プロレス界のスター・“制御不能のカリスマ”内藤哲也が立ち上げた株式会社UNPASO。実質的な創業者であり、数千万円を注ぎ込んだ出資者X氏と、彼が連れてきたスタッフたちが一方的に追放され、会社が空中分解するまでの顛末は《前編》で記した通りである。



しかし、本当の問題はその先にあった。昨年11月、東京スポーツ紙がUNPASO倒産を報じた。記事はX氏を「業務委託」の一スタッフと位置づけ、「不適切な行動」によって会社を傾けた“黒幕”であるかのように描いた。署名は、内藤と10年来の付き合いがある岡本記者である。



この記事を境に、X氏のもとには見知らぬ内藤ファンからの誹謗中傷が殺到するようになった。「鬼畜人間」「金を騙し取った」——会社に私財を投じ、内藤の引退後の人生まで設計しようとした男に向けられた言葉である。



ウソは、影響力のある人物と大手メディアがタッグを組んだ瞬間に既成事実化する。《後編》では、東スポ記事のミスリードを一つひとつ検証しながら、報じられなかったUNPASOの“もう一つの真実”を記しておきたい。





■東スポが書かなかった、X氏の本当の立場



 内藤ファンや世間の人々が、株式会社UNPASOでの異変を知ったのは、東京スポーツ(以下東スポ)2025年11月18日付けの記事であろう。



⚫︎内藤哲也が社長務める株式会社UNPASOが倒産へ! フリー転身後、何があったのか…本人を直撃(2025年11月18日 05:00)





 この記事にはツッコミどころが多い。とりわけ事実と異なる、あるいは読者をミスリードする箇所は大きく3つある。



 1つ目は、X氏を「業務委託」と表現し、会社外部の一スタッフであるかのように位置づけている点。

2つ目は、ドイツ遠征中止の原因を「X氏が提供したビザ情報の誤り」に帰している点。そして3つ目は、「X氏の不適切な行動が複数確認された」という具体性を欠いた断罪である。



 書いたのは“ファミレス取材記事”でおなじみの東スポ・岡本記者である。岡本記者は、内藤が新日本プロレス退団直後に行ったトークイベントでも司会を務めたほどで、内藤との関係は長く深く、ズブズブだ。内藤の言うことを鵜呑みにしてしまったのだろう。



 まずX氏に対する「業務委託していた」という形容は、実態と異なる。



 前編で記した通り、会社設立以降、運転資金として数千万円ほど注入してきた株式会社UNPASOの資金提供者である。



 X氏は経営サイドでUNPASO社全般の業務に当たっていた。切り出された業務の一部を請け負う「業務委託」とはまったく役割が違うものだ。



 そもそもUNPASO社には業務委託契約者は筆者一人しかいない。



 筆者は、当BEST T!MESでの取材記事をきっかけに内藤とBUSHIが立ち上げた、ユニット名と同じロス・トランキーロス・デ・ハポン(LOS TRANQUILOS de JAPON)のポータルサイトでコラムやメルマガ、インタビュー記事を執筆することになった。現在は削除されているが、内藤とBUSHIにインタビューした記事がサイトに掲載されていた。



 筆者の場合はUNPASOと下記の業務委託契約書を交わしていた。しかしX氏とはこのような書面が残っていない。







 X氏は“女帝”C氏の暴走が始まってから突如、C氏と内藤から業務委託契約書へのサインを迫られたが、拒否していたからだ。契約上も、勤務実態を鑑みても、X氏を「業務委託」とする根拠はまったくないのである。



 なぜ内藤サイドが「業務委託」という表現に固執するかと言えば、X氏をあくまで会社外部の人間と位置付け、“外部の人間が勝手に暴走したため契約を打ち切らざるを得なかった”というストーリーにしたいためだろう。







