(『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』より引用)
例えば借金がある、DV癖がある、浮気をする、実は前科があるなどの訳あり物件の男性を『クズ男』と総称するとしよう。でも中には表面的に分かりづらいけれど、そのクズに到達していないけれど、人間としての危険性をはらんでいる男がいる。その本性がほんのちょっとした言動や風貌で「(……この男、なんかおかしくないか?)」と、第六感を刺激してくる男を何人か見てきた。
そういった男を総称して個人的に『あかん男』と呼んでいる。中でも、その言動が分かりやすかった数名のエピソードをランダムに紹介していきたい。
未然に男性災害を防ぐための、防御策をどうぞ。
“あかん男”たち④
【初対面で慣れ慣れしい男】▼怪しい▼
初対面の男性があまりにも慣れ慣れしいと、怪しい。尚且つそういう人種の中に金にだらしない人間がいた、という話をしたい。
32歳のときに、女性の幼なじみが結婚することになった。
そして彼女の住むマンションで、初めて彼に会ったときのこと。彼女が作る料理を楽しんで、酒も入ってきた頃に突如、
「姐さん」
と、彼から呼ばれた。キャラクターもあるからこの呼ばれ方も仕方ない。でも、縁もゆかりもない、ましてや初対面の人間から呼ばれると若干、イラっとする。これは女性なら誰でもそうだろう。
「俺、仕事が面白くないんですよ。いいなあ、フリーランスって。なんか面白い仕事を回してくださいよ」
そうも言われた。彼はデザイナーの仕事をしていたけれど、いわゆるクリエイティブをあきらめて、商業デザイナーの会社員として勤務しているという。
「……?」
なぜか心にしこりが残った。特に彼の見た目の問題ではない。
「(あいつ、おかしい。何かある、何か……)」
人には第六感がある。この時は幼なじみのために、私のアンテナが発動していた。でも当時まだ何かと経験不足の身分で、その不信感を表現できる力量もない。彼女に伝えたところで、結婚の先を越された腹いせだと誤解をされるだけだ。うまく説明する自信がなかった。そしてふたりは、そのまま流れるように結婚してしまった。
そして結婚から3カ月後。幼なじみが私の家に泊まりにきた。そして、田舎で料理店を営んでいた夫の実家が、自己破産をしたと泣きながら報告をしてきた。驚愕である。そう言えば結婚式当日、
「何でウチ(嫁側)ばっかり、新婚の家財道具を買ったり、結婚式の費用を出したりしているのか」
そう彼女の母親が私に聞いてきたことを思い出した。
それだけではなく、結婚後に夫の大学の奨学金の返済が滞っていることも発覚。
「(夫の出身地の)秋田県の裁判所から通知が来たときは驚いた……。今から、毎月5万円支払うの負担は大きいよ……」
新妻に襲い掛かった、突然の借金地獄である。今でこそ、奨学金を借りるのはポピュラーになったけれど、私の年代で借りているというのは、珍しかった。
借金をしていることが悪いとは言わない。家庭には各々の事情がある。でもそれを黙って結婚するとは、不届き者にもほどがあるだろう。一方でその事実を隠すことしかできなかったのだという、彼を擁護する意見も分かる。ただ大事な幼なじみのことであるから、その意見は適用することはできなかった。
私は何度も彼女に離婚を勧めた。
「旦那はこれからも何かすると思うから、今のうちに別れろ。金銭的な被害が、あんたの実家までに及んだら大変なことになる」
そう説得した。噓は一度ついたら、それをつくろうために、どんどん上書きをしなければならないものだ。それと同じように一度でも後ろめたい事実を黙ったまま、土足で他人の家へ侵入してきた人間は、また何かを平気でしでかす。そして必ず夫は何かを抱えている。そんな気がしてならなかった。
でも彼女は私の話をゆっくりと聞いたうえで、旦那のことを愛していると言った。
そして2年ほど前。夫婦は夫の浮気により離婚をした。32歳の時に感じた私の第六感は当たってしまった。裏切りによって食欲が喪失してしまい、彼女がやせ細ってしまった姿も、号泣していたことも記憶に新しい。
浮気に至るには、夫婦間に瑣末な理由があったことも聞いていた。
でも結婚をする10年前、力尽くでも彼女のことを引き止めていれば、離婚という惨事も免れたかもしれない。女性にとって貴重な30 代をもっといい男と過ごすことができたかもしれない。そんなたらればが私の中に募った。予想外に経験豊富になった今の自分なら、もっと毅然とした言葉で、間違った道へ向かう彼女を引き止めることができたのに。
私はこんなシチュエーションだったけれど、もし大事な人から大事な人を紹介されるような場面があったら、慎重になってあげてほしい。それはあなたが審査員代表を任命されたということなのだ。
「?」
これが重要。そう感じることがあったら、それは愛情が起こしたサイン。大ごとになる前に、問題提起をしよう。
そして何もなかったらそれでいいじゃないか。