「銀座ならどこでもいい」は大間違い。マクドナルド世界記録を生...の画像はこちら >>



今年生誕100周年を迎える、日本マクドナルド創業者・藤田田。さかのぼること1971年。

米が主食の日本にハンバーガーを持ち込み、銀座のマクドナルド1号店は大繁盛。開店から1年後に1日の売上222万円を達成して、当時の1店舗の1日売上の世界記録を更新したのだ。そこにあった緻密な"場所選び"、「10メートルは10キロと同じ」と言う理由とは?伝説の起業家が自身のビジネス発想法を惜しげもなく開陳した『起業家のモノサシ』(KKベストセラーズ)より抜粋して、配信する。





■10メートルは10キロと同じだ=私のモノサシ



〝ロケーション〟という言葉がある。映画の野外撮影でしばしば使用されるために〝ロケーション〟という言葉は「野外撮影」という映画専門の用語だと思っている人が多いが、本来の意味は「場所選定」である。



 マクドナルド商法では、この〝ロケーション〟──「場所選定」をきわめて重視する。



 日本の商人が、念願の銀座へ進出する場合、10人のうち9人までが、



「銀座へ出られるならば、どこでもいい」



 といった考え方をする。じつにおおらかである。ところが、これがとんだ間違いなのだ。



 銀座でも「商売になる場所」、つまり「儲かる場所」と、そうでない場所がある。そして、儲かる場所と儲からない場所は、ものの10メートルと離れていないのである。



 たとえば、私は銀座三越の国道1号線、いわゆる銀座通りに面した場所にハンバーガーの店舗を出したが、この店を銀座三越の裏側に出していたら、こうはいかなかっただろう。

銀座三越の裏手ならば、駐車場はできても、ハンバーガーを売るわけにはいかない。









 Mが銀座三越にあるハンバーガーの店舗である。この店は、銀座1丁目から8丁目へかけての銀座通りの中心である銀座4丁目の交差点から3丁目寄りの8丁目に向かって左側にある。



 Aは銀座8丁目の隣の新橋にあって、銀座通りにつき出すように立っている新橋住友ビル6階にある、私の社長室である。私はいつも社長室に望遠鏡を用意しておいて、銀座の人の流れを見るともなく眺めていたが、長年眺めているうちに、人の流れにも法則のようなものが存在するのに気がついた。



 銀座通りの人の流れは、1丁目から4丁目までは新橋へ向かって左側の往来が激しく、5丁目から8丁目にかけては、反対に右側のほうが人の流れが多いことに気がついたのだ。



 銀座でハンバーガーの店を出すなら銀座三越しかない。私は早くから心の中でそう決めていた。銀座でもっとも人出の多い場所に出店すれば必ず儲かるとにらんだからだ。



 事実、同じ銀座でも4丁目の反対側にあるDという同業者の店は、人通りの少ないだけ客足も少ない。もっとも、マクドナルドとDの差は、単に人の流れの多い少ないだけでなく、品質、味など、いろいろあるが、そういったものを抜きにしても、場所をどこにするかということは商売をする上で基本ともなる大切な問題なのだ。



 たとえば、私がこのマクドナルド銀座店を、三越から築地寄りに10メートルばかりいったところへ開店していたら、1日に150万円とか200万円とかいう売上げを記録できたかどうかわからない。

この10メートルは、じつに重要な意味を持ってくる。



 日本人は標準のモノサシをひとつしか持っていない。10メートルの距離は日本人のモノサシで計る限りあくまでも10メートルでしかないが、商売の上では場所によっては10メートル違うことは10キロ違うのと同じことになってしまう。



 私の場合でいうならば、もしも私が1号店を銀座三越の現在の場所ではなく、銀座4丁目から、10メートル築地寄りに開いていたら、それは銀座4丁目から10キロはなれた場所に店を開いた場合と売上げに大差なかっただろう。



 デン・フジタの商法では、10メートルは決して10メートルではない。10メートルは10キロメートルなのだ。





■業種で場所を選べ



 私が銀座4丁目で成功したからといって、猫もしゃくしも都心に店を構えればよいかというと、そうはいかない。



 私の友人の逢坂久氏は、元日活会長の逢坂弥氏の令息で、現在は逢坂興業の社長として、大阪の千日前の表通りからちょっと入ったところでポルノ映画館を経営している。入場料は100円で、自動販売機で入場券を買ってから入るしくみになっている。



