森博嗣先生が日々巡らせておられる思索の数々。できるだけ取りこぼさず、言葉の結晶として残したい。
第17回 宝と自然浄化のお話
【地下に埋もれた宝の山】
屋外はずっと氷点下だから、最近は地下室で暗躍中。線路を敷いて、機関車を運転できるようにしたのだが、雑然とした雰囲気が気になり、少し整理をして活動スペースを広げよう、と思い立った。具体的には、積み上がっていた段ボール箱を移動したり、照明器具を新たに設置し、スチール棚やデスクも増設、多少はコンフォートというかアメニティというか、居心地の改善を目指している最中である。
線路が完備しているおかげで、本が詰まった重量級の段ボール箱を移動するのも簡単。貨車に載せてトロッコのように押していくだけ。箱の中身は自著なので見る必要がない。しかし、作業は遅々として進まない。何故なら、それ以外の箱から懐かしいものを見つけ出し、あれこれ吟味するのに時間を要してしまうからだ。
妹が買ってもらったリカちゃんといづみちゃん人形とか、古い写真とか、掛け軸、茶碗、壺などの骨董品(親父の趣味)、10kgくらいある大きなシャープの電卓、天秤、壁時計(これらは僕の趣味)、ホットウィール(ミニカー)が約600台以上、引退したラジコン飛行機約30機、100年近くまえの鉄道模型のセット各種、売れ残った同人誌、大学時代の研究資料、エトセトラ。
もちろん、使えるものも多い。未製作のキット、未使用のパーツ(エンジンや無線機)、各種線路など豊富である。残りの人生で消費するのに充分な量と断言できる。若い頃の僕が、年寄りになったときのために買い込んでいたものだ。
いずれインフレになるから、なるべく買えるものは買って溜め込んでおこう、と考えたのが、だいたい30年まえのこと。そのときはすぐにも物価が上がると予想していたのだが、なかなか上がらなかった。むしろデフレが続き、僕が欲しいものは安くなった。
それに、円高だったから海外のものが大安売りのセール状態だった。将来きっとこれで遊べるというキットやパーツも買い込んだ。それらがすべて倉庫で眠っている。地下にある品々の多くも、このように自分の趣味の将来性を見込んでストックしたものである。
さて、ようやくインフレになった。いつも未来を少々早めに予測しすぎる傾向がある。溜め込んだ量も多めになった。今はもう買わない。買う必要がない。これまでに買ったものを残りの人生で楽しく消費していこう。ほらね、お金を貯めるよりもお得だったでしょう、といったところ。断捨離とかで持ち物を処分していた人たちとは真逆の方針が、ようやく開花したわけである。
【「政治と金」と「消費税」問題】
物価高騰で国民は怒っているらしい。身近な不満といえる。また、政治家が金を受け取ることに怒りを覚える人たちも多い。「汚い」という言葉で抗議することになる。
ところで、僕が気になるのは、選挙の公約として「減税」や「補助金」の数字を具体的に挙げていること。これって、票を金で買っているのとほぼ同じなのでは、と思えるのだがいかがだろうか。そんな目先の金に惑わされない人もいるし、少しでも自分の懐が温かくなればと惑わされる人もいるだろう。惑わされて一票を投じたら、それこそ「汚い」のでは、と感じるのだけれど……、どこか間違っている?
