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経済力を盾に家族を威圧する父。何も言えず、父の機嫌に左右されながら生きる専業主婦の母。

真理さんは、医師の家庭に生まれながらも、長い間ある「不自由さ」に縛られてきた。そんな光景を目にしながら強く願ったのは「誰にも養われない人生」だった。43歳になった今、「私の人生は私のもの」と語れるようになった彼女の歩みを、ミドル独女の当事者であるライターが聞いた。《#ミドル独女~私たちのホンネ~》シリーズ。





■自分の足で立ちたくて看護師になった



 真理さん(仮名 43歳)には看護師として15年ものキャリアがある。まずは仕事のことから聞いてみた。



 始まりは東日本大震災と重なった専門学校の卒業式。その日、東北の看護学校の卒業生が天井の崩落で命を落としたニュースを目にした。その後、仲間からバトンを託されたような思いで仕事に打ち込んできたという。



 現在は製造業を営む企業の産業看護職として、社員のストレスチェックを行ったり、健康相談に乗ったりしている。



 エッセンシャルワークとして、やりがいの大きい仕事だ。だが、そもそも真理さんが看護師を選んだのは「女が一人で食ってくのに困らないから」という面が大きい。



「もちろん、病気の人の力になりたいという思いもあったんですけど、職場を選ばなければ一生資格で食べていけるじゃないですか」



 資格で言えば、10個ほど持っていて、「小さい会社なので、経営の話が分かるようになれば役に立てるかと思って」と最近は簿記も取得したという。



 この仕事に対するハングリーさは、真理さんの家庭環境が大きな影響を与えている。





■経済力のある医師の父が家庭を支配



 真理さんの父の職業は、産婦人科医だった。



 地域住民にとっては頼れるドクターであり、「お産のとき、お父さんの病院でお世話になりました」と周りの人に言われることも多かった。真理さん自身「医師としても医療従事者の先輩としても尊敬するところはある」と考えている。



 しかし家庭では、まったく違う顔を見せていた。



「感情のままに行動する人でした。子どもたちには手は出さないけど、物に当たる人なんです」



 成績が悪ければ怒鳴られる。勉強をせずファミコン(ゲーム機)で遊んでいたときは、窓からファミコンを投げ捨てられたこともあった。



 4人兄弟の2番目である真理さん。医師の家庭であることから、長男は医学部に進むことを期待された。しかし、長男は医師にはなりたくない。

葛藤の末に引きこもりになり、やがて家で荒れるようになった。本人の希望を聞かずに、親の望みを押し付けようとしたことへの反発だった。



 父の威圧を可能にしていたのは、その経済力だ。



「稼ぐ人なので『俺がいないと生活が成り立たないだろう』という態度でモノを言ってくるんです。母は専業主婦だったし、我々も父のお金で生きていたので、そこは逆らえないというか。父が『お金を出さない』と言ったら、何もできなかったので。そういう意味で、母も子どもも『機嫌取り』せざるを得ませんでした」





「全部録音してます」経済力で家族を支配する父にリベンジ。43歳看護師が“誰にも養われない人生”掴むまで【谷口友妃】
頼れるドクターだった父は家では違う一面を見せていた



 お金持ちの親のもとに生まれても、真理さんは「不自由」だったのだ。



「通帳でお金の減り具合をこまめにチェックして『何に使ったんだ』と言ってくるんです。お小遣いをもらうときも、父の機嫌を気にしながらお願いしなければいけませんでした。私自身は裕福だった感覚はありませんでした」



 子どもたちにとっての救いは母だった。明るくやさしい母は、父が暴言を吐くといつも子どもたちを庇ってくれた。それでも、父から母への暴言には言い返せない。



「何も言えない母を見てきたので『専業主婦になるのは絶対イヤだ』と思っていました。自分のお金は自分で使いたい。『養われる』なんてすごくイヤだなと」



 だから真理さんが、早くから「手に職を」と考えたわけだ。





■10代の頃から感じていた周りとの“違い”



 自立への強い意思。そこには、もう一つ理由がある。



「10代の頃から誰かに恋愛感情を抱くことがないんです。人間として『好き』という思いや尊敬はあります。でも、恋とか愛とか性欲とか、そういうの全く抱かないんです」



 もちろん、初恋の想い出もない。



「女子校だったので、みんな合コンに行ったり、男子校の文化祭に行ったりして出会いを求める。もう、なんか、自分の価値観となじまなくて。かといって、女の子に対してそういう気持ちになることもない。何だろうなってずっと悩んでいたんです」



 あるとき、「アロマンティック・アセクシャル」という言葉に出会った。

「アロマンティック」(他者に対して恋愛感情を抱かない)と、「アセクシャル」(性的に惹かれない)という単語を合わせたものだ。



「『これだ』と思いました。いわゆるLGBTQ+の"プラス"に入るような感じですよね」



 アロマンティック・アセクシャルだと気づいた10代のとき、真理さんは「結婚も出産も自分の人生にはない。だから、私から孫というのはないよ」と母に伝えると、「あなたの人生だから好きにしたらいいよ」と温かい反応が返ってきた。パートナーに支配される苦しさに耐えてきた母は、娘の人生を縛らなかった。



 しかし、周りは恋愛に対する真理さんの戸惑いが分からない。心ない言葉に拒絶反応も出た。



「男性から『女は愛されてなんぼだぞ』とか『子どもを産まないなんて』とか、かなり言われたんです。でも、『私の人生だから私の自由だ』と思って、罵詈雑言を返していました」



