2025年の死を振り返るうえで、衝撃的だったのが遠野なぎこ(享年45)の訃報だ。『痩せ姫 生きづらさの果てに』の著者としても、これをとりあげないわけにはいかない。
遠野の死が公表されたのは7月17日。彼女のブログに「親族一同」名義で投稿された「訃報のお知らせ」という記事によるものだ。自宅で身元不明の遺体が発見されてから二週間が経過しており、さまざまな憶測が飛び交うなか、そこにはこんな説明がされていた。
「故人の名誉のため、死因についてもご説明申し上げます。 現在、警察の見解によりますと、事故によるものであり、自死ではございません。 故人は、生前も大切な愛猫のために日々懸命に生きておりました。どうか、皆さまにおかれましても、その想いをご理解いただけますと幸いです。 また、多くの方よりご心配の声を頂戴しておりますが、故人が生前大切にしておりました愛猫は無事に保護され、現在は安心できる環境で元気に過ごしております。 どうぞご安心ください」
長年、摂食障害などで心身の不調を抱えていただけに、健康な人よりは死に近いところで生きていたともいえる。何があってもおかしくないことは本人もわかっていて、18年の7月にはブログにこんな文章も書いていた。
「“摂食障害”と闘っている皆様、この時期は特に体力を奪われお辛いお気持ちになられる事と思います。
ちなみに、彼女は二冊の本で自分の過去を振り返っている。『一度も愛してくれなかった母へ、一度も愛せなかった男たちへ』(13年)と『摂食障害。食べて、吐いて、死にたくて。』(14年)だ。これらを読めば、幼少期からの母親との歪んだ関係や、それによって生じてしまった愛情不安といったものが、心身の不調、三度の離婚などにつながったであろうことが見えてくる。
ただ、彼女はある意味そこを肥やしにして、女優やタレントとして活躍してきた。女優としては、NHKの朝ドラ『すずらん』でヒロインを務めあげたし、タレントとしては自分についても他人についても赤裸々な本音を発信。それが似た境遇の女性たちに共感をもたらした。遠野のインスタグラムには、今もそんなファンたちからコメントが寄せられている。
そこで思い出されるのが、飯島愛(享年36)のことだ。
遠野なぎこ(とおの なぎこ、1979年〈昭和54年〉11月22日- 2025年〈令和7年〉7月3日(遺体発見日))は、日本の女優、タレント。
飯島 愛(いいじま あい、1972年〈昭和47年〉10月31日- 2008年〈平成20年〉12月17日〈死亡推定日〉)は、日本のAV女優、タレント。
飯島が自宅で亡くなっていたことがわかったのは、12月24日。病理検査により、死因は肺炎で、死後一週間ほど経過していたことが判明した。季節の違いこそあれ、どちらも孤独死だ。
また、遠野がそうだったように、飯島も自伝的小説『プラトニック・セックス』(2000年)で少女期の非行や性病感染、整形手術といった過去を告白。こちらはベストセラーとなって、ドラマ化もされた。
飯島は時代の寵児となったが、07年に引退。それでも、ブログなどで性に関する啓発活動を続け、カリスマ性は維持された。それゆえ、死後もブログにファンからのコメントが寄せられることに。
そして、そのブログじまいがある意味、二度目の死だったとすれば、24年の12月には三度目の死ともいうべき出来事が起きた。『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』(TBS系)の終了だ。
この番組は09年以降、年内最後の放送でレギュラーだった飯島を追悼する企画を放送してきた。ところが、25年1月に、中居といわゆる「X子」そしてフジテレビをめぐる騒動が起き、中居の引退によって番組も終了。結果的に、彼女を追悼した24年最後の放送が最終回となってしまった。
心身の不安定な女性たちの代弁者であり、支えようともしていた飯島。そんな女性たちの「新種」みたいな存在が、X子だともいえる。そういう存在によって、飯島の最後の居場所が消えたのは、皮肉としかいいようがない。
さて、遠野や飯島のような死もあれば、それとは対照的な死もある。12月24日に、老衰で世を去った海老名香葉子(享年92)のことだ。
11歳で東京大空襲に遭い、戦災孤児となりながら、亡父の縁で落語家に引き取られ、初代・林家三平と結婚。
エッセイストとしても才能を発揮し、戦争体験を綴った『うしろの正面だあれ』はアニメ映画にもなっている。そのバイタリティーは同学年の黒柳徹子に匹敵、というか、妻や母としての成功を加味すれば、それ以上なのではないか。
そんな海老名の「強さ」を何よりも感じさせたのが、ある「会見」だった。1986年、一門の落語家・林家しん平が元アイドルの桂木文とスピード離婚。しん平が仕事で不在の日に、女将主導による会見が行われた。離婚の原因についても、海老名が説明。「肉体的にも大人ではなかった」「ぬいぐるみを抱いて寝るような子」などともっぱら妻の未成熟さを挙げ、桂木自身も夫から「もっと太って丈夫になれ」と言われたことを明かした。
これについてある女性週刊誌は『林家しん平との〝6か月で離婚〟の一因 桂木文の〝体重減少性無月経〟のつらさ』という記事を掲載している。実際、この会見の三年ほど前、彼女は男性誌で激痩せから回復途上だということを告白。アイドル時代は160センチで50キロだった体重が一時は35キロになり、その時点でも40キロはないように見えた。
また、離婚後もそんな体型のまま、テレビに出たり、ヌードになったりしていたことを思うと、彼女の抱えていた心身の問題は根深いものだったと考えられる。
というわけで、老女将の幸福な死は、そんな四十年前の悲劇も想い起させた。ちなみに、海老名は遺影の写真を自ら指定。亡くなったのがクリスマスイブだったことから、長男の林家正蔵ら子供たちの歌う『ジングルベル』に送られながらの大往生だったという。
その正蔵は喪主あいさつのなかで「うめぇことやりやがったなぁ~」と呼びかけた。そう、人生、上手くやれる人もいれば、その逆の人もいるのだ。それが世の中だと、さまざまな死は教えてくれる。
文:宝泉薫(作家・芸能評論家)
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