ウェブ広告でも最近ちらほら目にするようになった配車マッチングアプリ「CREW」、いまのところ都心4都県のみ、時間帯も区切っての試験運用が始まったようではありますが、さっそく野良の配車と謝礼に関する問題が勃発し、界隈で延々と論争になっています。
「CREW」の事業の適法性や妥当性を巡っての議論を確認するべく、当編集部でも何度かCREW社に質問状を送ったのですが無反応でありまして。
まあ、アプリでやってきた素人運転の車両に利用者がカネを払っちゃったら立派な白タク行為ですからね、アプリ側が「払え」とやると斡旋したアプリが違法になっちゃうからね、しょうがないね。
というわけで、国土交通省に事情を聴くと、本件CREWの配車アプリに関しては微妙な温度感の返答が来ていて戸惑います。
「国土交通省としましても『白タク』と思われるような案件があることはいくつかの個々に寄せられた情報から認識しています」としながらも「謝礼(の誘引)を禁止する文言については明示されているのがベストだが、特に方法までは指定していないので『CREW』の規約等に明示されていないとしても必ずしも問題とはいえない」という、歯切れの悪い返事。
また、C2Cビジネスに詳しい国税庁OBは、この問題について「いまの道路輸送法では、業としてCREW社のアプリのような『白タク』斡旋は、あくまで乗り合わせ、勧誘であるかぎりは適法とせざるを得ません」と説明しています。おお、つまりはこの手のマッチングによる『白タク』はOKなのか?
しかしアプリでマッチングされた車両に乗せてもらって、何も払わずにさようなら、というわけにもいかないのが人情。
おそらくは、マッチングされた人たちが「お世話になりました。これを受け取ってください」「これはこれは、ありがとう」という対価を渡す暗黙の了解があるのかもしれません。
ただ、そういう行為が実際に横行するとなると話は別で、車の運転手とアプリの利用者が「謝礼」と称してお金の授受をすることは立派な営業行為であり、普通に考えれば摘発待ったなしの案件であります。
国税庁OB「国土交通省が『白タク行為はNG』と言っても、業として、あるいは謝礼を明記しているものは指導の対象にできても、今回のCREW社のように『単にドライバーと利用者をマッチングしているだけです』という事例はそもそも想定しておらず、適法としか説明のしようがないのです。何キロ乗って幾ら払う、という営業行為でない限りは」
つまり、規制職種であるタクシー業界を守っているはずの道路輸送法では、業として対価を貰い利用者を乗せてはならないという法律のため、CREW社が単にその辺にいるドライバーと利用者を繋ぐだけなら適法だという話になります。
謝礼なしにドライバーが利用者の呼び出しに応じて車を乗りつける… こんなボランティア精神に優れた配車システムでは本当は成り立たないのではないでしょうか、法律を守る限り。
しかしながら、本件問題はすでにタクシー業界のみならず国会ですらも取り上げられる論争になっていまして、そもそもが規制業種であるタクシー業務において許可なく乗客を乗せる行為をすればアウトであることは言うまでもありません。
これらのアプリ『CREW』の実態については、タクシー業法とも言える道路運送法78条で自家用自動車の有償運送は禁止されており、また、『業』ではなくても禁止され、かつ、ここでいう『有償』とは、「運送の対価として財物を受け,又は受ける約束である(名古屋高裁1961年9月21日)」と判例上確定しているため、CREW社のアプリにおいても謝礼を明記してはならないだけでなく、利用者同士が謝礼を求めてもならないという話になります。
常識的に見れば、一般的にアプリ側が利用者に対して「謝礼を払える仕組みを用意している」のであれば、その時点で違法行為の斡旋であってグレーゾーンでもなんでもないとも言えます。
「謝礼を払われることが想定されていない」のであれば、なぜ謝礼を支払える仕組みをわざわざ金かけて実装しているんだ、という話になります。そして、今回この「CREW」がアプリを制作し広告を展開し運用を開始するにあたり、経済産業省の「グレーゾーン解消制度」を利用したプロセスを踏んでいることが分かります。
