特別養護老人ホーム(以下、「特養」と表記)に入ってからの父の状態と、心揺れる母の言動を、私(=潮)の視点から記しておいた。母も日記をつけ始めた(母の日記は【ネーヤ・記】と表記)。

私の視点、ときどき母の視点で綴る「まあちゃん介護雑記」。入所からの1年間を振り返ろうと思う。ちなみに、父と母はいつもの呼称、「まあちゃん」「ネーヤ」で書くことにする。娘の呼称は、「長女・地獄」「次女・潮(私)」で表記する。
 今回は、特養に入所してから2週間、父が早くも「ホームシック」になるお話・・・。

切ない・・・特養老人ホーム入所2週間で認知症の父「家へ帰りた...の画像はこちら >>
イラスト:地獄カレー●父、オムツびっしょりの小便まみれの日々

2018年4月1日(日)【ネーヤ・記】
 9時半に到着。
 食堂で椅子に腰かけているが、体を二つ折りにして寝ていた。
 目を覚ますと早速トイレへ。オムツびっしょり! 新聞と市の広報紙を持っていくが、読み終わると居眠り。車椅子で散歩に誘うも、行きたくないらしく、ベッドに横になる。すぐいびき。
 午後、外で尾の長い黒猫が悠々と部屋の前を横切る。


 夫(まあちゃん)に言っても、まったく関心がなさそう。庭の木にマーキングしていなくなった。午後の静かな住宅街。何の刺激もなく、本人も意欲ゼロ。ダジャレをひとつも聞いていない。妙におとなしい!

 ネーヤ(母)「ここ、少し慣れた?」
 まあちゃん(父)「もう1か月入ってるのだから慣れたさ」
 ネーヤ(母)「明日で1週間だよ」
 まあちゃん(父)「…………」

 余計なことを言ってしまった。

2018年4月3日(火)【ネーヤ・記】
 午前中、提携クリニックへまあちゃんを連れて行く。
 心電図、胸部レントゲン、血液検査。尿は出ないので、ホームで採尿することに。会計1万2250円! 財布に8000円しかなかったので、立て替えてもらい、今月分の支払いと一緒に請求してもらう。午後入浴。体重77・2㎏。

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【潮の追記】 まあちゃんは約3か月で8㎏近く痩せた。インフルエンザ感染でまず痩せて、ショートステイ1か月で規則正しくショボいムショメシのおかげで、ぐっとスリムに。実は、私も人生最大の体重になっていた。まあちゃんがまだ自宅にいるとき、体重を測らせようとしても、うまく体重計に乗れなかった。見かねた私は「こうやって乗るの!」と自らが体重計に乗ってみせたら、78㎏もあった。私自身、身長が176㎝あるとはいえ、46年の人生で最重量。そういえばここ数年、膝も痛い。こりゃいかんと思って、ダイエットを始めた。ホームへ行くと、排泄介助やらで鼻がバカになるし、自分もこうなるのかと暗い未来予想図を考えてしまって、食欲が失せる。これをうまく利用しようとも考えた。立ってる者は親でも使え。いや、立ってないけど。
まあちゃん、私も痩せるわ。

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2018年4月6日(金)【ネーヤ・記】
 9時半に到着。
 食堂で居眠りしていた。気づいたら、入居者全員が居眠りしている。食後は眠くなるのだろう。部屋に入ると床はほこりだらけ、電気つけっぱなし、ポータブルトイレの周りは小便まみれ。半分乾いて光っていた。職員に告げると「後で掃除します」とのこと。家から持ってきた雑巾で床を拭く。ベッドの上もモノが散乱して凄まじい!
 ポータブルトイレのペーパーホルダーがない。探したらたんすの引き出しに入っていた。

2018年4月8日(日)【まあちゃん生誕祭: 全員集合】
 今日はまあちゃんの77歳の誕生日なので、千葉の奥地から姉の地獄も参加。

みなさんお揃いで、ロビーのテーブルにごちそうを広げて、すでに食べ始めていた。まあちゃんが待ちきれなかったらしい。赤飯にいなりにからあげ。ひたすら食う。

 ケーキを買っていく。箱を開けた途端、フォークをケーキにぶっさすまあちゃん。皿にのせる前からケーキがぐちゃぐちゃに崩されてしまう。これぞ認知症。子供よりもひどい。
 食べ終わった後は歩行トレーニング。外に出て、まあちゃんの手を持って歩かせる姉・地獄。車椅子を押して、ホームの外側(敷地内)は案外平らじゃないことに気がついた。