選挙で争点となっているらしい消費税については、僕はもう何十年もまえから(つまり消費税ができるまえから)一貫して「賛成」の立場である。簡単にいえば、収入を隠している人(主に金持ち)からも税が取れるからだ。消費税は貧乏な人たちを苦しめるかもしれない。しかし、消費税を多く払っているのは金持ちであり、もし消費税をなくしたら、金持ちほど得をする。それこそ「ほくほく」だろう。
貧乏な人は、消費税しか税金を払っていない場合もある。その金額は多くても数万円だろう。
金持ちは、何億、何千万の買い物をするから、消費税も何千万、何百万になる。所得は経費を捏造して隠せるが、消費は相手があることなので隠しにくい。お金を使ったときに税を取るのが消費税であり、将来お金がデジタルになれば流通税として自動的に徴収できる可能性もある。より公正なシステムが構築できるだろう。
今、食品の消費税を下げても効果はほぼ望めない。食品を売っている店は、その分を値上げせざるをえないからだ。一時的にちょっと「嬉しい気分」が得られても、生活は楽にはならない。わかりきったことなのに、ほとんどの政党が消費税を下げるとアピールしている異状さは、たぶん世界から嘲笑の目で見られているのでは。ちょっと得した気がしたい」だけでも票を入れてくれる、と大衆は舐められているのかな。たとえるなら、野菜詰め放題のイベントみたいなもので、選挙が「客寄せ」になっているみたいな光景で、かなり恥ずかしい。
ちなみに、政治的な話題はなるべく書かないことにしている。他者に影響を与えたくないし、自分の意見を押しつけたくないし、人を巻き込んでつるみたくない、といった理由からだ。
数十年まえからぼそぼそと書いてきたことの中では、電気自動車は時期尚早、原子力発電はまだ必要、太陽光発電も風力発電も自然破壊、テレビと新聞の報道は極端に左寄り、新聞はいずれ消える、などがある。当時は誰も信じなかったことだけれど、最近になって、現実味を帯びてきた。
【社会は自然浄化で正される?】
日本の政治の動向を見て、まあまあ良い方向へ少しずつだが向かっているかな、という印象を持っている。よろよろとよろけるようなときがあっても、大雑把に評価すれば、それほど悪くはない。80年も戦争をせず、安定した平和が続いているのは幸いだ。
最近は、少し右に振れているとの見方をする人もいるが、それよりも、左寄りが弱くなったにすぎない。何故弱くなったかというと、左寄りの政治家やマスコミの人たちが、あまりに口汚く反対を続けたからだ。最近の若者たちは、こういう下品な攻撃性を生理的に好まない。いくら意見が違っていても上品であるべきだ、と眉を顰めている。
強い口調で反対しなければ聞いてもらえない、という精神が既に古いといっても良い。
国会での野次なども、以前からやめた方が良いと書いてきた。最近になってようやく、そう感じる人が多数派になったようだ。しかし、野次っている当事者たちがまだ気づいていない。相手が意見を述べているときに割って入り、非難や否定をするような論法も、今では下品な行為とされる。それをすることが相手を論破する手腕だ、と考えている古い世代がまだいるが、時代は変わったのである。以前からそうなる方が良いと思っていたことが、だいたい実現しているから、僕は心穏やかになれた。半分くらいではあるけれど。
この歳になって、ぶつぶついわなくても良く、黙ってにこにこしていられるのは、気楽なことである。僕はなにも努力をしていない。僕が世の中を変えたわけではない。働きかけたことさえない。ただ、自然に世の中が変わってきた。将来きっとこうなっていくだろう、と想像したとおりになった。誰かに感謝しなければならないのかな?
ひとついえるのは、正しくないことを信条にしていると、どうしても焦ってしまって、他者に対して攻撃的になるだろうし、また、そうした言動が大勢を自然に遠ざけるから、これは自然浄化のような仕組みによるものかもしれない、と考えられること。
それとも、社会を正そうと心血を注いだ人たちがどこかにいたおかげか? そんな様子は観察できなかったけれど、見えないほど謙虚なヒーロだったのだろうか?
【人間に期待しなければ……】
基本的なことをいえば、僕は人間に期待しないように努力している。期待しない、といいきれないのは未熟だからだ。よほどの天才でないかぎり、一人の人間が社会を変えることは、特に現代においては困難で、確率が極めて低い。誰がリーダになっても社会は劇的には変わらない。これまで生きてきて痛感している現実だ。
何故そうなったのか。それは、一人の人間が簡単に社会を変えられないような仕組みを作ったからだ。一人の人間に期待することの危険性を学び、それができないようなシステムを築いた。人間に期待することから、人類は卒業したのである。一人の人間に代わるものは、今では複数の人間である。今後は、もう少し違ったものになってくるだろう。そこにAIが絡んでくることは、ほぼ確実である。
今回の話題は、インフレに備えて物持ちになったり、消費税のこと、左寄り衰退の原因、そして、ほんのりAIへの期待、と脈絡なく方々へ飛び散る花火のように錯乱してしまったが、実はこんな「飛び火」こそが、ときには必要であり、つまりは人間らしさ、あるいは人間の価値、といえるものだということを忘れないように。
一年で最も低温の時季がそろそろ終わり、太陽も高くなってきた。まだ地面が凍っているから屋外で線路工事はできない。また風が強い日が多いから模型飛行機にも向かない。大人しく読書をするか、ネットでドラマを見るか、犬と遊ぶか、といった穏やかさを満喫するこの頃である。
文:森博嗣
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