田原・・・ここにきて、安倍さんが憲法改正のボルテージを上げた。
望月・・・安倍首相は、憲法を改正する必要はないと言っていますよね。「安保法制ができたから、(憲法改正は)もういいんだ」と、きっぱり言い切っています。
田原・・・2016年7月に参議院選で自公が3分の2議席を取った。衆議院は先だって行われた衆院選で、憲法改正に必要な3分の2を取っていた。僕は安倍さんに「いよいよ憲法改正だね」と言ったんだ。そしたら安倍さんは小声になって、『憲法改正する必要は全くありません』と。「なぜ?」と聞き返したら、「集団的自衛権の行使ができるようになったからです」と明言した。アメリカが、とにかくうるさくて、このままでは日米関係を維持できない。それで集団的自衛権の行使を決めたら、アメリカは満足して何も言わなくなったそうだ。だから憲法改正する必要はない、という理屈になるわけだ。
2016年9月に聞いた話だけれど、その翌年「憲法を改正する」と言った。
もっと言うと、集団的自衛権の行使をやるべきだと言ったのは元駐タイ大使の岡崎久彦氏。ちなみに祖父・岡崎邦輔氏も政治家で、近代外交の礎を築いた陸奥宗光とは従兄弟の関係にあるという。

望月・・・岡崎さんと言えば、(2001年)頃、タカ派の貴公子として注目を浴びていた安倍さんに、目を付けたとされていますよね。『「安倍晋三」大研究』(KKベストセラーズ)の漫画「安倍晋三物語」の中で紹介したのですが、岡崎さんと、安全保障研究者の佐世昌盛氏が、安倍さんに集団的自衛権について“教育”をしたと。
田原・・・その通り、事実です。岡崎さんは、安倍さんに集団的自衛権の問題を片付けさせようと考えていた。本当は、小泉純一郎にやらせたかったようだが、小泉元首相は反対したようだ。
安倍さんを始めとする政治家を教育するための教科書が、佐世昌盛氏の1973年の書籍『集団的自衛権』。実は佐世氏は、安倍さんが成蹊大学を入学する時に面接官を務めた人物で、当時は大学の助教授だった。
(『「安倍晋三」大研究』 漫画p115より)
田原・・・アメリカは、極東問題として日本を守る責任があった。安保条約で、日本が攻められたらアメリカが守ることになっているが、アメリカが攻められても日本は何もしない。
しかし冷戦が終わって、アメリカは極東を守る責任が無くなった。そうすると、日米同盟を持続しようと思えば片務的条約となる。それで日本は慌てて集団的自衛権を成立させなければならなかったわけだ。岡崎さんは、「これで憲法改正の必要はない」と言ったそうだ。

●日本は憲法改正を行うべきなのか? アメリカ、日本会議の影響は?
望月・・・安倍さんは、今の世論では憲法改正はできないと分かっていますよね。それでも憲法改正を掲げるのは、その旗を降ろした瞬間に自分を支えている日本会議のような人たちから、支持を得られなくなると思っているからですよね。
田原・・・そう、捨てられてしまうだろう。
望月・・・田原さんは、安倍さん自身に憲法を改正したいという思想はあると思われますか? 祖父の岸信介元首相の意志をついで、とか……。
田原・・・岸さんは関係ないと僕は思う。
望月・・・陸上自衛隊の全身である警察予備隊の創立は1950年。そして、自衛隊が1954年に設立。
田原・・・自民党ができたのは1955年でしょ、最初の首相が鳩山一郎。鳩山一郎は、日本は憲法9条2項で戦力不保持、交戦権は所持しないとなっているが、自衛隊は明らかな戦力であり交戦権に当たるとして、憲法を改正しようとした。続く岸も憲法改正、ところが池田勇人内閣、その後の(安倍首相の大叔父に当たる)佐藤栄作内閣とそれ以降、誰一人として憲法改正を言わない。
僕は宮沢喜一に「池田さん、佐藤さんは噓をついていることになる。憲法と