中身をしげしげ見ていますと、つまりはタクシー業態(業法)の法の趣旨というのは、「業として、謝礼や運賃などの対価を受け取る」という『有償』であることが規制の対象となっているのであって、アプリ上で面識なくマッチングされた人であっても、要望に応じて配車し、その人や貨物を乗せて移動して目的地に到達することまでは適法であることが分かります。
確かに、友人の引っ越しの手伝いで車を出してあげる、というところまで「白タクだぞ」と規制する必要も意味もないというのはあります。だからこそ、グレーゾーン解消制度の活用の結果として「謝礼を払わなければ、白タク紛いであっても配車をマッチングしても良い」という結論になるのでしょう。
一般の配車と乗り合わせが「白タク行為であり違法とは言えない」というのは、常識的に業として行わない配車は日常的に行われているからです。
つまり、地元の足の悪いお婆ちゃんが街に降りて買い物に行きたいけど車がない、となれば、電話で配車を頼まれた近所の人が親切で車を出す、なんてことはあり得ます。「業として、対価を得ていない」のであれば、白タクとして取り締まられないのはある意味で仕方なく、また当然であり、本件グレーゾーンについてはこういう「巷にある親切」に対する法の配慮のスキを突いたものだと言えます。
一方、輸送事業に詳しい弁護士はCREW社が違法性を問われる部分をトライバーに押し付けて「自分たちはアプリで仕組みを擁しているだけ」「マッチングさせているだけ」と主張するのではないか、と危惧しているようです。
例えば、CREW社で配車され斡旋されたドライバーが万が一事故ったときにはどうなるでしょう。保険会社ではアプリを利用して事故車両に乗り合わせ、怪我をした、ないしは亡くなってしまったとされたときにどこまで補償されるのかは謎です。面白そうだったので興味本位で問い合わせてみますと、会社によっていうことが違います。
「明確にアプリを利用したご利用者さまと判明した場合には、保険を受け取る権利を有さないとして補償金の対象とならないケースがあります」(大手損保A社)
「アプリでの乗車かどうかにかかわらず、原則として補償の対象となると思います。ただし、業務であると見做される場合は一部商品では対象外になります」(大手損保B社)
……なんかどこの会社も奥歯にものが挟まったような言い方ですが、損保の約款を見ると微妙に除外規定に引っかかるとは言えなくもない文言が入っているため、「CREW」で配車された車両に乗車して事故に遭っても被保険者扱いされるか微妙だよって話なのかもしれません。
つまり、個人的に配車アプリCREWで見知らぬ人を乗せる行為を個人的な所為とするか、対価の発生する業務上の行為とするかで免責の対象となるかどうかも異なることが原因であり、まだ事故ってないのでこれから考えるという風情のお話になっています。
例えば、損保ジャパンの場合、約款にはしっかり「被保険者が、正当な権利を有する型の承諾を得ないで自動車に搭乗中に生じた損害」は補償支払いの対象外になっています。
しかし、事故の態様や内容によっては保険金が同乗者にも支払われる可能性はあり、正直なところまだ確たる方針は業界内でも決まっていないようです。有識者は、保険会社の側も「このような形で第三者が車両に乗り合わせる(そして事故に遭う)ことは想定していなかったのではないか」(国税庁OB)と指摘します。
日本の事例では、この「CREW」ではありませんが、中国国内で営業されている白タク配車マッチングアプリで登場した中国人運転の車両が死亡事故を起こした際に、大手損保A社は補償の対象外として支払わず、裁判にまで発展しました。
結論としては、保険金や給付金は被害者に支払われない形で和解が成立したようですが、似たような事例がそれなりに出始め、これから問題になるのではないか、とのことでした。
(註:この問題は、中国人ドライバーがフィリピンなど第三国発行の国際免許証を使って日本で運転し、業として中国人旅行者を乗せたものの、この国際免許証が事故後に偽造であることが分かり、保険金・給付金支払いの対象とはならないと保険会社から判断されたようです)
「CREW」のような野良配車アプリは国内に拠点を置き適法にやろうとする限り、もはや制度的にほぼビジネスにならないのではないか、と思う部分は強くあります。
