子供の頃から雑誌が好きで、編集者・ライターとして数々の雑誌の現場を見てきた新保信長さんが、昭和~平成のさまざまな雑誌について、個人的体験と時代の変遷を絡めて綴る連載エッセイ。一世を風靡した名雑誌から、「こんな雑誌があったのか!?」というユニーク雑誌まで、雑誌というメディアの面白さをたっぷりお届け!「体験的雑誌クロニクル」【32冊目】「真のストリート系『アクロス』と『東京グラフィティ』」をどうぞ。
【32冊目】真のストリート系『アクロス』と『東京グラフィティ』
ストリート系ファッション誌というジャンルがある。1986年創刊の『Boon』(祥伝社)を先駆けとして、その女性版『Zipper』(祥伝社)が1993年創刊。さらに、いわゆる裏原宿ブームに乗って、『COOL TRANS』(ワニブックス)、『smart』(宝島社)、『STREET JACK』(ベストセラーズ)といった雑誌が次々に登場した。
『Boon』と同じ1986年にはその名もズバリ『STREET』(ストリート編集室)というストリートスナップ専門誌が創刊されている。1997年には姉妹誌として原宿のストリートスナップ誌『FRUiTS』(ストリート編集室)も創刊された。
いずれも2~3回は資料として買ったことがあるし、それらの雑誌の写真はオシャレでカッコいい。定番企画のストリートスナップも、当然ながらオシャレな人を選んでいるわけだ。それはそれで全然いいのだが、個人的には気合の入った“よそゆきファッション”を見せられても、「あー、オシャレですねー」で終わってしまう。『STREET』なんて、ストリートスナップといってもパリとかミラノとかロンドンとかニューヨークのファッションピープル中心なので、現実味がない。
然るに一方、そんなストリート系ファッション誌よりも早くから、ストリートスナップを撮り続けている雑誌があった。1977年創刊の『月刊アクロス』(パルコ/1994年5月号より『流行観測アクロス』)。その1980年9月号からスタートして1998年7月号の休刊まで209回続いた名物企画「定点観測」こそ、正真正銘のストリートスナップだった。
渋谷、新宿、原宿(のちに大阪もプラス)の各地点で、特定のアイテムを身に着けている人をカウントし、写真も撮る。対象となるアイテムは、ファー付きコート、ロングブーツ、デッキシューズ、ペタンコ靴、水玉・ストライプ柄、エスニック柄、キャラクターロゴ、フード付きトップス、ヒザ丈スカートなど多種多様。単品アイテムだけでなく、ボトム重ね着、男女シャツ・エリ出し着用、ジーンズのスソ折返し、パンツ+幅広ベルトといった着こなし部分に注目することもあれば、ダンゴヘア、ソバージュヘア、ロングヘアの前髪アップ、男性長髪など観測対象は髪型にも及ぶ。
「定点観測」というからには、毎回条件をそろえなければならない。場所は、渋谷・パルコ前、新宿・紀伊國屋書店前、原宿・千疋屋前、大阪・心斎橋パルコ前と決まっている。観測日は、毎月第一土曜日(正月は三が日を過ぎた最初の土曜日)を基本とし、87年5月からは毎月最終土曜日に設定。〈スタッフは、午後1時半から2時半(80年8、9月のみ2時から3時)の1時間にカウントを行ない、駅のほうから来て定点側の歩道を通り過ぎる女性通行人、男性通行人(82年3月より)、女性スカート着用者(81年8月より)、その月のテーマアイテム着用者を数える〉(アクロス編集室『東京の若者 渋谷・新宿・原宿「定点観測」の全記録』PARCO出版局/1989年)のだ。
天候その他の条件により変動はあるが、各地点の通行人数は1500~5000人ぐらい。それをカウントし、アイテムを確認し、撮影し、82年4月号からはピックアップした人にインタビューも行っているのだから、その労力は想像を絶する。前掲書によれば〈インタビューする人に対して、身長、体重、足のサイズから始まって、身につけているすべてのアイテムについて色・素材からブランド名、購入場所・年月まで〉記録するというから、1時間の観測を終えたあとのスタッフはクタクタだろう。