 ところが、これがえらく儲かるというのだ。



 フィルムの借り賃が2万円で、客が300人入って1日に5回転するとすれば15万円、1週間で105万円が入ってくる。



 その逢坂氏があるとき私にこう言った。



「こんなへんな場所でこれぐらい入るのだから、あっちのにぎやかなところへ行ったらもっと入るんだがなあ」



 場所が悪いと言ってしきりに残念がるのだ。



「それは違う。ここだから客が入るんや」



 私は即座にそう言った。



「ポルノっていうのは質屋だ。たとえば、銀座4丁目の角に質屋があったら、はやると思うかね。客は一人も入らないね。質屋は人目にたたんところにあるから営業が成り立つんだ。ポルノだって同じだよ。こんなへんな場所にあるから客が入るんだ」



 商売の種類によって、店をどこへ出すか、条件がかわってくる。表通りにするか裏通りにするか、いずれにしても場所選定(ロケーション)が重要であることにかわりはない。



 ホームレスでも人通りの少ない裏通りで商売したら干上がってしまうくらいのことは知っている。乞食は乞食なりに、ちゃんとロケーションを重要視しているのだ。



 まして、金儲けをしよう、と思うなら、場所の選定をあやまってはならない。





■軒先を借りよ=他人の軒先を借りて年商60億円



 ハンバーガーが成功したもうひとつの要因は、私が考え出した販売方法にある。



 ハンバーガーが本家のアメリカでは、椅子とテーブルのあるスタイルで売られており、客はテーブルやカウンターで、普通の料理を食べるように椅子に腰をおろして食べる。私は、それを日本では、他人の軒先を借りて立食いさせる、現在のスタイルに変えたのである。



 デン・フジタの商法では「10メートルは10キロメートル」であるから、銀座ヘハンバーガーの店を出すにしても、限られた数ヵ所しか適地はない。ところが、そんな場所は、地価がべらぼうに高い上に持ち主が手放さないから、買収して店舗を構えることは、しょせん不可能である。



 しかも、従来は、レストランという商売は、1日に客が何回転するかで商売が成り立つ職種であるといわれていた。ただでさえ狭く、地代が高い銀座で、テーブルと椅子をすえて1日何回転などといっていては、メニューの値段を目の玉が飛び出るぐらい高くしなければ、儲かるどころか大損をしかねない。もちろん、100パーセント・ビーフが45グラムも入っているハンバーガーを1個120円という良心的値段で売っていては、たちまち破産してしまう。



 はじめ、私は日本の中心である銀座で、ハイライト1個分の値段でハンバーガーを売りたかった。ハイライト1個分の80円なら、大衆は「安い」と感じてくれるのではないかと考えていたからだ。



 アメリカではハンバーガーの値段は1個20セントである。

私が銀座店をオープンした当時の「円」と「ドル」のレートは1ドル=360円だった。20セントは72円に相当する。



 アメリカでは72円だが、日本では牛肉とか牛乳などの材料が若干高くつくから、1割は高くなるのはやむを得ない。その場合でも、私は最高を80円でおさえたいと考えていた。



 そのためには、店舗の地代に高い金をかけるわけにはいかない。



「銀座の一等地に何とか地代のかからない店を開くことはできないだろうか」



 虫がいいかもしれないが、私は本気でそう思った。



 そして私は、軒先をちょっと借りることを思いついたのである。軒先を借りて立食いさせるのならば、銀座の繁華街の好きな場所を選ぶことができる。



 しかし、私が、ここなら、と目をつけた場所のうちの何ヵ所かが、軒先を貸すことすら断わってきた。



 ただひとつ、私が初めから目をつけていた特等地、銀座三越は岡田茂・元社長の英断で、軒先を貸そうと私の申し出を快諾してくれたのだ。



 しかし、日本の場合〝立食い〟というと、駅のソバ屋のように、どことなく、うらぶれムードがある。だからといって1個80円という安いハンバーガーをうらぶれムードで売ってはイメージ・ダウンである。

インテリや女性客をつかむことはできない。そこで、私は銀座三越にハンバーガー店をオープンするに当たり、明るくモダンで清潔な立食いのイメージでいくことにし、うらぶれムードは一掃した。



 作戦は図に当たり、明るくモダンで清潔なマクドナルドの立食いに、若い女性客が殺到した。つられて男の客がくる。外国人がくる。ヤングがくる。ハンバーガーは爆発的売行きを示した。



 こうなると、英断をくだした三越とは逆に、妙にノレンにこだわって、マクドナルドのハンバーガーに軒先を貸すことをためらったり拒んでいたところまでが、モミ手で私のところへやってくるようになった。



文:藤田田



《『起業家のモノサシ』より構成》



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