子供の頃から雑誌が好きで、編集者・ライターとして数々の雑誌の現場を見てきた新保信長さんが、昭和~平成のさまざまな雑誌について、個人的体験と時代の変遷を絡めて綴る連載エッセイ。一世を風靡した名雑誌から、「こんな雑誌があったのか!?」というユニーク雑誌まで、雑誌というメディアの面白さをたっぷりお届け!「体験的雑誌クロニクル」【28冊目】「『レオン』とその仲間たち」をどうぞ。



『レオン』とその仲間たち【新保信長】 連載「体験的雑誌クロ...の画像はこちら >>



【28冊目】『レオン』とその仲間たち

 



 老舗雑誌の休刊がニュースになることはあっても、創刊誌や売れてる雑誌の話題が聞こえてくることがめっきりなくなった今日この頃。そんななかでも、一昨年(2024年)11月に創刊された文芸誌『GOAT』(小学館)は、大胆な編集&デザインと500ページ超のボリュームながら510円(ゴートだけに)という格安価格で話題となり、異例の大増刷となった。



 が、それは本当に異例中の異例で、話題になったといっても文芸好きや出版・書店関係者の間だけである。そういう業界内の盛り上がりにとどまらず、社会現象と呼べるレベルで話題になった雑誌は何があったっけ……と歴史を振り返れば、古くは70年代に「アンノン族」を生んだ『an・an』『non-no』に始まり、80年代の上京者必携バイブルだった『ぴあ』、過激な中身が国会沙汰になった『ギャルズライフ』、写真週刊誌「3FET戦争」の引き金となった『FOCUS』、90年代のギャル文化発信地『egg』などが思い浮かぶ。



 そして、直近の例として記憶に残るのが、『レオン』(主婦と生活社)である。直近と言ってはみたものの2001年11月号創刊なので、もう四半世紀前のこと。30代以下では何がどう話題になったのか知らない人も多いかもしれないが、「ちょい不良(ワル)オヤジ」というフレーズは一度くらい見聞きしたことがあるのではないか。この「ちょい不良」をはじめとする独特の造語とラグジュアリーな誌面で一世を風靡したのが『レオン』だった。



 初代編集長は、自身も“ちょい不良オヤジ”を体現する岸田一郎氏。世界文化社で『ビギン』『Car EX』『MEN'S EX』などの創刊編集長を務めたのち、主婦と生活社に移って『レオン』を立ち上げた。「大人のクオリティライフ実用誌」と銘打ち、キャッチコピーは「必要なのは“お金”じゃなくて“センス”です!」。もくじページには〈無難に生きるよりLEON(ライオン)的生き方!/「羊として100日生きるよりライオンとして1日過ごした方がいい」というイタリアの古い諺のように、無難ではなく、英雄的、刺激的な大人のクオリティ・ライフスタイルをLEONは提案します〉との文言も掲げられていた。





『レオン』とその仲間たち【新保信長】  連載「体験的雑誌クロニクル」28冊目
『レオン』(主婦と生活社)2001年11月号。まだ「ちょい不良」ではない



 



 イメージモデルは、ご存じ(かどうか知らないが)パンツェッタ・ジローラモである。表紙だけでなく、「パンツェッタ・ジローラモのLEON的好奇心」と題した連載もあり、第1回は「マセラティ3200GTを駆って、日本一美味しいチーズを買いにいく!」と、なんでわざわざそんなことを?と聞きたくなる浮世離れぶり。『レオン』がヒットした理由のひとつとして、いかにもイタリアの伊達男っぽい彼の存在も大きかったと思う。



 しかし、実は創刊号の時点では「ちょい不良」「ちょいモテ」といったフレーズは出てこない。誌面もそこまで派手じゃない。とはいえ、メイン特集は「イタリアでモテる男は『クラシコSEXY』」で、やはり「モテる」「SEXY」を前面に打ち出そうとの意図はうかがえる。「あなたのニキータと楽しむ『今月のとっておき』」なんてコーナー名や「女をくすぐるドルチェな着こなし」といった言い回しに、のちの造語センスの片鱗もあり。美容コーナー「ビジュ男(お)養成講座」は、三省堂の辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2025」の大賞「ビジュ」を先取りしている。



 



 初めて「ちょい不良」「ちょいモテ」が登場したのがいつか調べようと思ったら、国会図書館には2006年1月号以降しか所蔵がなかった(きちんと納本してください)。なので、手元にある数冊のバックナンバーのみに基づく話になるが、2003年11月号の特集がまさに「モテるちょい『不良(ワル)』オヤジの作り方」だった。 



 創刊2周年記念号ということで、特厚の360ページ。値段は創刊号と変わらず780円だ。

表紙は、ド派手な蛍光ピンクの文字にサングラスをかけたジローラモのドアップ。サングラスにはヒョウ柄のコート(プラダ/79万2000円)をまとったニキータが映り込んでいる。



