おしゃれな大人の街、代官山。その一等地に建つ、おしゃれでモダンな住宅・オフィス・店舗の複合施設「ヒルサイドテラス」。
おしゃれな街を歩くおしゃれなみなさんは、そのすぐ裏手にある、建設途中で鉄骨むき出しのまま数10年の間放置されてきた広大な廃墟の存在を、そして、その所有者をご存知なのでしょうか?
我がBT編集部が、ことを知ったのは、このツイートがきっかけだった。
これは、不動産業界最大のツイッター集団、業界の裏事情から社会風刺まで、歯に衣着せぬ発言で話題となっている全宅ツイ。彼らが運営するクソ物件オブザイヤーでのつぶやきだ。
さて、この案件はどんな話かというと、
ひと言で言うと、権利関係がややこしい有名な詐欺物件で、世界一の富豪とされた国王の一族が代官山に残した負の遺産なのだ。
2014年頃から噂となっていたこの廃墟の今は? その真相に迫ってみた。

代官山といえば、数々の洋服店や雑貨店、カフェ、レストランなどが立ち並ぶも渋谷や新宿のような猥雑感はなくて街並みが閑静というイメージ。オシャレでセレブな雰囲気が漂う都内有数の人気スポットだ。教会や大使館が点在していて、異国情緒にあふれているところも魅力的。
ところが、かなり風変わりな情緒が異国の人によってもたらされている、正確に言うと〝もたらされっぱなし〟になっていることが世間では意外と知られていない。
その風変わりな情緒の産みの親は、ジェフリ・ボルキア氏。ブルネイ・ダルサラーム国(以下、ブルネイ)の国王であるハサナル・ボルキア氏の末弟だ。
ハサナル・ボルキア氏は首相・国防相・蔵相も兼任して絶大な権力を有し、ブルネイの絶対君主とされる人物。ギネス・ワールド・レコーズに世界一の富豪と記録されたこともある。
自身の50歳の誕生日に合わせて個人資産で東南アジア最大級の遊園地を建設し、国民に無料でマイケル・ジャクソンのライブを自費開催したというエピソードも残っている。
■夢破れ、工事は止まり、触らぬ神に祟りなし入手した土地登記簿によると、ジェフリ・ボルキア氏は1994年12月に目黒区青葉台一丁目88番1の所有権を取得している。場所は代官山ヒルサイドテラスの裏。面積は1044.36㎡、約316坪。バブル崩壊後とはいえ、この土地を乙区なし(=借り入れなし)で購入とは驚く。
プール付きの自邸を建設する予定だったとされるジェフリ・ボルキア氏だが、工事は途中で止まり、現在は鉄骨むき出しの廃墟がさびしく佇むばかり。鬱蒼と生い茂る緑を見ていると、「夏草や兵(つわもの)どもが夢の跡」という松尾芭蕉の句が思い起こされる。
ブルネイの兵には何があったのか。
米国のヴァニティフェア誌によると、ベントレー、ロールスロイス、フェラーリといった超高級車コレクション2300台に自家用飛行機8機など、ジェフリ・ボルキア氏の所有物は豪勢を極めていたという。

1986年から1997年にかけてブルネイの蔵相とともに投資庁のトップも務め、VIPとしてのポジションも生半可ではなかった。だが、彼の転落は自身が経営していた建設会社の倒産が発端となる。赤字補填に国家予算を流用していたことが明るみになってしまったのだ。
これにより、国王からは「金を国庫に返せ」と訴訟を起こされてしまう。王室のイメージを損ねたジェフリ・ボルキア氏が失脚したのは言うまでもない。母国を離れて英国のロンドンで暮らすことになった。
これらのいきさつを経て、豪邸建設計画は頓挫。それどころか、彼は固定資産税や都市計画税の支払いも怠ったため、2000年には差し押さえを喰らってしまう。代わりに税金を支払ったと推察されるのが、2009年に本件不動産の所有権を取得しているブルネイ投資庁。かつて、ジェフリ・ボルキア氏がトップに君臨していた組織だ。
■開かずの仮囲いが開いた!! このチャンスに遭遇した取材班が見たものとは?調査のために現地を訪ねた際、本件土地を整備している場面に偶然にも出くわした。

「今夏の大雨で流れる可能性のある土砂が、隣接する民家の壁に何らかの影響をもたらさないように整備してくれと。ここだけの話ですが、依頼主はブルネイ投資庁です。本丸の廃鉄骨の解体作業の依頼は、まだ入ってこないのです‥‥」とのこと。
それにしても、中は荒れ果てている。
推定で約16億円の土地。安くない固定資産税を払いつつ、現在もブルネイ投資庁が所有しているのは確かだ。
この土地をめぐっては、売却に関する詐欺話などの噂が絶えない。そのためか、周囲の老舗店や古老の近隣住民に話を聞こうとすると、「触らぬ神に祟りなし」の対応を実践されてしまう。
「そういった裏事情とは一切関係ありません」といった風情で、オシャレでセレブな街には今日も人があふれている。
ところで、この話には、まだ続きがある。こんな数奇な不動産物件にまつわる、話が大好きな諸君!
2014年から2019年まで世間を騒がせた不動産取引の問題点を、物件ファンという一般の方でも理解できるように丁寧に解説し、さらに現場の今を追跡取材し、6年分の、喜劇、悲劇と化した不動産取引の真のストーリーを凝縮! あの『クソ物件オブザイヤー』が初めて1冊の本となって、10/12発売なのだ!!
さらに、この忖度しない姿勢で臨む、お騒がせツイッター集団「全宅ツイ」著による作品が『クソ物件オブザイヤー』も含めた6冊同時で発刊という怒濤のラインナップとなっているので要チェック!!