上記「謝礼」の件にしても、マッチングアプリ側は謝礼を仲介するどころか謝礼を斡旋するだけで業法違反になりますので、「謝礼」が授受される段階で単純に違法アプリまたは違法行為幇助アプリになってしまいます。
仮にCREW社が「謝礼が授受されていることを知らなかった」としても(実際に知らないと思いますが)、本当にこれらの配車アプリが流行し、たくさんのマッチングが行われ、多くの謝礼が飛び交うようになれば、何らかの摘発に遭う条件は揃います。謝礼をエスクロー業務で担保できないのだとすると、運転手のデータをいかに蓄積してもアプリ側は収益に預かれないことになりますし、マッチングするごとの対価を得ることも違法となると「このビジネス、いったいどこで儲けるの?」という話になってしまうわけです。
しかしながら、CREW社に限らず白タク界隈はけしからんと言ったところで、インバウンドでやってくる訪日観光客はかなり頻繁に白タクを活用しています。「日本の法律に違反しているのだから、『CREW』のような配車アプリはいかんのだ」とタクシー業界が言い募ったところで、インバウンドは「CREW」どころではない白タク営業が横行している、というのが実際です。
むしろ、英語もまともに通じないうえに高額である日本のタクシーは積極的に敬遠される傾向にあり、中国国内で白タク配車を行うアプリは、日本向け利用者向けの専用タブがあり、中国国内にあるサーバでマッチングされ、中国企業の発行する電子マネーで決済が終わっていて、日本では単に待ち合わせ場所にやってきた車に乗って移動するだけ、というのが実態になってしまっています。
「CREW」の挑戦を擁護するわけではないのですが、日本人が日本の法律を守って事業を展開しようとすると違法紛いの脱法アプリになってしまうのに、海外にサーバーが立ち海外で取引が完結してしまっている白タク配車は完全に野放しで、事故が起きたときにはじめて「あ、白タクだったんすね」と分かるような惨状では、いかにタクシー業法による規制を正当化しようにも無理筋なんじゃないのとすら思います。
海外の白タク行為を取り締まることができないのに、日本で適法にやろうとする事業者だけ日本の法律が厳格に適用されて取り締まられるということでは、イノベーションは起きないよなあとも思うわけです。
一方で、CREW社の利用規約や業法対応を見ていると、サービス運用することありきで、「私たちはマッチングしているだけです」という責任逃れの方法論に終始しているのは気になります。
つまり、CREW社でマッチングされて配車された場合、ドライバーはCREW社から何の法的庇護も保険適用の保証もされないまま、すべての事故リスクをドライバーが負うことになります。
それでいて、(表向き)ドライバーは乗り手から謝礼はもらってはいけないとなれば、何のためにドライバーとして頑張るのかという話になりますよね
そして、これで生計が立てられるほど配車送迎で頑張れば、これは業として『白タクでの営業』が完全に成り立ってしまうので、CREW社関係なく道路輸送法違反となり逮捕されるのはドライバーです。
これらがきちんと業として行われ、売上が立って利益が出ているならば、納税しなければなりませんが、この納税のための手配まで「CREW」がやってくれるわけではありません。悩ましいところです。
いままさにプラットフォーム事業者に対する規制論議が盛んになってきていますが、単に日本人の個人情報や健康情報、取引に関するデータが海外に流出するよという話だけでなく、海外でマッチングされ金銭の授受が行われて日本国内で行われる違法サービスもまた、完全にやり放題になっている現実はあります。
いずれ、タクシーだけでなく京都・ニセコなどでの不動産取引や貸金業、日本での雇用でも自在に起きる可能性のある問題でしょう。
これからはデータ資本主義だ、日本には人工知能の技術者が40万人足りないと騒ぐ前に、我が国の中のビジネスが適切に行えるよう規制を再整備することのほうが優先課題なのではないかと思うのですが、どうでしょうか。
取材したのに返答が一切無かったCREW社にはムカつきますが、やってることは革新的だし面白いと思います。上手く生き延びていって良い仕事をしてほしいと願っています。
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