■ビザの取得云々は海外遠征には関係ない



 東スポ記事には、他にもミスリードな箇所がある。



《X氏が提供した、ビザに関する情報に重大な誤りがあったことが発覚~ドイツ遠征を断念せざるを得なくなってしまったという》



 X氏に手続き上の不備があったためビザが取得できず、ドイツ遠征が飛んでしまったと読める。しかし、である。そもそもビザは遠征の中止理由にならないのだ。



 欧州マットには、スポット参戦の選手には就労ビザなしでも試合をさせるという独特の商慣習があった。短期滞在であり、EU圏内やイギリスに移住するわけではないレスラーにいちいちビザを求めていたらキリがない。当局が彼らを逮捕・拘束することもない。



 C氏と内藤はこうした商慣習を知らずに、X氏を追放する方便としてビザのことを持ち出し、岡本記者に吹き込んだのだろう。



 また、内藤と彼の弟子であるRYUSEIは今年1月にイタリアで試合をしているが、これは事前に就労ビザを取得したのだろうか。EU圏内の就労ビザは通常申請してから発給まで1ヶ月から3ヶ月ほど、書類準備を含めると3ヶ月から半年くらいは待たされる。



 今回のビザの問題が起きてから、イタリアで試合をするまで2ヶ月半。そんなに短期間でビザの問題が解決したのならば、相当の手腕を持つ人物が内藤の近くにいるはずだ。しかし内藤の現状を見ているとそうは思えない。4月以降、EUで内藤とBUSHIの試合がないことが証拠の一つになるであろう。



 記事の「X氏の不適切な行動は複数確認された」という箇所にも反論したい。具体的に書かれていないが、何が不適切な行動だったというのか。



 C氏は「プロレスラーにそんなことをやらせるのはおかしい」とUNPASOでフードサービス事業をすすめていたことをもってX氏に噛みついたということだが、それは内藤がプロレスラーを引退した後、実業家として活動してほしいという願いがあった。



 プロレスファンならご存じのように、内藤は膝と目に大きな傷を抱えている。この傷は内藤のプロレスラー人生にも大きな影響を与えたようで、X氏に引退後に何をしようか相談していたそうだ。



 前編のおさらいだが、株式会社UNPASOの中には、フードサービス事業部門が設立されていた。フードサービス事業のことはもちろん内藤も承諾済みで、X氏の事業パートナーであるY氏を事業本部長に据え、直営店の開店に向けて準備を続けていた。運営部門にも人が集まってきていた。





■C氏以外全員解雇…内藤からの説明はナシ



 しかし内藤はすべてをひっくり返し、X氏を含めてフードサービス事業に関わった人間を予告なしに解雇したのだ。



 社長である内藤の承認を得ていた事業がどうして「不適切」なのだろうか。内藤はこの点に関して何も口を開いていないが、明らかに不当解雇である。



 UNPASOでプロレスのマネージメント部門とフードサービス事業の両方をマネージメントしていたZ氏は、C氏から事前に解雇される人間がいることを匂わす発言があったと証言している。



「Cがフードサービス事業はやりたくないとずっと言っていたのは社内で皆知っていたんです。自分の思い通りにならなかったら辞めますと言っていたんですね。私は『じゃあ辞めれば』と思っていましたが、そうしたらCが『大丈夫です。Zさんは連れて行きますから』なんて言ってきたんです。



 上司でもないのに何を言っているんだと思ったのですが、C曰く『Zさんは飲食とプロレス両方やっている。

フードサービス事業しか関わっていないYさんとBさんはいらないけど、両方やっているZさんは守りますよ』と言うことなんです。



 要するにCは、最初からXさんを追い出すつもりだったんでしょうね」



 結果は、C氏以外全員解雇である。解雇された正社員に一ヶ月分の給与は支払ったそうだが、明確な理由を説明せずに解雇するのは経営者としてどうなのだろうか。



 Z氏には内藤から謝罪の言葉はあったものの、解雇理由について一切言及がなかったそうである。Y氏、A氏、B氏へは一言すらない。X氏に至っては連絡手段がブロックされた。



 直営店の店長と地区統括をやる予定だったB氏は、中々転職先が決まらず困っていたところにUNPASOに採用され、やる気になっていたそうだ。それが突然理由もわからずに解雇され途方に暮れることになってしまった。