〈創刊当時から常にマスマーケティングにアンチテーゼを投げ掛け、文字通り「路上」で観察することで、変動する消費者のライフスタイルをよりヴィヴィッドにキャッチできると確信していた『アクロス』が考現学に注目したのは自然な流れといえる〉とも記されているとおり、それはまさに今和次郎が提唱した「考現学」の手法そのものだ。
実際の誌面は、データ、概説、写真、キャプション(写真説明)で構成される。
そこに掲載される写真は、ファッション誌のそれとは一味違う。基本、オシャレではある(そういう人を選んでいるのだろうし、そういう人のほうが撮影に応じやすい)のだが、総じて生っぽい。ライブ感、もしくは生活感があると言ってもいい。
生活感といえば、1991年頃に始まった連載「今月の消費生活」もそう。社会人から高校生まで、いろんな普通の人々が毎日使ったお金を1カ月分、その日の行動も併せて記録した支出カレンダー的なものを掲載。支出額の合計と「住居費」「外食費」「交通・通信費」「遊興・教育費」「ファッション費」といった費目ごとのグラフに加え、職業はもちろん学歴や居住地、居住形態、手取り収入、貯蓄額、ローン、習い事や趣味、ここ半年の大きな買い物、最近読んで面白かった本や雑誌、簡単な自己紹介(近況)などのパーソナルデータも記載されている。
何がすごいって、その支出カレンダーが極めて細かく具体的なのだ。たとえば29歳・女性・派遣社員の1997年5月8日(木)の支出は次のとおり。
〈切手(80×2)(芝郵便局):160/あぶらとり紙(コーセー)(田町/慶愛堂):262/昼食(おにぎり×2、カボチャコロッケ、ゴボウサラダ)(田町/大丸ピーコック):676/カフェオレ(社内自販機)70/公団空屋募集申込書(有楽町/そごう):260/夕食(串焼き、ビール)(新宿/串焼TOPS):4,000/◇地道に公団入居をねらっている私。家賃は大きい!!〉
どうです、このリアルな生活感! ちなみに、この女性の手取り月収は約23万円で、その月の支出総額は15万151円だった。そのうちNOVAの英会話授業料に1万5000円、趣味の芝居のレッスン料に2万円を支払い。食事は麺類が多く、パンも好き。セブンイレブンの黒糖ロールを1カ月で4回買っている。名前こそ出てないものの、顔写真は掲載。当然、なにがしかの謝礼は出ているのだろうが、ここまでプライベートを明かして大丈夫かと、ちょっと心配になったりもする。
もうひとつ好きな企画が「潮流解剖・チャート年表シリーズ」だ。誌名を『流行観測アクロス』に変更した1994年5月号からスタートした企画で、「海外旅行の30年史」「ジャパン・ポップスの30年史」「クルマ文化40年史」「住まいの50年史」「海外旅行の30年史」「パンの30年史」「夜の過ごし方20年史」「コンビニエンス・ストアの30年史」「学校の30年史」といったテーマで、時代の流れをチャートで見せる。
いろんなチャートを見ているだけでも楽しいし、仕事上の資料としても役に立つ。
そうした連載企画のみならず、特集の着眼も面白い。私が同誌を手に取るようになったのはリニューアルした94年からだが、「『アラウンド30歳』女性、急変貌!」「ヘタウマ世代のクリエイティブ感覚」「公園に集まる“東京犬”徹底調査」「シブヤ系VSアキバ系 オタク大調査」「恋愛コンシャス気分のカップル消費」「レディスを着こなす男のコたち100人調査」など、気になるテーマが目白押し。基本的にデータ主義なので、分析が当たっているか外れているかは別にして、データだけでも「へぇ~」と思う。
しかし、『流行観測アクロス』は1998年7月号にて休刊となる。前号まではまるでその気配もなく、普通に定期購読の受付もしていた。休刊号巻頭の「休刊宣言」は、21年間の歩みを振り返る内容だが、編集後記には突然の休刊への戸惑いがあふれる。
〈突然の休刊宣告でした……。が、たとえ「居場所」が変わっても、いろんな事象を面白がり精神で捉えて分析する“広義なファッション・ジャーナリズム”は追いかけていくつもりです〉〈世の中って…会社って…ハア~。残念だけどこれが現実〉〈昨年の12月に入社したばかりなのに、先月からひとり暮らしをはじめたばかりなのに、そして昨年秋、A社で新創刊した雑誌の休刊に立ち会ったばかりなのに、また!?〉
