スタックス・レコードでプロデューサー、ソングライターとしてソウルミュージックを支えた伝説のギタリスト、スティーブ・クロッパーが亡くなった。享年84。

オーティス・レディング、ウィルソン・ピケット、サム&デイヴ、ルーファス・トーマス、カーラ・トーマス、エディ・フロイドら共演は多い。新刊『未体験白書』(シンコーミュージック・エンタテイメント)でこれまでの仕事を振り返った音楽家近田春夫氏と、『日本崩壊 百の兆候』(KKベストセラーズ)が絶賛発売中の作家適菜収氏は何を感じたのか? 異色のLINE対談。連載「言葉とハサミは使いよう」第12回。



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■MG'sのあの曲だけはダメ!



適菜:スティーブ・クロッパーが死にましたね。84歳とのことです。



近田:すごく悲しい。1番好きなギタリストのひとりだったよ。もうひとりはリック・デリンジャー。



適菜:リック・デリンジャーも今年亡くなっている。77歳ですから、二人とも長寿といえば長寿ですね。クロッパーを知らない人でも、クロッパーのギターは聞いたことがあるという人は多いと思います。



近田:適菜さんにとってクロッパーって何が興味を持つきっかけだったの?



適菜:最初はあまり興味がなかったんです。

高校1年生のときにエリック・クラプトンのビデオを見て、そこでドナルド・ダック・ダンがベースを弾いていた。あの変な人は誰なんだろうと興味を持ち、それで、MG'sという人たちがいるらしいということを知ったのですが、渋いというか、高校生受けするような音楽ではなかったのかなと。



近田:だよねぇ。俺はとにかくMG'sだったね。Atlanticの音って、結局MG'sだもんね。



適菜:高校3年生のときに、清志郎の「Memphis」が出て、クロッパーがプロデューサーでした。昔、少しベースを弾いていて、初めて人前で演奏した曲がオーティス・レディングの曲でした。メロディーは覚えていますが、曲名は忘れました。「たったーたーたかたった」みたいな感じで始まる曲ですが、それだけではわからないですよね。



近田:俺は「Green Onions」にはまったく反応しなかったのよ。「Hip Hug-Her」です。きっかけは。



適菜:それを聞いて安心しました。私も「Green Onions」にはまったく反応しなかったのですが、近田さんにそう言ったら、怒られるかと思った。



近田:あの曲だけはダメ! あと、ハマったのは、「Tic Tac Toe」。そこからはじまりました。





適菜:「Green Onions」は、デンデケデンデンデンデケデンデンと、大学生のセッションみたいでクソださい。なんでああなったのか謎。私はオーティスのバンドというくらいの認識しかなかったので、MG'sは単体としてはあまり聴いてきませんでした。



近田:MG'sのサウンドを一番特徴づけてるのがクロッパーなんだと思うよ。



適菜:あっ、今思い出しました。ベースを弾いたのは「Shake」という曲です。



近田:オーティスの「Dock of the Bay」のコード進行って後にも先にもあの曲一曲なのだ、ということを語る評論家がいないのはつまんないね。



適菜:私の中で一番印象深かったのは、サム&デイヴ「Soul Man」の冒頭のクロッパーのギターでした。



近田:なるほど! すぐにアタマに浮かぶね。クロッパーってさぁ、いわゆるブルースフィーリングみたいなもの、あんまり感じさせないよね。



適菜:たしかにそうですね。ジェフ・ベックのプロデュースをしたり。Stax自体がそういうところがあるのかもしれません。



近田:クロッパーって、ジェーム・バートンと対で語りたいギタリストだなぁ。本質はカントリー&ウェスタンなのかも?



適菜:職人芸みたいな感じ。



近田:ロングトーンのチョーキングとか、先ずしないプレイヤーだった。



適菜:裏方にまわるという意識があったのでしょうか?



近田:美学としてあったような気はするね。





■ダック・ダンとソウルのベースライン



近田:俺なんかだと、大きく分けると、ソウルってMotown、Atlantic (Stax、Volt含む)、そしてJBってことになるけど適菜さんはどんな感じっすかね?



適菜:その場合、アル・グリーンとかのHi Recordsはどのような位置づけになりますか? 私はかなり大雑把でSouthern SoulとNew Soulくらいの区別しかなかったです。アル・グリーンはいまでもたまに聞きます。



近田:俺はあくまでサウンドという文脈のみで洋楽を眺めて来たんだけど、そういった意味でいうと、Hiはレーベルとしてはそこまで独自性はなかったのかな。

アル・グリーンの功績はソウルミュージックのリスナー的な体感温度を、意識的に下げたということに尽きると思う。そこが、マービン・ゲイや、カーティス・メイフィールド、あるいはバリー・ホワイトとの徹底的な違いなのかも? はじめて"クール"な印象を黒人音楽から受けた思い出がある。なんにせよ、根拠はファースト・インプレッションなんだけどね。



適菜:近田さんはブッカー・T・ジョーンズについてはたくさん語っていらっしゃいますが、ダック・ダンはどう思われますか?



近田:ダック・ダンの奏法はコピーしようとするとさほど難しくありません。一方Motownの看板ベーシストであるジェームズ・ジェマーソンは、いわゆるテクニシャンで、曲によっては、たとえばスティービー・ワンダーの「For Once in my Life」のように、なかなか大変だったりします。そのあたりで,いわゆる職人的なベーシストにとってダック・ダンというのはジェマーソンに比べると割と人気が低いかもなんですけど、印象に残るリフの数でいうとダック・ダンに軍配があがるのかな? と俺は思っています。



適菜:先ほど話したクラプトンのビデオで、ダック・ダンはなんか暗い表情でベースを弾いていて、それで逆に注目するようになりました。クラプトンよりも、陰気な感じで、そういうよさもあったと思います。



近田:なんにせよ前にも言ったけど、ソウルミュージックはベースだよね!



適菜:そう思います。ベースって、少し大人になると面白さがわかるところがありますね。若いうちは音として出ていないと認識できないけど、大人になると音として出さない部分の意味がわかってくる。だから、ベーシストの頭の中でグルーブが鳴っていれば、要所要所で音を出せばいいわけで。

逆に、ブラックミュージックでも音を出しまくっているベーシストはあまり好きになれません。やはりブーツィー・コリンズのベースラインが好きです。



近田:ブーツィーってJBの「セックス・マシーン」のベースだったよね?



適菜:そうです。JBもあの時代のものが好きです。「ライヴ・イン・パリ’71」はよく聴きました。



近田:あのブーツィーはいいよね!



適菜:ブーツィーがベースの弾き方を説明している動画を昔見たのですが、うん、うん、あ、あ、とか言いながらリズムの説明をしていて、あまり言葉になっていないのですが、すごく腑に落ちたのを覚えています。日本人のファンクの演奏と決定的に違うのはそこかと思いました。



近田:彼らにとって、演奏というよりは踊ることの方が意味としては近い気がしてるのよ。



適菜:そうですね。音楽の根源に近いような気もします。



近田:では、次回はソウルミュージックとはなんなのかという話をしましょうか?



適菜:ぜひお願いします。





文:近田春夫×適菜収

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