 筆者も昨年10月分以降の業務委託費の支払いが現在までなされていない。



 C氏と内藤は「X氏に1000万円騙し取られた」とプロレス業界内で言いふらしている。昨年末に開いたトークショーでも内藤が同様の話をしていたことは、こちらにも情報として届いている。



 向こう側の理屈は「X氏は内藤に社長報酬として月90万円、手取り額にして80万円支払う約束をしていたのに9か月間一度も支払われていない。

立替経費も含めて1000万強くらい未払いがある。X氏に騙された」だそうだ。



 しかし、X氏は最初に「帳簿上仮計上するけど利益が出るまで報酬は支払いできないよ」と内藤に説明をしていて、内藤もそれは了解していたはずだ。X氏自身も報酬として月80万円、手取り額にして70万円を設定していたが、UNPASO設立準備から9か月間報酬は一銭も受け取っていないという。



 冒頭の話を蒸し返すが、仮にX氏を「業務委託」として扱うならば、X氏に報酬を今すぐ支払うべきなのではないか。ここにも内藤サイドの矛盾がある。





■東スポ報道以後、X氏には誹謗中傷が殺到



 内藤は東スポの取材に対して「清算の意味を込めて今月をめどに(UNPASOを)閉じる」と語っていたようだが、会社を清算するには残った資産の現金化、債務の弁済、残余財産の分配を行う必要がある。



 残余財産の分配はステークホルダーに対して行われるが、X氏は株式会社UNPASOの創業期の資金提供者である。この件以降、内藤は、X氏との連絡手段をすべてブロックしている。X氏抜きでどうやって債権債務の確定をし清算を進めるのだろうか。



 この記事が出てからX氏は、一部の内藤ファンからの誹謗中傷に苦しめられた。憶測から「鬼畜人間」という暴言や「内藤を利用して金を騙し取った」というデマを流された。現在も内藤ファンからXのDMに誹謗中傷が送られてくるそうだ。



 影響力のある人物とメディアがタッグを組めば、ウソが既成事実になってしまう。



 我が身可愛さにウソを話した内藤もタチが悪いが、それ以上に悪質なのは、この記事を書いた東スポ岡本記者である。彼は裏取りしてから記事を書くことができる立場であった。



 こう書くと「お前も裏取りしていないだろう」と熱心な内藤ファンから非難を受けそうだが、筆者は当事者であるX氏、Y氏(フードサービス事業の本部長)、Z氏(マネージャー)と複数の社内の人間から話を聞いている。



 前編も含めてX氏が話した内容が正しいかどうかは、Y氏とZ氏に確認済みであると記しておこう。



 X氏は岡本記者とも10年近くの付き合いである。内藤も交えて岡本記者と食事に行ったり、旅行にも連れて行ったりした経験もあり、連絡を取ろうと思えばすぐにできる間柄だ。しかし、あの記事が出る前に岡本記者からX氏へ連絡はなかった。



 株式会社UNPASOの内情についても、この岡本記者は把握していたはずだ。しかし、内藤との関係を守るため一方的な言い分を記事にして広めてしまった。記者の矜持を失ってしまったと言える。





■X氏デザインのグッズはいまも販売中



 今年の1月にYouTubeチャンネルを作った内藤は、動画の中で新会社LOS TRANQUILOS de JAPONを設立したと発表した。代表は内藤が務めているが、実質的な運営はC氏が行っているものとみられる。



 筆者は会社のHPも公開されていたので見てみたが、開いた口が塞がらなかった。



 事業内容の欄には、有料のポータルサイト、公式のInstagram、X、YouTubeチャンネル、内藤、BUSHI、RYUSEIのXのリンクが表示されているのみ。リンクだけでは、この会社が何をしているのかわからない。取引を考えている会社向けに「プロスポーツ選手のマネージメント・グッズ制作と販売」くらいは書いておいて欲しい。



 ちなみに、販売休止になってしまったグッズの制作・仕入れ費も全額X氏が出している。総額約800万円、内藤は一円も支払っていない。X氏がすべて立て替えている状態だ。彼は内藤に請求するつもりはないそうだが、本来は返すのが筋だろう。



