私は不動産業界のプロ集団「全宅ツイ」の金主部に所属している金融アスペ君と申します。普段は某金融機関で「ストラクチャードファイナンス」という仕事をしております。


 以前は金融リテール最前線で住宅ローンのお仕事に携わっていたこともありますので、今回は一般の皆様が関心を持っているであろう「住宅ローン」について書きたいと思います。

 ネットで検索をすると「●●銀行の住宅ローンてどうよ?」「金利は固定か変動か?」「住宅ローン 不動産大技林」というような結果が多くヒットしました。しかし、それらの解説は他の全宅ツイの方やFPの方にお任せするとして…私は住宅ローンの「審査」について解説したいと思います。

 住宅ローンを検討中の方や、ローンの審査がわからないという若き不動産戦士の方のお役に立てれば幸いです。
 なお、これから解説する内容は全て民間の金融機関を前提にしている上、多分に私の経験を元にしております。


Ⅰ.住宅ローンとは?

 住宅ローンとはひとつの「融資商品」として完成されているものです。基本的には以下の条件があります。

●返済期間は最大35年
●金利は変動(固定金利は特約)
●最大1億円まで
●購入物件に抵当権を設定
●返済は給与収入から
●居住用物件に対するローン
●団体信用生命保険に加入

 上記の条件を満たすことを前提として、パッケージングされたローン商品となっているのです。

 

Ⅱ.住宅ローンの審査とは?

 住宅ローン審査=スコアリング審査となります。
 この審査手法は企業向け融資の審査とは異なります。企業の「決算書」に代わるものです。いわゆる定量審査というものですね。


 定性的な審査に関しては個人信用情報に問題がないかを審査しています。スコアリング審査と債務者ポイント、そして購入物件ポイントから、与信の総合点数をはじき出して審査する手法です。

 「〇〇点以上は可、〇〇点以下は否」というように極めて機械的に審査を行っています。これは住宅ローンがパッケージングされた商品であること、そして、この方法であれば、多くの案件を効率的に審査することが可能なためです。
 

1.債務者のポイントとは?

スコアリング審査における債務者のポイントは大きく分けて3つあります。

① 勤務先の与信
② 勤続年数
③ 年収

 ①の「勤務先の与信」というのは、債務者が勤めている会社が問題ないかどうかをチェックしています。住宅ローンは会社からの「給与で返済することが前提の融資」ですので、勤めている会社が安全かどうかは重要な項目となります。
 銀行によって違いますが、会社の売上高や純利益、資本金の額や上場・非上場などがファクターになってきます。業績の安定している上場会社に勤めていれば問題のない項目です。

 ②の「勤続年数」は債務者がひとつの企業にどれだけ安定して勤めているかを見ています。審査時点で与信が高い企業に勤めていても、転職を繰り返している人であれば、将来にわたって年収の維持が難しくなってしまう可能性が高いと判断しているからです。
 こちらも銀行によって違いますが、概ね3年以上勤めていれば問題ないと思います。



 ③の「年収」については各銀行間で審査基準にバラつきがあります。下限を設けていない銀行もあれば、年収300万円以下はスコアがつかない(0点)場合もあるようです。
 なお、年収の基準は昨年度の税込年収となります。
 

2.物件のポイント

 続いてスコアリング審査における購入物件のポイントですが、こちらは大きく2つあります。

① 担保倍率
② 返済比率

 ちょっと詳しく説明していきましょう。

 ①の「担保倍率」とは、担保評価額に対する借入金額の倍率です。住宅ローンの場合、銀行は購入物件を担保に取り、債務者が返済不能に陥ったら担保物件を売却して回収を図ります。
 その時の回収金額を審査時に試算しています。この担保評価額が実際に借り入れる金額に対して、どの程度の乖離があるかでスコアが変動していきます。

 新築や築浅の物件は購入価格の70~80%くらいに担保価格が収まることが多いですが、中古物件を高値で購入すると担保価格との乖離が大きくなる可能性があります。

 こちらも銀行によって違いますが、借入金額が担保評価額の2.5~3.0倍程度までは許容する基準を持っているところが多いように思います。
 例えば3,000万円の借入に対して2,400万円の担保評価であれば、借入金額は1.25倍になりますので、この基準をクリアすることになります。


 古い物件ほど担保価格は下がりますので、この乖離は大きくなる傾向があります。


 ②の「返済比率」とは、現在の年収のうち、住宅ローンの元利金返済割合がどの程度になるかという指標になります。銀行は借入金額と年数に所定の金利条件を設定して、年間の返済額を算出します。この返済額が年収の一定割合を超えるとスコアが棄損する仕組みになっています。

 否決のラインはおおよそ35%~45%とする銀行が多いように思われます。ちなみに所定の金利条件とは私の経験上4%という極めて保守的な水準で審査をしています。
 例えば年収500万円、35年ローンで金利4%、返済比率35%を上限とすると、実際に借りることが出来る金額は3,000万円程度になります。
 これはネットの返済シミュレーションや関数付きの電卓、ExcelのPMT関数でも計算することが出来ます。是非参考にしてください。
 返済金額には自動車ローンやカードローンの返済も含んで計算しますので、実際の審査に入る前に返済しておくと、審査において若干有利になるかもしれません。

 以上が住宅ローンのスコアリング審査の主なポイントです。
 この他にも定性面の評価である「個人信用情報」の審査も重要になります。

また、団体信用生命保険の加入も前提条件になりますので、健康面の審査もあることになります。
 これらをめでたく通過するとスコアリング審査になり、一定のポイント以上になると見事「審査承認」となるわけです。

 

Ⅲ.まとめ

以上、長々説明してしまいましたが、スコアリング審査で有利な点をまとめると以下の5つとなります。

① 良い会社に勤めている
② あまり転職していない
③ そこそこの給料をもらっている
④ 新築もしくは築浅物件を購入する
⑤ 身の丈にあった借入金額である

 これらの点からどれだけ離れているかをスコアを用いて判定しているという仕組みです。
 繰り返しますが、極めて機械的な審査ですので恣意性や担当銀行員の「腕」みたいなものは基本的には介在できません。また、勘のいい方はお気づきのように、スコアリング審査は「まじめな大企業勤めのサラリーマンが新築物件を購入する」という前提で作られています。
 ですので、中小企業の社長が取引銀行の住宅ローンが否決になったり、芸能人やスポーツ選手がなかなか自宅を購入できなかったりすることが起こります。

 住宅ローンを検討されている方は、こういった審査ポイントを念頭に置いて御自身の条件を考えてみてはいかがでしょうか。


◆金融アスペ君/金主部所属
ファンドバブルを乗りこなした銀行員。数千の債務と数兆のお金の間で暮らしています。俺のスプレッドはかんなくずより薄い。住宅ローンは漢の変動・35年。
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