特に最後の方にはご愁傷様としか言えないが、読者としても残念だった。それでも同誌の記事をもとにした単行本は、前出の『東京の若者 渋谷・新宿・原宿「定点観測」の全記録』をはじめ何冊も出ていて、私も資料として重宝している。
そして、もう一誌、真のストリート系と呼びたいのが、『東京グラフィティ』(グラフィティマガジンズ/グラフィティ)だ。
創刊は2004年10月号。巻頭の「Tokyo beauty 街で見つけた美少女フォトギャラリー」に始まり、下北沢・銀座・秋葉原・巣鴨・渋谷・二子玉川・横浜・湘南のオシャレさんたちが登場する「LOCAL STYLE」、同棲カップルとその部屋を撮った「同棲アルバム」、男女各100人に同じ質問(創刊号では「初チューはいつ、どこで、誰と?」)の回答を顔写真とともに掲載する「100answers」、文字どおりの「STREET SNAP」まで、とにかく“普通の人”の写真とデータで誌面が埋め尽くされている。
圧巻は、街ゆく人々に自分の考えを書いてもらうコーナー「VOICE2004」だ。第1回の質問「あなたにとって生きる意味ってなんですか?」というデカすぎテーマに総勢349人(数えた)が回答。それぞれの答えを書いたホワイトボードを持った写真が19ページにわたってずらりと並ぶ。街頭キャッチだけでなく、神父・牧師・僧侶、ホスト・キャバ嬢といった特定の職業の人々に取材もしている。
これほど多くの人が登場する雑誌はなかなかない。編集後記には〈約2ヶ月、炎天下の中ほぼ毎日取材で美白の私もすっかりまっくろくろすけに。この雑誌に出てる人の20倍は声掛けてます〉なんて記述もあり、スタッフはさぞかし大変だっただろう。
というか、雑誌の作り方としてはコスパ悪すぎ。なのに480円って、大丈夫か。こんな無名の一般人ばっかり出てくる雑誌が続くのか。最初は物珍しさがあって手に取っても、すぐに飽きられるんじゃないか……という外野の心配をよそに、2024年10月号(179号)にて同誌は創刊20周年を迎えた。
表紙に並ぶバックナンバーを見ていると、試行錯誤の様子がうかがえる。創刊当初の人海戦術から、特集主義へ移行。「働くギャル」「自撮り部屋百景」「LGBTQ+カップル大調査!」「バッグの中身見せてください」「夏のビーチ写真集」「人生最大のピンチを乗りきったはなし。」「オープン“エロ”ガールズ」など、ちょっと覗いてみたくなるテーマが並ぶ。看板企画のひとつ「タイムスリップ写真館」(昔の写真を同じメンバー同じ構図で再撮影する)の特別編で、創刊号に登場したヤマンバギャルや表参道キッズ、下北沢パンクロッカーらの今の姿が見られるのも楽しい。
表紙や特集内のコーナーに著名人が登場するケースも途中から出てきたが、普通の人が主役であることは変わらない。20周年記念号の巻末に記された「日常のリアル 時代のアルバム」「ストリートのきらめきを、メディアへ」というキャッチコピーは、言い得て妙だ。20年経っても488円と消費税増税分しか値上がりしていない、というより本体価格は457円から444円にむしろ値下がりしているのもすごい。
ところが、そのわずか2号後(当時は季刊)、2025年4月号(181号)をもって同誌は休刊する。〈あれから21年間、こんな小さな雑誌出版社が続けてこれたのは、多くの「人」に恵まれたせいだとつくづく思います〉という編集長兼代表取締役の鈴木俊二氏が、巻末に丸々1ページを使って綴った感謝の言葉はなかなかに感動的だ。編集部員たちのコメントも愛に満ちている。
しかも同年10月には、廃業予定だった版元の株式会社グラフィティを編集部とファン有志が事業継承することになるというまさかの展開。〈人間やカルチャーを一番低いところから見つめ、共感しあう眼差しで。ゆるりとリスタートします〉という新編集長とファン代表連名のメッセージは、まさにストリート系というか草の根系だ。とりあえずウェブとSNSは稼働している模様だが、できれば紙の雑誌も復活してほしい。
文:新保信長
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