 見るからに勢いを感じる表紙で、誌面もイケイケ。エルメスのスカーフをニキータとのプレイ時の「目隠しにピッタリ!」と紹介したかと思えば、ボディオイルは「ふたりでヌリヌリしてトロトロしてくださいな」ときた。「『ちょいキザ』オヤジ必携!プラピが作ったピカりんカフス」「ちょい『不良』オヤジはジャケットもバックシャン!!」「オヤジの名刺入れ ちょい派手レザーで超薄型!」「『ちょい枯れ』+『ちょいキザ』なこの秋の最強ジャケット」「ちょい『不良』オヤジは1泊2日のデートも下心をオシャレに演出」「『イキすぎない』のがキモ! ちょいモードなオヤジミリタリー」と、見出しのリリックもキレまくりだ。





『レオン』とその仲間たち【新保信長】  連載「体験的雑誌クロニクル」28冊目
『レオン』(主婦と生活社)2003年11月号。記事画像はp98-99より



 奇しくも伊勢丹メンズ館がオープン(「男の新館」からリニューアル)したのが、この創刊2周年記念号発売2週間前の2003年9月10日だった。おそらくこのあたりから人気に火がついたのだろう、2004年から2005年にかけて『レオン』の好調と男性ファッション市場の活性化を報じる記事がいくつも出た。



 そのひとつ、東京新聞2004年10月2日付夕刊によれば、同誌2004年11月号(創刊3周年記念号)は発行部数7万部(当時としてはさほど多い数字ではない)に対して広告収入3億円で男性誌新記録を樹立。誌面で紹介されたスーツやバッグ、時計が飛ぶように売れ、“完売御礼”が続出したという。



 同記事には岸田氏のコメントもあり、「LEONには生き方とか教条主義的な話は一切無い。可処分所得があればかなえられる話ばかり。要は“モテるオヤジの作り方”がすべて。

外見のね。内面を磨くのは読み捨ての雑誌でできることじゃないです」「老舗旅館やヘミングウェーを語っても広告には結びつかない」「ビジネスとして戦略的にやってます」と、実に身もフタもない割り切りを語る。 



 岸田氏は2004年9月14日開催の第22回毎日ファッション大賞贈賞式のトークイベントにも登壇。鳥越俊太郎(ジャーナリスト)、大西洋(伊勢丹営業本部MD統括部紳士統括部長)、西川恵(毎日新聞専門編集委員)と「なぜいま男たちのファッションか」のテーマで語り合った。さらに2005年5月8日放送の『情熱大陸』に出演。「ちょいモテオヤジ」が同年の新語・流行語大賞トップテンに入り、翌2006年には『笑っていいとも!』に「ちょい不良オヤジコンテスト」コーナーができた。これをブームと言わずしてなんと言おう。



  



 そんな飛ぶ鳥落とす勢いの『レオン』を、他社がただ指をくわえて見ているはずがない。同じく30代後半~50代の“大人の男”=高所得層を対象読者としたファッション誌、ライフスタイル誌が続々と創刊された。



 とりあえず私が把握しているだけでも、『サファリ』(日之出出版/2003年11月号)、『ターゲット』(講談社/2004年フラウ増刊11月8日号)、『ジェントリー』(ハシェット婦人画報/2004年11月号)、『ランティエ』(角川春樹事務所/2005年2月号)、『ウオモ』(集英社/2005年4月号)、『ドアーズ』(ネコパブリッシング/2005年5月号)、『ストレート』(扶桑社/2004年11月号)、『ゲーテ』(幻冬舎/2006年4月号)、『オーシャンズ』(インターナショナル・ラグジュアリー・メディア/2006年4月号)、『ザ・カバー・マガジン』(トランスメディア/2006年グリッター4月号増刊)……と、枚挙にいとまない。





『レオン』とその仲間たち【新保信長】  連載「体験的雑誌クロニクル」28冊目
各社から創刊された“大人の男”のための雑誌たち



 ただし、渡辺謙が表紙の『ジェントリー』は正統派の紳士をめざす感じで、クラシックカーが表紙の『ストレート』はモノ雑誌っぽい。『ランティエ』は「退屈でない人生を求める男たちへ」、『ドアーズ』は「不良オヤジの扉を開け!」とキャッチコピーはそれっぽいが、前者は大和魂的な誌面づくりで、後者は「ちょい不良」ではなく“ガチ不良”なので、ちょっと違う。

『ゲーテ』は「24時間仕事バカ!」のコピーが示すとおりビジネス寄りだし、元『レオン』スタッフが立ち上げた『オーシャンズ』は家族愛を前面に打ち出し“ちょいモテ”路線からは距離を置く。



 そんななかで、表紙イメージとコンセプト的に“『レオン』インスパイア系”と思われるのが、『サファリ』『ターゲット』『ウオモ』『ザ・カバー・マガジン』だ。 



 『サファリ』創刊号の表紙モデルはジョン・カビラ。「いつも海を忘れない男たちへ」とのコピーはサーファー雑誌のようだが、〈実は1960~70年代のアメリカのサーファーの間では“Surfing safari”という言葉がよく使われていたのです。これは、いまで言うサーフトリップで、未知なる波を探し求めて旅に出ることを意味しました〉とのことで、誌名も〈読者諸氏とともに「未知なる世界を探し求めての旅」へ出かけるという意味合い〉とか。それゆえ誌面にはヘビーデューティ風味が漂うが、「悪漢オヤジはなぜモテる!?」と題した特集があったりして、やはり「ちょい不良」の影響を感じる。



