こんにちは。不動産ツイッタラーのなめ茸と申します。

新築マンション販売モデルルームの“中の人”です。
 前回は『新築マンションを値引く方法【知識編】』と題して、値引きを行っているマンションの見分け方についての記事を執筆しましたので、今回は実際に値引き交渉が行われる場で、知っておくと役立つ知識についてお伝えしたいと思います。
 「この秋、家を買いたい!」と考えている方々にとって、少しでも役に立てば幸いです。
(※前回の記事をお読み頂いて、マンションの値引きがどのような構造下で行われるのかを理解したうえで読み進められると、より理解し易いかと思います)

“中の人”が教える【新築マンションの値引き交渉法(実践編)】...の画像はこちら >>
欲しい物件を少しでも安く…。どんな交渉をすれば良いのだろうか?◆値引き交渉の心構え
~『何をして欲しいのか明確にする』~

 いざ、欲しいマンションがあり、それがどうやら前回記事で説明したような「値引きを行いそうなマンション」に該当しているっぽいぞ…。

 そうした条件下でなら、担当の営業へぜひ値引き等の交渉を持ち掛けてみてください。
 その際に大事なのは、『自分は売主に何をして欲しいのか/何がクリアになれば購入できるのか』の条件をなるべく明確にしておくことです。
  
 例えば5,500万円の住戸があったとします。
 あなたが「もう少し安くなりませんか?」と尋ねると、担当営業は「確認します」と一旦事務所に戻り、数分後に再び現れました。そして着座して一息置いてから「…幾らだったら買いますか?」と聞いてきました。

 この時、あなたが特段の根拠もなく「う~ん、5,000万円とかかな?」と答えた場合、おそらく多くの営業は瞬時にこう判断すると思います。

●言われて初めて額を考えている

●本気で尋ねていない

●応諾しても買う気が見えない

 そして、体よく笑って断るでしょう。

もしくは、改めて金額の根拠を尋ね、それが曖昧だと分かると、このような言葉とともに額の引上げに入ります。
 
「いやぁ、こちらは人気のお部屋ですから、どんなに頑張っても諸費用の一部程度がいっぱいなんですよ…」

 つまるところ交渉が始まらないか、始まったとしても有利な条件は掴みにくい状況になります。
 残念! 交渉は失敗です…。

 

 一方、同じシーンで、あなたは既にこのマンション、そしてこの住戸を十分に研究していて、以下のように入念な検討経緯と結果を伝えたとします。

●間取りや方位・眺望等の条件は申し分ないが、希望予算の5,000万円より500万円高い
●このマンション内の予算に見合う他住戸も検討したが、どうしても条件が折り合わなかった
●予算は家族やファイナンシャルプランナーと何度も相談したが、どうしても5,000万円が限度だった

 その上で「5,000万円だったら購入します」と確固たる意志をもって答えたらどうでしょうか。

 同じ金額の交渉でも、我々営業側が受け取る印象は全く異なります。
 顧客であるあなたが売主に対して『行ってほしい条件』と『その理由』が明確で、かつ条件が通れば『購入する意思』を示しているからです。

 もちろん、この値引き要請を、我々営業が満額で回答できるかどうかは、その物件・その住戸が置かれた状況により異なります。しかし私達も、ここまで購入する意欲を示してくれているお客様を逃したくない。
 少なくとも交渉のスタート地点は、あなたが提示した「5,000万円」から始めることになると思います。やりました!

 このように、『何をして欲しいのか・その理由』、そして『購入の意思』を示せることは、交渉のイニシアチブを取り、有利な条件を引き出すキーとなります。
 因みに、交渉材料は価格だけではありません。

例えば私は過去に『リフォームしてほしい』『駐車場を確保してほしい』『ルーフバルコニーに玉砂利を敷く許可がほしい(これはさすがに断りました…)』等の条件を提示されたことがあります。

 『何をして欲しいのか』が価格ではない場合も、ぜひ遠慮せずに伝えてみてください。
 

◆値引き交渉の成功率を上げるポイント

 『条件提示』は値引き交渉の核となる部分です。しかし、それ以外にも交渉の成功率を上げるためのポイントはいくつか存在します。
 文字数の関係もありますので、以下に箇条書きでポイントをまとめます。


【① 住宅ローンの事前審査は終えておくこと】
 交渉が通っても、ローンが通らなければ意味がありません。しかも、営業担当は上司からめちゃめちゃ詰められます(…つらい)。
 そもそもローン審査未通過の状態では売主社内で値引き申請が決裁されないでしょうし、ハナから交渉の土台に乗れないケースもありますので、事前にしっかり終えておきましょう。

【② 親族への相談を済ませておくこと】
 本人達が購入する気で話を進めていても親族の反対でキャンセルになる商談は多く、営業であれば誰もが経験する道です。
 値引き交渉成立後にこれらの理由で話がフイになったら目も当てられません。誰も幸せにならない。やっぱり事前に相談しておきましょうよ。


 「親族の反対は無視しろ」という営業もいますが、これもあまり幸せになれないです。早めに相談して、反対されたら一緒に対策を考えましょう。

【③ 条件は最初に全部提示すること】
 営業が「やりました〇〇さん! 値引き通りましたよ!」と報告すると、なぜか一瞬電話口で間が空いたのちに「ありがとうです~。で~。実は主人と相談して~。やっぱり食器棚も欲しいなって~」
 …つらい。
 業界用語で“二度指し”と言いますが、さすがにこれは通りません。売主に報告したらとてつもなく怒られます。最初の交渉時点で理由と一緒に全部出してください。

【④ 現金をすぐに動かせるようにしておくこと】
 値引き応諾の交換条件として、営業サイドからはスピーディーな契約締結や引渡しを条件に出すことが多いです。
 「値引き許可が下りたその日か、遅くても翌日に手付金を振込んで、週末に契約できますか。それなら売主説得できます」
 そう言われてから慌てて定期預金を解約しに走るのは、なかなか時間的負担と心的負担がかかります。

【⑤ 営業担当を信頼し、仲良くなること】
 営業担当も人間です。自分を頼りにしてくれる人のためなら、交渉を頑張ろうという気概も持てます。たしかに相性もありますが、仲良くなって損なことはありません。いい情報を引き出せるかもしれません。


 いかがでしたでしょうか。
前回、今回と2回にわたり、我々営業がなかなかお客様に明かすことのない『値引き』の舞台裏について書いてみました。
 もちろん一口に「マンション業界」といってもその裾野は広く、私が書いた内容がまったく当てはまらないケースもままあると思います。

 しかしながら、この記事をきっかけにみなさんには交渉成立の可能性を少しでも高めて頂き、『値引きをしてでも売り進めたいマンション』と『お得に買いたい顧客』のマッチングが1件でも起これば嬉しいです。

 最後までお読み頂き、ありがとうございました。


◆なめ茸/デベロッパー部所属
大手マンションデベ勤務。販売現場一筋で銭湯と高円寺をこよなく愛しています。
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