KYとは空気が読めない人物の略語。2007年の流行語にノミネートされた言葉だ。ちょっと古臭さは否めないけれど、私は最近になってKYこそ、令和の世の中をスマートに気持ち良く生きる術だと推奨している。この秋に発売した『してしな本(結婚してもしなくてもうるわしきかな人生略)』こそ、その気持ちを伝えたくて書いたようなところがある。このコラムを読んでくれているあなたも、日本に脈々と続く『女子たる者、結婚して、夫に尽くして、子どもを産んで社会に貢献すべし』という、風潮に悩まされてきたことはないだろうか?
ちなみに私はずっとこの風潮に同調して、30代のすべてを捧げた。ありとあらゆる婚活に手を出して、なんとか苗字を変えようと必死に頑張った。冷静になって振り返ると結婚のちゃんとした意味も知らなかった。いや、知ろうとする余裕がなかったのというのが正しいのかもしれない。まるで義務教育の過程のように、結婚をしようと奮闘していたのだから。
「結婚はただ法律の中に刻まれた制度のひとつに過ぎない。
今からタイムマシンで戻って、当時の自分にこう伝えてあげたい。
2019年はまさに同調女子が豊作の時代で、テレビドラマでもその傾向がよく見られた。『凪のお暇』(TBS系)や『だから私は推しました』(NHK総合)の放送当初がその代表例。両作品とも主人公はOLという設定で、同僚とランチだけではなくSNSまでひたすら気を遣って足並みを揃えようと自我を殺す。そして結婚に焦って、男に振られる。そのシーンに共感をした女性が多いというのだから、みんなストレスが溜まっているのだと切なくなった。
周囲に合わせて生きていくのがそんなに大切なのでしょうか?
■この世は3分間が経ったらすべて過去何も私は自由奔放、縦横無尽に明日から無職として生きようとしているわけではない。もちろん勧めているわけでもない。今、社会人として働いているのなら、形は様々でもある程度のマナーは知っている。親を泣かせて警察に捕まるようなことはしていないし、納税率も100%。もうこれで人間として合格ではないかと思っている。
では今、どんなKYに目覚めたのか? 私、大雑把そうな雰囲気に見られがちで意外と周囲の顔色を伺うことが多い。ストレスが原因で蕁麻疹が出てしまうこともある。その性分ゆえ、時間をきっちり守るタイプで遅刻もしない。これは一般的には当たり前かもしれないけれど、メディア業界は非常にゆるく、沖縄タイムで進行することが多々ある。昔、出版社の社員だった頃はこの波にまんまと乗っかっていたけれど、個人事業主になってから改心した。スケジュールを守らないことに何の得があるのだろうと、思ったのだ。
ビジネスにおいて時間、及び数字を守らないと信用は悲しいくらいにどんどん薄くなっていく。それだけならいい。問題はその先に、遅延する人物を待っている人たちも増大していくということだ。私はこの“待っている人たち”になった経験が数えきれないほどある。その度に余分なストレスを体内に溜めてしまったのか、肌が荒れた。
で、ある日決めた。
進行してもしアクシデントが発生したら、それが諸悪の根源である遅延者に託す。もうそれでいい、合わない人間のことを考えて脳みそを使うのはもったいない。都合の悪いことは忘れるに限る。この世は3分間経ったら全部過去だ。
それよりも今日の夕ご飯は何にしようかとワクワクしていたい。
話を少し戻そう。結婚していないから誰かに迷惑をかけたことがあるだろうか? いや、むしろ独身として散々ご祝儀も出産祝いも払い続けた実績がある。残業も飲み会の幹事も時間があるだろうと押し付けられて、断れなかったことだってあるだろう。ちなみに私は多いにある。
KYを選択するときは少しだけ良心の呵責を感じることがあるかもしれない。でもそれは悪いことではない。きちんとすべきことをこなしてきたあなたへのプチ贅沢みたいなものである。
「え、知らなかったです!」
これを合言葉に、めんどくさそうな香りがする人物や雰囲気からは距離を置こう。知っているだろうか、KYとは空気が読めないの意味の他に『危険予知』という意味がある。そう、自分の心身を守るための常套手段に加えていい。