自衛隊は明らかに矛盾している」と直言したことがあった。
宮沢さんは「違う」と。「日本人は自分の身体に合った洋服を作るのが下手だ」と言うんだ。宮沢さんらしい言い方だった。
宮澤さんは、「日本人は押し付けられたものに体を合わせるのは得意。
押し付けられた洋服とは日本国憲法。あの憲法を押し付けられたために日本にはまともな軍隊は作れない。だから日本の安全保障はアメリカ頼みとなるという。
そしてアメリカの戦争に巻き込まれる。佐藤栄作内閣の時にベトナム戦争が始まった。アメリカは日本に、一緒にベトナムで戦おうと言ってきたそうだ。宮澤は、佐藤栄作がアメリカに「NO!」とは言えないことは分かっていた。そこで、「本当は行きたいが、難しい憲法を押し付けたのはアメリカじゃなかったのか」と言ってなんとかかわすこととなった。
それ以降、あの憲法を逆手にとってアメリカの戦争に巻き込まれないできたのが日本という国だ。
竹下登が総理大臣の時に質問した。「日本には自衛隊があるから戦えるだろう」と。
望月・・・同時にアメリカも、こうした状況を「良し」としていたわけですね。アメリカはもはや日本はどうでも良くなった。そうして憲法改正発議の本丸は、アメリカから日本会議となったわけですね。
田原・・・安倍さんは憲法を改正できないと思っている。なぜならば憲法改正は、全政党が議論をしないと出来ないから。議論に立憲が絶対入らないことは、枝野代表に何度も確認している。下手に入れば立憲は自殺行為、そして共産党が入るはずもない。自民党はこれまで野党を騙しに騙して強行採決してきているからね。立憲と共産党が入らなければ議論はできない、ということだ。
●織田信長から始まった日本の政治構造、ポスト安倍は誰?
望月・・・自民党内から、安倍4選、5選の話が出ています。二階俊博幹事長は、さかんにアナウンスしています。
田原・・・あり得ない! 僕は安倍さんに直接言った。「安倍自民党総裁4選は反対だ」と。安倍さんが、「どうしてか」と言うから、「今ですら自民党の半分は、安倍さんに寄りかかっている。4選なんかしたら自民党自体が体力を失ってガタガタの政党になってしまう」と返した。
そしたら安倍さんは、「良く分かっています」と言っていた。僕は二階さんや菅さんが安倍さん4選を言うのは、二階さんは幹事長を、菅さんは官房長官を続けたいから。安倍さんにいいこと言わないと続けられないからね。僕は、何にもないから言いたいことが言える。
望月・・・ポスト安倍の筆頭候補の一人として、今や、“令和おじさん”として一躍人気者になった菅さんが出て来ています。定例会見でも、「令和おじさんで首相候補筆頭ですね」と記者が聞いたりしています。
田原・・・辞任した菅原経産相、河井法務相は、菅官房長官人事だった。この人事ミスは菅さんにとっては痛いところだよね。
望月・・・小泉進次郎環境相の話にせよ、菅原前経産大臣の香典にせよ、「週刊誌だけで取れる情報かな?」と思ってしまいます。河合前法務大臣も現職の事務所関係者からのリークだけでなく、それとは別のルートで情報が出ている可能性もあると感じました。
田原・・・菅原辞任は秘書の裏切りでしょうね。
望月・・・菅総裁となると、安倍 vs 菅との話もありますが、小泉進次郎さんもポエム発言以降、やや失速した感があります。菅原さん、河井さんと辞任が続くと、「菅総裁へのけん制球なのかなとも感じます。権力が絡むと、菅さんでも釘が打たれる。政治の世界は魑魅魍魎(ちみもうりょう)だなと改めて感じます。

田原・・・僕はね、日本の政治は織田信長の頃からちっとも変わっていないと思う。つまり政治の世界は、勝つか負けるかということ。負けたら何を言っても弁解に過ぎない。勝つためにあらゆる手を使うのが政治家だ。織田信長は、敵を全部殺す。今は選挙民をどううまく説得するか、駆け引きが色々あるというわけだ。
望月・・・何のために勝つのか、というところがブレているような気がします。
田原・・・政治家は、自発性を失ったら終わりだと思う。長期安倍政権で、自民党には自浄作用がすっかりなくなってしまった。
望月・・・安倍政権でうまみのある人たちがぞくそく増えています……。手離したくないのだろうとは思いますが、政治家の矜持はどうなったのでしょう。

1934年、滋賀県生まれ。 1960年早稲田大学卒業後、岩波映画製作所、東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、1977年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』などの番組でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。 1998年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学で、「大隈塾」を開講。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数。 著書多数、近著は『殺されても聞く』(朝日新書)。望月衣塑子(もちづき・いそこ)
1975年、東京都出身。慶應義塾大学法学部卒。東京新聞記者。千葉、埼玉など各県警担当、東京地検特捜部担当を歴任。2004年、日本歯科医師連盟のヤミ献金疑惑の一連の事実をスクープし自民党と医療業界の利権構造を暴く。社会部でセクハラ問題、武器輸出、軍学共同、森友・加計問題などを取材。著書に『新聞記者』(角川新書)『THE独裁者』『「安倍晋三」大研究』(KKベストセラーズ)『安倍政治100のファクトチェック』(集英社新書)他。