施設内や入口付近は完全に平らでバリアフリーだが、駐車場までの道のりは意外と傾斜がある。
 ほんの少しの傾斜でも、車椅子の人にとっては大変なのだ。いまさらながら知る。
 入居しているおばあさんが食堂で話していた。
「なんで私がここにいるのか、わからない。ずっと理由を考えているの。何か私が悪いことしたかなあと思って」
 切ない。そう聞かれたら、どう答えていいのかわからない。
 タクティールケアを父にやってみる。手と足、ベビーオイルでマッサージ。血行はよくなったみたい。いつも手が氷のように冷たく、かたまっているので、行ったときはマッサージするべし。
地獄がまあちゃんの足の爪を切ってやる。爪の間が猛烈にくさい! 納豆を腐らせたような。納豆は腐ってるから納豆なのだが、さらに腐敗を強いたようなニオイ。

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【追記】 タクティールケアとは、触れることで痛みや不安、ストレスが和らげられるというもので、介護の現場でもそのメソッドが使われているという。認知症の本を探しているときに、この本を見つけたので買ってみた。金払って講座を受けて資格をとってうんぬん、という内容にはまったく興味はないのだが、とにかく優しく触れることだとわかった。
 本には簡易なやり方が書いてあったので、それを実践してみた。冷えたまあちゃんの手足に一瞬血行がよみがえったのは確かだ。ただし、この年代の人って、オイルマッサージに慣れていないというか好きじゃない。油でベタベタして気持ち悪いと文句も言うのだ!

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●まあちゃん早くも「家に帰りたい!」と言う
切ない・・・特養老人ホーム入所2週間で認知症の父「家へ帰りたい!!」と叫ぶ【実録:母と娘の「介護日記」】
2018年4月9日(月)

 ネーヤと地獄と、10時に入る。
 まあちゃんは昨日と同じ服。布団がオシッコで濡れていた。
 食堂で開口一番「家に帰りたい」とつぶやくまあちゃん。
 笑ってごまかす私。
 外に連れ出して、スイートポテトとチーズケーキを口におしこむネーヤ。
 食べ方は相変わらず汚い。口の周りにも手にもつけながら、足元にもボロボロとこぼしまくる。
 日を浴びるまあちゃん。
「この桜の木に鳥が来てるんだよ」と2回言う。
 食堂から庭を眺めていたのだとわかる。ダジャレにもキレがない。
 その後、地獄のトレーニング。ネーヤはすぐに座らせようとする。できるだけ立って歩かせないと、寝たきりになっちゃう。
 とにかく動かすことだ。
 足のむくみはひどいし、立ち上がりのときに膝がガクブルして、生まれたての子羊みたいになる。いや子羊のほうが立派だな。歩き始めれば、ガクブルは治まる。初動だけが不安定で、後は大丈夫だから、どんどん動かさないと。ネーヤの過保護が問題だ。ネーヤの寂しがりも問題に。まめに電話して、しゃべらせるようにしよう。

2018年4月12日(木)【ネーヤ・記】
 到着するなり、夫は「ここはいつ出られるんだ?」「こんなところにいられないよ」「何もすることないし、家へ帰りたい」と言う。
 女性の機能訓練士さんが来て、これからは本格的な訓練が始まる。実際に始まると実にいきいきして。あんな顔は久しぶり。嬉しそう!
 午後は外へ。
 私が乗った車椅子を夫に押してもらう。じっくり新聞を読んだ後、『東京新聞』のカメラマンの写真について話す。排便後、ウォシュレットを久々に使って大満足の様子。

【追記】 機能訓練指導員は週5日いるらしい。ただし、まあちゃんのいるユニット専門ではない。多床室も含めて100人の大所帯で、順番に行うから、毎日ではないだろうと思う。それでも、やっとレクリエレーションやリハビリが始まるので、ひと安心だ。新しい施設は、なかなか体制が整わないという点がデメリットではある。 ネーヤが乗った車椅子をまあちゃんが押すと聞いて、ちょっと危ないかなと思ったが、案外いい運動になるかも。過保護はよろしくない、と思い直す。

『親の介護をしないとダメですか?』より構成)

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