私ども「与儀美容室」は、私の祖母である与儀八重子が昭和23年に銀座で創業し、その後、母である与儀みどりが跡を継ぎました。
母の代になってから、皇后雅子さま、秋篠宮紀子さまをはじめ多くの妃殿下方、またノーベル賞を受賞された方の授賞式でのお支度や芸能人の方の結婚式なども担当させていただいております。
最近では、皇室でのお仕事がマスコミで取り上げられた影響もあり、遠方からわざわざ足をお運びになる方や、「プリンセスメイク」に興味を持って私のメイクレッスンを受けてくださる方も増えております。
前々回では、空前のブームになった雅子さまのロイヤルウェディングのお支度のお話をさせていただきました。
重い雲がサッとかき消え、ティアラをのせた妃殿下の髪に明るい光が差し込み笑顔のおふたりを乗せたオープンカーが滑り出すと、沿道に詰めかけた19万人がそのお姿に歓声をあげたのでした。
婚約内定前からずっと雅子さまを追い続けてきた「雅子さま番」の記者の方が母のところにお越しになって、「今まで見た雅子さまの中で一番美しかった。人をこんな輝かせる仕事があるのですね」と言ってくださったそうです。
実際、沿道に笑顔で手を振られた雅子さまのヘアスタイルやメイクは、どの角度から見ても品良く美しく見えると、多くの方から絶賛していただいたのでした。
それから遡ること三年前の平成二年六月、それまでの仕事ぶりから、秋篠宮妃紀子さまの御婚儀のお支度をご用命いただきました。この御婚儀は「紀子さまブーム」の影響もあり、平成最初のご慶事として大変注目されておりました。
御婚儀のお支度がすべて終わり母が顔をあげ祖母に目を向けると、仕事に集中していたのか、祖母の白目は真っ赤に充血していました。
「あら、目が真っ赤よ」
「あら、あなたも真っ赤よ」
祖母に言われて鏡を見ると母の目も真っ赤。
この日のために練習を重ね、抜かりなく準備をしていた母たちですが、世界中から注目を浴びる美しいプリンセスをお手伝いするプレッシャーから極度の緊張状態にあったのでしょう。
手前味噌で大変恐縮ですが、この時の紀子さまのスタイル、そして後の雅子さまのスタイルは、今見ても充分に美しいと言っていただける仕上がりなのではないでしょうか。
私たちが皇室のお支度をさせていただくときに、もっとも大切にするのは、「オーソドックスであること」です。時代や流行にとらわれない、タイムレスな美を追求しております。10年経っても50年経っても美しいと思っていただけるスタイルづくりが永遠のテーマだと言っても過言ではありません。
その上で、その方本来の美を引き出すように心がけています。
メイクに関してもいかにも「メイクをした」というような不自然なメイクや濃いメイクはせず、その方の美しさを引き立たせることを常に意識しています。
「今日のメイクはおきれいですね」と言われることは、私たちにとって褒め言葉でも何でもありません。「今日はなんだかおきれいですね」と言われるような、ナチュラルな美しさを引き出すのが仕事なのです。
「美容の真髄とは、その人本来の美を引き出し、その日の元気と生きる勇気を与えること」という祖母の言葉のとおり、私たちの仕事はその方のお人柄や内面からあふれる美しさを引き出し、笑顔になっていただくことなのではないでしょうか。