人はなぜ「さっそうと歩きたがる」のか。その背後には、他人の視線を失うことへの恐怖がある。
■ちやほやされたいだけの人生
2月15日、百田尚樹が「別に日本保守党が無くなってもいいけどね。日本が亡くなり(ママ)さえしなければ」とツイート。初めて意見が一致した。100パーセント同意する。
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これは百田のお馴染みのパターン。SNSでは定期的に「小説家を辞める」と言い出し、注目を集めようとする。
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人間は多かれ少なかれ他人にちやほやされたいものである。がんばって何かを達成したとき、褒められるとうれしくなったりする。しかし、道を間違うと、ちやほやされること自体が目的になってしまう。そして周囲がちやほやしてくれないと癇癪を起したりする。
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百田は、気に入らない素人のアマゾンのレビューに対し、実名や社会的地位の暴露を示唆して圧力をかけたこともある。「ちやほやされたい」病に冒されると、人間は際限なく下品になる。
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こういう人間を甘やかすメディアも悪い。こともあろうか2019年10月、新潮社は百田をちやほやするために、「ヨイショ感想文求む」というキャンペーンを開始。新潮社の公式ツイートには、「百田先生を気持ちよくさせた20名の方に、ネットで使える1万円分の図書カードを贈呈」とあり、アイコンには上半身裸で金粉が塗られた百田の画像が使われていた。
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これに対し「気持ち悪い」と非難が殺到。新潮社は謝罪し、企画は中止になった。このキャンペーンにはご丁寧に「例」まで提示されていた。
「『国語の教科書にのせるべきだ』読了後、最初に心に浮かんだ気持ちだ。この作品は人生に必要なすべてをおしみなく読者に与えてくれる。知らぬ間に涙が頬をつたっていた。『そうか。この本と出会うために、僕は生まれてきたんだ』」
ずいぶん安い人生だな。情けなくて涙が出てくる。
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ショーペンハウエルは、自尊心と虚栄心を明確に区別した。
「誇りとは、自分自身の圧倒的な価値に対する、すでに確立された確信である。これに対して虚栄心とは、この確信を他人のうちに呼び覚ましたいという願望である」(『余録と補遺』)
要するに、小さい人間だから虚栄を張る。
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部下とカラオケに行きたがる上司がいる。上司が歌い終わると、部下は何かしら感想を言って拍手したりする。あの空気は耐えられない。ほめるほうもほめられるほうも気持ちが悪い。他人の評価などどうでもいい。腐った社会で評価されるものは大抵腐っている。
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私がよく行っていた鮨屋に質の悪い常連客がいた。カマキリみたいな顔をした建設会社の社長で、部下を三人くらい連れて、よく説教していた。迷惑極まりない。部下の説教ならてめえの会社でやれと。
■自分を小さく見せる技術
私はクルーズ船に何度か乗ったことがある。長期のものはないが、シンガポール発の1週間程度のものには何回か乗った。当時は1シンガポールドルが70円くらいだったが、そのコインをそのまま使うコイン落としゲーム機が船のカジノコーナーにあった。時間を狙っていくとコインが積んであり落としやすいので、1日3万円くらい儲けた。しかし船の上は退屈で、3日か4日が限界である。
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そこで長期のクルーズ船は客を退屈させないために様々な仕組みを作っている。それに参加することで、乗客は顔なじみになり、疑似社会が発生する。私の知人は「日本から出発するクルーズ船には絶対に乗らない」と言う。なぜなら、乗客のマウント合戦が始まるからだ。元官僚みたいなのを頂点に、三井、三菱、住友……系列ごとにグループができ、序列が形成される。医者や大学教授なども一定の地位を得る。
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ちやほやされたい人間の周辺には、ちやほやするお調子者が必ず現れる。そこから距離を置けば、地上にいるときと同様、空気を読めない奴、変わり者扱いされる。
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私の知人は某社の社長だったが、マウント合戦に巻き込まれるのが嫌だったので、正体を隠していた。彼によると、自分を小さく見せるにしてもコツがあるらしい。中途半端なキャラ設定をすると、途中でばれて、詮索されたりする。かといって、ダメそうな経歴にすればいいという単純な話でもない。「長年刑務所に入っていた」などと言えば、今度は子分体質の人間が近づいてきて「親分」とゴマをすったりする。
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こうした地上社会の延長のようなクルーズ船には乗らないに越したことはないが、逆に言えば、現役時代のちやほやされた感覚を忘れることができない寂しい老人が乗るのだろう。
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さりげなく自分を小さく見せるのは難しい。大きく見せようとしてかえって小さく見え、小さく見せようとして大きく見られるというパターンがある。
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某出版社に小川という変わった編集者がいた。そいつは頭がおかしくて、突然激高したり、著者に絡んだりしていた。普通だったら問題になるが、当時、担当していた本が売れていたので、編集部内では腫れ物に触るように扱われ、放置されていた。
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ある時、編集長が見るに見かねて、「君は一体、最終的に何をしたいんだ」と聞いた。すると、小川は「僕は編集部内をさっそうと歩きたいんです」と答えたという。要するに、「ちやほやされたい」というのが最大の目的だったのだ。新宿のイベント会場でちやほやされなかったことが不満で怒り狂っていた某国立大学大学院教授を見たこともある。
自意識は肥大するほど醜くなる。
そして、本人だけがそれに気づかない。
文:適菜収
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