 真理さんは、10代の頃から「いかに男性を言い負かしてやるか」といつも理論武装していた。そのエピソードは、父への怒りを募らせてきた歴史を思わせる。



 人生経験として合コンにも行ったことがある。しかし、肌に合わなかった。



「市役所の職員さんとの合コンだったと思うんですけど、話は盛り上がらないし自分の話ばっかりするし、仕事の愚痴ばっかりで全然面白くなかったんです。連絡先も交換しないで解散しました。女同士で飲んでる方がずっと楽しかったです」





■真理さんにとっての「幸せ」と「孤独」



 恋愛や結婚には興味が向かない真理さん。幸せを感じるのはどんなときだろう。



「仕事が充実しているし、それだけですごく幸せなんですよね」



 オフの時間も、幸せのハードルが低い。



「美味しいものを食べるときは幸せです。それから、美味しいお酒に出会ったとき。自分で美味しいおつまみを作れたとき。適当なレシピで美味しい和え物ができたときとかも。お酒を飲みながら、ダラダラ好きなYouTube動画を見ているときも。それに、その日の仕事で頑張ったことを振り返りながら疲れて眠るときも幸せです。その積み重ねで、毎日、幸せだなと思っているんです」



 意外な趣味もある。

プロレス観戦だ。



「プロレスを見ていると『社会の縮図』を見ている気分になるんです。若手の追い上げと大御所の圧力に挟まれながら、どうにか頭一つ飛びぬけようと奮闘している選手を応援したくなるんですよね。友達に誘われて初めて見に行ったその日にファンクラブに入りました」



 前回取材した瑞希さんもそうだったが、好きなことを見つけて行動できる人は、人生を楽しむのが上手い。何のために時間を使いたいかが、分かっている。



 孤独を感じるときはないのだろうか。



「患者さんが亡くなるとき、家族や親戚に囲まれていても死に対しては一人で向き合うことになります。その“分かち合えない苦悩”が、私にとっての孤独のイメージなんですよね」



 テレビなどでは、独り身の方の孤独死を心配する声がニュースになる。



「孤独死もいろんな背景があると思うんですよね。病気があっても外に出られないとか、本当に人と関わるのが嫌になってしまったとか、体が動かなくて出られなくなったとか。一概に孤独死という言葉だけでは片付けられないと思います。気の毒だな、かわいそうだなという前に、何でそういう状況になってしまったのか、そっちが気になってしまいます」



 医療と福祉を学んできた真理さんらしい視点だ。さらに続ける。



「独身=孤独死なのではなく、死に方とか死に場所の違いだけだと思うんです。結婚していても、伴侶に先立たれると、残された方が孤独死になることもありますから」



 一方で「孤立感」を感じる場面がないわけではない。



「カップルだらけの場所や親子連ればかりのショッピングモールに行くと、『一人だなぁ』とは思います。集団のなかにいてなじめないときとかも。でも、一瞬なので長くは続かないですね」



 でも、これぐらいは真理さんにとって蚊に刺された程度の痛みなのだろう。





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「孤立感」を感じる場面はあるが、それ以上でもそれ以下でもない





■「全部録音してます」父に痛烈リベンジ



 真理さんが実家を出たのは43歳の夏だ。



「父が仕事を畳んで家にいるようになったんです。でもこうなると、母がつぶれてしまう。『何かあったら私のところにくればいいよ』と、母の逃げ場所をつくる思いで、家を出ました」



 実家にいたのも、実家を出るのも、母を守るためだった。



「子どもがどんどん大きくなって、いろいろなことが分かるようになると、父に盾突くわけじゃないですか。父はそれが面白くなくなっていくんですよね」



 真理さんは父を言い負かすこともあったという。



「母への態度にカチンときたときに、『言ってることが間違ってますよ』って、正面から言っていくようにしたんです。そうすると何も言えなくなるんですよ。言われたくないから威圧的に上からかぶせてくるということがよく分かりました」



 追い詰められた父は、やがて本音をこぼすようになる。



「『俺は何のために働いてきたんだ。誰も俺を尊敬しない。子育て失敗だ』って母のせいであるかのように言うんですよ。だから『それ、モラルハラスメントって言いますよ。全部録音してます』って言うと、『好きにしろ』って」



 母には、スマホの録音アプリを使うよう伝えてある。そして、困ったときは、真理さんが間に入るようにしている。昔、母がしてくれたように。



「父は経済的な面でしか母や子どもたちを縛れない人です。自立してしまえば、恐れるものは何もありません」





■私の人生は、私のものだ



 理想的な年齢の重ね方を聞くと、真理さんはこう答えた。



「老後って、いきなりくるものではないですよね。あくまで、今の延長線上でどう迎えるかなので。だから、人とのつながりを大事にしたり、福祉のサポートを自分で調べたりしておく。コツコツ準備することが大事だと思うんです」



 同世代の悩みには共感する。



「ミドル女性って、揺らぐ世代ですよね。頑張れば結婚もできて子どもも産めるし、女性としての役割のようなものも、まだまだ押し付けられる世代でもあるのかなと思いますけど。私は自分の人生とかキャリアを考えると、結婚とかないんですよね」



 結婚したい人の価値観も否定しない。誰がどのような選択をしても、それを『良かったね』と言えるのが理想だと考えている。



「結局、人って自分の物差しでしか語れないというか。結婚してよかったと思う人は結婚を勧めるし、子どもを産んでよかったと思う人は『子どもを産めばいいのに』って言う。それがよく分かったので、どのように言われても私は揺るぎません。なぜなら、私の人生は私のものだから」



 家庭環境、そしてアロマンティック・アセクシャルとしての葛藤。多くの違和感と誠実に向き合い続け真理さんは、キッパリとそう言った。「養われる人生」ではなく「自分の足で立つ人生」を選んだ先に、真理さんが見つけたのは、誰の物差しにも左右されない、静かで確かな自由だった。



取材・文:谷口友妃

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