(『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』より引用)
例えば借金がある、DV癖がある、浮気をする、実は前科があるなどの訳あり物件の男性を『クズ男』と総称するとしよう。でも中には表面的に分かりづらいけれど、そのクズに到達していないけれど、人間としての危険性をはらんでいる男がいる。その本性がほんのちょっとした言動や風貌で「(……この男、なんかおかしくないか?)」と、第六感を刺激してくる男を何人か見てきた。
そういった男を総称して個人的に『あかん男』と呼んでいる。中でも、その言動が分かりやすかった数名のエピソードをランダムに紹介していきたい。
未然に男性災害を防ぐための、防御策をどうぞ。
“あかん男”たち②
【ピッタピタのトップス男】▼ヒモ体質▼人懐っこそうなさわやかな笑顔と、ピタピタ具合にはご注意。
ロンTを買うときには、少しゆとりがあるものを選ぶ。そもそもTシャツのラインも、近年はビッグシルエットが主流になってきた。
と、そんな時代に逆行するように、いつもピッタピタのトップスを着用している男性たちを知っている。彼らに共通していたのは、女に奢らせるヒモ体質。
たまにお邪魔する花屋のオーナーのこと。いつも接客をしながら息子の自慢話をしてくる、愛想のいい男性。ただ彼には15歳近く年上の女優並みに美しい、女社長の愛人がいる。もう客も認める不倫関係で、食事代金は常に女持ち。噂で店にも出資をしてもらっていると聞いた。早い話がヒモである。
そんな彼の容姿で気になるのは、いつもピッタピタのトップスを着ていることだ。
「え? それ、絶対にワンサイズは小さいですよね?」
そう聞きたくなる、乳首のくっきり感。
ちなみにこちらの男性、本妻も10歳近く年上でやり手の営業マンだと聞いた。家でも外でも女にぶら下がりっぱなしか。でも自分に投資をしてくれる女性を捕まえることも、才能のうちかもしれないと店内で、花に囲まれつつ、思いを巡らす。そう、浮き彫りになりすぎた彼のボディラインを眺めながら。
ピッタピタトップスの件を脳内にインプットした後のこと。喫茶店で原稿を書いているときに、また怪しい男性に遭遇した。
18時を過ぎると、喫茶店の人間模様は一気に楽しくなる。仕事を終えて待ち合わせをするカップルが増えるからだ。でも店柄なのか来店するのは、中年カップルが多い。
その中にときどき席が隣になる、椿鬼奴に似た女性がいた。
「あ、こっち、こっち!」
とある日、連れ合いの登場に鬼奴が声をあげた。チラッと横目で見ると……顔色の悪そうな細い中年男性が、ピッタピタの黒のVネックロンTを着ていた。ボトムは黒のスリムパンツだ。原稿そっちのけでふたりの会話を聞いていると、彼は中年にもかかわらず、バイトをしながら下北沢で活動するバンドマンらしい。そして鬼奴は会社員だ。
「俺、こんな美味いコロッケバーガー食べたことないよ!」
という、彼の一言にゾッとした。私も食べたことはあるけれど、そんなに美味いジャンクフードではない。ひょっとして彼女を自分の手中に収めるための演出なのだろうか。
それから何度かふたりを店で見かけたけれど、支払いはいつも鬼奴だった。
でも彼女はいつも満面の笑みで、彼と向かい合って座っていた。そして彼のコーディネートは決まって、黒VネックのピッタピタTシャツだ。他に所持しているアイテムはないのだろうか?
筋肉が盛り上がったボディを強調するタンクトップ姿であれば
「(ああ、鍛え上げた体を見せたいんだよね)」
納得がいく。でも痩せた体を見せることが、着用している本人に対してどんな特典があるのかは甚だ疑問だ。
ピッタピタトップスで連想すると、鬼奴の(勝手に)彼氏と同じく、バンドバンを思いつく。かつて話題になった、恋人にしてはいけない職業の『3B男(バンドマン、美容師、バーテンダー)』の一種だ。悲しいけれど、3職種とも魅力がある。
私の脳内では、喫茶店で音楽について語る彼と『3B男』の言葉がついリンクしてしまった。
初デートで相手がピッタピタのトップスを着てきたら、一旦は注意を払ってほしい。あなたの財布は狙われているかもしれない。