芸能評論家)
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