 『ターゲット』は男女の白人モデルが表紙で、「洋服選び、『恋愛』を忘れていませんか?」を特集タイトルに掲げる。各記事の見出しも「目指すは金も力もある『色男』の教養(エッセンス)」「色男はスーツで遊ぶ」「知性は色気、色気は知性。性を知ると書いて知性」「ベルベットJKで色気全開! イイね!」と色気推しがすごい。「性を知ると書いて知性」とは、思いついてもなかなか言えない。数ある後続誌の中では最も『レオン』に近かったのではないか。



 『ウオモ』の表紙も白人男性モデルだ。

〈UOMOのキャラクターとして鮮烈デビューのアンドレ。ハイブランドのキャンペーン等で活躍するスーパーモデル〉らしい。メイン特集は「『オトナ・ジャケット』で華あるスタイル。」。ここで言う「オトナ」とは何歳を指すのかと思ったら、「40代、男の色気は『艶肌』で決まる!」なんて記事があるので、やはり40代が対象なのだろう。島田雅彦「40の手習い」という連載もあった。とはいえ、全体的にギラギラ感がなく、草食男子という感じ。近年は「40歳男子」を打ち出している。



 真木蔵人が表紙を飾るのは『ザ・カバー・マガジン』。「不良モードなオトコの“カッコよさ”を追求!」というコピーにはぴったりの人選と言えよう。ただ、創刊の辞によれば読者対象は20代~30代前半のようで、〈同世代の男性と女性では、圧倒的に女性の方が大人びていることが多い。しかし、彼女たちがオヤジ連中と遊んでいるのをボーっと眺めていていいのだろうか。当然オヤジ世代の真似をしてみたってダメ〉との記述もあるので、『レオン』インスパイアというより“打倒レオンオヤジ”なのかもしれない。



 



  しかし、これら後続誌と比べても、やはり『レオン』が頭ひとつ抜けていた。たとえば、2006年9月号の特集タイトルは「ちょい『ヨコシマ』オヤジのモテる艶夜(アデーヤ)」。もはや何を言ってるのかよくわからないが、ここまでくれば言ったもん勝ちである。「ちょい不良オヤジは“スケテロ”シャツで『乳(ニュー)リッチ』」「夜攻勢(ヤコウセイ)オヤジは移動自由な“立ちコン”で」「ちょい“ひねリッチ”なピッタンレザー」「“くったリッチ”な袖まくりジャケ」と畳みかけられると、こっちの感覚もマヒしてくる。





『レオン』とその仲間たち【新保信長】  連載「体験的雑誌クロニクル」28冊目
『レオン』(主婦と生活社)2006年9月号。記事画像はp80-81より



 



 岸田氏は『レオン』編集長在任中に女性誌『ニキータ』も立ち上げた。「あなたに必要なのは“若さ”じゃなくて“テクニック”」のキャッチコピーを掲げ、創刊号(2004年11月号)の特集は「コムスメに勝つ!」と挑発的。「艶女(アデージョ)は『もろヒョウ』よりも『ちらヒョウ』で!」「艶男(アデオス)の本能に火を付けるゆ~ったり口調の『こくまろトーク』」「一生(以上?)イバれる『艶金(アデキン)時計』」「股浅でも後ろ淑女な『艶尻(アデジリ)デニム』」など、こちらもコテコテ造語のオンパレードだ。好き嫌いは別にして、この時期の岸田氏は“神ってた”と思う。



 その後、主婦と生活社を退社した岸田氏は、『レオン』の対抗誌『ジーノ』(KI&Company/2007年5月号創刊)、さらなる高齢層をターゲットとした『マデュロ』(セブン&アイ出版/2014年11月号創刊)、『ジジ』(GGメディア出版/2017年8月号創刊)を相次いで立ち上げる。「リッチを誇るな センスで光れ!」「いつまでもジジイがおしゃれでやんちゃがいい!」「素敵にジジってますか?」といったコピーセンスは相変わらずだが、雑誌はいずれも長続きしなかった。



 一方、『レオン』は今も健在だ。超久しぶりに買ってみた(2026年1月号)が、「必要なのは“お金”じゃなくて“センス”です!」のコピーもそのままで、表紙モデルはなんとジローラモ。もしかして創刊以来ずっと出ずっぱりなのか!?



 特集は「お洒落オヤジはコートで伊達(ダテ)る」で「モテるモードの選び方」「冬の休日のやんちゃ着」「不良(ワル)な黒でミステリアスに伊達る」「“裏切りの白”で不埒に伊達る」など、見出しのノリもそれなりに健在。しかし、「聖夜までに!大人のオトコができる25Tips♥」として挙げられた小ワザの中に「勝負パンツで己を奮い立たせる」「イヴはエナジーフードをペロリ」なんてのがあるのには、いささか加齢臭を感じなくもない。今のところ「凄十」の広告は入ってないけれど。



 



文:新保信長

編集部おすすめ