 C氏と内藤の言い分は「X氏がグッズの入荷を直前で止めたのだから払う必要はない」ということだろうが、それならばX氏がデザインした旧ロゴ入りTシャツとキャップ、スニーカーをオフィシャルショップで販売するのを中止すべきだ。







 新会社LOS TRANQUILOS de JAPONはこれからどうなるのか。



 運営資金は内藤、BUSHI、RYUSEIのギャラを一部回すしかないだろう。それか新日本プロレス時代のスポンサーに借りるかしかない。



 C氏は「(実業家であるX氏とY氏に向かって)あなたより私の方が上手く経営できる」と強がっているそうだが、根拠はどこにもない。



 また、「アメリカの就労ビザを1ヶ月で取得できる」とも豪語していたという。プロレスラーがアメリカで活動するためには、「P-1ビザ(国際的評価を得ているアスリート)」や「O-1ビザ(特殊能力を持つ人材)」といった非移民就労ビザが必要になる。



 このビザは、オファーする団体側(WWEやA.E.Wなど)がUSCIS(米国市民権・移民業務局)へ嘆願書を提出するところから始まる。



 承認後にDS-160というビザ申請書をアメリカの領事館へ提出をする。その後、在日米国大使館・領事館で面接を受けて、合格したらP-1ビザが発給されてアメリカで試合ができるのだが、書類審査に2~3ヶ月程度、面接予約や発給を含めると合計で3~4ヶ月以上かかるのが通例だ。



 それを「1ヶ月で取得できる」とは。もし実現しているならぜひ発表してほしい。日本中のフリープロレスラーが、アメリカの就労ビザ発給を求めて株式会社LOS TRANQUILOS de JAPONへマネージメントを依頼してくるはずだ。





■カリスマが本当に守るべきだったのは誰か



 ちなみに内藤はX氏がマネージメントのもと海外で試合をしていたが、X氏と一方的に関係を断絶して以降、海外からのオファーは来ていない模様。3月まで参戦していた海外(シンガポール、イタリア、ドイツ、フランス)での試合は全てX氏がまとめ上げたものだという。4月以降は現在参戦しているプロレスリング・ノアだけのようだ。



 X氏からもこんな話が出ている。



「今年の1月4日にロンドンへ遠征する話があったけど、延期になったと言ってましたよね。あれは多分中止になったんじゃないのかな。



 僕が内藤と決裂した後、イギリスのプロレス団体のオーナーから『知らない人から「内藤のマネージャーだ」と連絡きたけど本当?』と聞かれたんです。それで僕は『もう内藤に関わってないから知らない』と答えたんです。それを聞いた彼がおかしいと思って、相手にしなかったんじゃないですかね」



 X氏の対応に怒る内藤のファンもいるかもしれない。しかし、身勝手な理由でX氏を追放したのはC氏と内藤の方だ。追い出しておいて「コネは使わせろ」なんて要求をするのは筋が通らない。もし内藤が海外で試合をしたいのなら、あの時C氏が要求したであろう、X氏の追放に反対しておけば良かっただけである。



 内藤は「俺とBUSHI、RYUSEI、スタッフさん(C氏)の4人で、いつか『あの時は大変だったけど、今はこうなって良かったねと話せる日が来るだろう』」と語っていたという。



 その“いつか”を内藤が夢想している間にも、X氏のもとには見知らぬ内藤ファンからの誹謗中傷のDMが今日も届き続けている。「鬼畜人間」「金を騙し取った」——会社に数千万円を注ぎ込み、内藤の引退後の人生まで設計しようとした男に向けられた言葉である。



 ウソは、訂正されないかぎり既成事実として独り歩きする。一人の人間の名誉を削り続ける。内藤が沈黙を続ける限り、X氏への中傷も止まらない。



 カリスマと呼ばれた男に、最後にもう一度問いたい。あなたが本当に守るべきだったのは、誰だったのか。



取材・文:篁五郎





編集部おすすめ