日本と韓国には長い歴史があり、互いに深くかかわりあってきた隣国だが、各々がいまだ良く分かっていない所があるのではないか。
 近年、韓国の歴史や社会、経済、さらには歴史認識問題などの書籍をみかけるが、K–POPや映画、テレビドラマで韓流ブ―ムを起こした韓国芸能界を通して見える、韓国社会というテーマで解説を試みたものはそんなに多くはないだろう。

 日本であれ、韓国であれ、いずれの国の芸能界もその社会の縮図であり、特殊性を持っているから、この角度からのアプローチも必要だと思える。
 本稿では、韓国の芸能界をテーマにしつつ、日本社会との関係性を紐解いていく。(『韓流アイドルの深い闇』著/金山 勲より
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アイドル路線で停滞した日本のドラマ界

 私が日本のテレビ制作会社にアルバイトとして入り、少し経った頃、日本のテレビでは韓流ブームが始まった。2003年からNHKで放映が始まった韓国ドラマ『冬のソナタ』がそのきっかけだった。

 韓流ブームは韓国の芸能や音楽などの大衆文化が東アジアをはじめとして世界に広まった現象で、1990年代から2000年初頭にかけて、韓国芸能界は海外進出戦略を練り、積極的に推進するようになっていた。

 韓国の当面の目標は、アメリカに次いで第2位の市場規模を持つ、日本のエンターテイメント市場に入り込むことだった。そのために、韓国の業界人たちは盛んに日本市場の情報収集をしていた。

 私の所にも、当時の日本人の若者の流行や人気のあるテレビドラマなどを聞きに来る同世代のAD(アシスタントディレクター)がいて、彼らと酒を飲みながら、さまざまなことを話した記憶がある。

 当時、日本のテレビドラマでは、身近なアイドルを起用して、ごくありふれた庶民的な生活の中で起きる恋愛物語をテーマにしたものが一世を風靡びしていた。基本コンセプトとして、ドラマの主人公の男女はスターというものではなく、自分たちの隣にいるような、ごく身近な存在として視聴者から共感を得るような仕立て方であった。

 視聴者がテレビに映っているタレントたちに共感と親しみを持つことが、視聴率を稼ぐ重要なポイントだったのだ。

 クライアント側としても、大スターが使っている商品として高級イメージを打ち出すCMより、自分たちの手の届く商品を、アイドルたちも使っているというCMコンセプトの方が効果的だとの判断があった。

 われわれ制作側も、それなりにかわいくて素人っぽいタレントを発掘したり、アイドル歌手をドラマの主役に起用し、上手とも言えない演技をファンたちが「○○ちゃんが一生懸命やっている姿がかわいい!」と思わせる演出をするようになっていた。

 この道数十年の監督、カメラマン、照明、衣装、大道具・小道具の職人的な技術はあまり必要とされず、単に人気者のタレントが演じる緩い演技を良しとせざるを得ない。このため、いつしか現場の空気も緩くなり、次第に緊張感に欠ける雰囲気になりつつあった。

 ドラマのストーリーも、主役であるタレントのイメージを壊すようなものはご法度なため、みな似たようなものになってしまった。

 アイドルに熱中する若者はともかく、食い足りないドラマと感じている大人たちは多かったが、視聴率も若者偏重の数字しか出ず、安定感がなかった。当時理想とされていた「じいさん、ばあさんからパパやママ、家族そろって楽しい時間を過ごしましょう」というコンテンツが少ない状況であった。

 これでは幅広い層にアピールしたい、歯磨き、洗剤、食品などの大手スポンサーにとっても魅力が薄れ、スポンサー側からもコンテンツ自体にも何らかの方針転換が必要との機運が出始めた。

 ドラマ製作を主としている業界全体としても、新しいコンテンツ作りを模索していたが、現実に視聴率を稼いでいるアイドル路線を変える程の勇気はなく、制作現場は停滞ムードにあった。

日本で起こった韓流ブーム

 2003年、日本のテレビに登場した韓国ドラマ『冬のソナタ』は、日本の視聴者に衝撃を与えた。

 このドラマは、日本での韓流ブームの火付け役となったが、すでに台湾や中国など中国語圏で人気を博していたものだった。そうした実績から、アジア市場で生き残るほどの魅力があったのだろう。

 韓国の戦略としては、『冬のソナタ』を日本である程度の成功を見込める試金石としての、日本への投入であったと見て間違いない。

 事実、『冬のソナタ』は、当時の日本のテレビドラマの主流であったアイドル中心とは違っていた。

 主役のカン・ジュンサンを演じるペ・ヨンジュンは、ヒロインに対する見事なまでの犠牲愛を演じ切り、女性に対して不器用な日本人男性や、夫に不満を感じていた中高年層の女性の心を動かした。

 それに対して、ヒロインを演じたチェ・ジウは「泣きの女王」と言われるほど、日本人の感性の奥深くにまで染み通る悲しみを表現する演技力と、負のパワーをいかんなく発揮していた。日本のテレビドラマに物足りなさを感じていた、中高年女性の乙女心に突き刺さった。

『冬のソナタ』には、それまでの欧米のドラマや映画などにはない、自分たちに似たアジア人が主人公でありながらも海外のドラマという親近感と真新しさがあり、ミーハーな中高年女性は、かつて憧れた叶わぬ恋の理想像を、このドラマの中に感じていたのだろう。

 そして衣装やメークも、日本人にはひと昔前の自分のファッションとオーバーラップして懐かしいものだった。

『冬のソナタ』の日本上陸は、日本でのアイドルたちが演じる学芸会的な緩いドラマとは一線を画し、大人がズッポリとはまり込み、誰もが好む普遍的な「愛」に触れる絶好なタイミングであったのだ。
さらに、韓流ブームを盛り上げるために、メディアはわざわざ「韓流四天王」という言葉をひねり出し、特に人気のあった韓流スター、ペ・ヨンジュン、イ・ビョンホン、チャン・ドンゴン、ウォン・ビンを盛んに取り上げて話題造りに熱心だった。

 彼らが主演するドラマや映画を頻繁に取り上げ、テレビ局も積極的に放映し、韓流を煽り立てるようになっていた。

 この状況は、われわれ業界に身を置く者にとっては願ってもないビジネスチャンスとなったが、一方でこの異様な盛り上がりには、何となく違和感を感じていた。

つくられた韓流への反発

 2011年1月、人気K–POPグループ・少女時代が所属しているSMエンタテイ
ンメントと、KARAの所属事務所DSPメディアは、インターネットの日本語ウェブサイト上に拡散している漫画「K–POPブーム捏造説を追え」が事実でない悪意のある描写をして、名誉棄損に当たるとして法的措置も含めた対応を取ると表明した。

 この漫画の中では、対外文化広報政策を推進したい韓国政府と、日本の大手広告代理店D社との間の経済的利害関係をあげて、日本でのK–POPブームはやらせであるとしている。

作中ではD社と表現されているが、業界関係者なら電通を指していることは容易に想像がつく。

 このことは韓国メディアで大々的に報じられ、日本のメディアでも取り上げられた。作者は作品は根拠のないフィクションだと自らのブログで明らかにしたが、こういった騒動は断続的に起こり、2018年8月にはもっとも熱心に韓流を放映していたフジテレビに「韓流ごり押し・偏向報道抗議デモ」が行われた。この時はフジテレビに留まらず、スポンサー企業や他局にも反発の目が向けられた。

 視聴者も異様に感ずるほどのテレビ局による韓流の盛り上げは、その裏に何かがあったと一般人に思われても仕方がないのかもしれない。

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