写真:アフロ

 1月22日の発覚以来、世間をある意味「熱狂」させてきた東出昌大の不倫騒動。相手の唐田えりかは時の人となり、知名度は飛躍的にアップしたものの、その芸能活動はピンチを迎えている。

 出演中だった連ドラ「病室で念仏を唱えないでください」は事実上の降板。主人公の元カノを演じる単発ドラマ「金魚」(3月29日)は放送されるようだが、専属モデルである雑誌「MORE」への登場もしばらく見合わせるという。ネットニュースのコメント欄などでは、引退を求める過激な声まで目にするほどだ。

 しかし、彼女はこの程度のことで消えてしまっては困る逸材である。まずは、その魅力と魔力を語るとしよう。

 世に知られるきっかけとなったのは、15年から出演したソニー損保のCM。容姿はもとより、独特のたどたどしいしゃべり方や可愛いしぐさも話題になった。16年には、映画「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」の主題歌でもある「ハッピーエンド」(back number)のミュージックビデオに登場。清楚な美少女ぶりが女性ファンからも注目された。ちなみに、この映画には東出も出演していたが、ふたりはまだ出会ってはいない。

 それが17年、東出主演の映画「寝ても覚めても」(18年公開)のヒロインに抜擢される。ここで不倫も始まるわけだが、その演技は国内外で高く評価された。

 ただ、個人的に考える彼女のベストアクトは昨年の「デジタル・タトゥー」である。その役どころは、ミスキャンパスから局アナに内定した途端、恋人を振るようなキャラの女子大生。その恋人とラブホテルで撮った写真が流出してしまい、バッシングに遭う。犯人は友達だと思っていた同級生女子で、じつは小学生時代、彼女にイジメられたことを恨んでいたがゆえのリベンジポルノだった、というストーリーだ。

 当時、彼女ほどこの役に合う女優はいないと感じたし、こういうあざとさと可愛さを併せ持つような役どころで重宝されていくだろうと確信したものだ。このドラマの主役で、彼女の父親役でもあった高橋克実も、MCを務める「直撃LIVE グッディ!」のなかで最近、こんな発言をしている。

「普通のお芝居をさらっとする人。お芝居をしているという感じがあまりない。本当にリアルな」

 じつは、東出が彼女に入れ込んだ理由を考えるうえでも、この指摘は深い。女性芸能人には取材をしていて「仕事」を感じさせないというか、それこそ「デート」でもしているかのような気にさせるタイプが一定数いるのだ。男性スタッフへの気づかいやボディタッチが上手いという業界内の評判も合わせると、彼女はまさにこの典型なのだろう。それは恋愛モノを演じたりするうえで、貴重な才能でもある。

 一方、東出のほうも、その気になりやすいところではいい勝負だ。朝ドラごちそうさん」でヒロインの相手役に決まったとき、おたがいモデルだった7年前から彼のことを気に入っていた杏は「運命ってやっぱり存在するんだ」と周囲に話したという。そんな調子で接してきた杏に対してやすやすと恋に落ち、朝ドラ放送中に熱愛発覚、そのまま結婚まで突き進んだ。

 唐田にとっても、初めて大役をもらった作品が東出との濃密なラブストーリーだったわけで、彼が王子様みたいに見えたはず。不倫はもはや、必然の結果だったのかもしれない。

 もちろん、杏にとってそれは最悪の展開だし、気の毒というほかない。ただ、東出とはまた違う意味で、この人も結婚には向かないのだろう。周知のように、彼女は渡辺謙と最初の妻との娘だが、十代前半の多感な時期に親は不仲となり、泥沼裁判の末にやがて離婚した。本人のせいではないとはいえ、親の姿から、夫婦生活を上手く継続させていく方法を学べていないのだ。

 ところで、今回の不倫騒動から思い出されるのが、真田広之葉月里緒菜、桜井和寿と吉野美佳といったケースである。こちらも仕事で成功した男が、幼い子供がいながら若い愛人に走り、妻とは離婚という構図だ。

 ただ、葉月は「好きな人に奥さんがいてもいいじゃないですか」とまで言い切ったが、最後は破局。

吉野は新たな妻となることができ、子供も産んだ。そこで、東出の相手が唐田だとわかったとき、葉月以来の「魔性」の大物誕生か、とか、吉野みたいなかたちに収まるのかな、とか、いろいろ想像してみたものだ。

 ところが今回、そういう見方をする人は少数派のようだ。不倫を犯罪みたいにとらえ、やたらと怒ったり、杏を可哀そうがっている声が目立つのである。なかにはもちろん、

「こんなにあかんことやったっけね、不倫って」(岡村隆史)「唐田さんを袋叩きにしてよいのは杏さんだけ」(立川志らく)「俳優さんというものがそこまで身を律して、とにかく妻としかセックスはしてはいけないというスタンダードを私達は置きたいんですか?」(三浦瑠麗)

 といった冷静なコメントも出ているものの、それが話題になるくらい、珍しい立場のようだ。

 しかし、当たり前のことながら、恋愛は善悪で論じられるものではない。そもそも、基本的に当事者だけの問題だ。それでいて、昔から不倫にはエンタメもしくはポルノとしての要素があり、それゆえに野次馬が盛り上がるわけだが、誰かを叩いたり、同情したりするだけでは、愉しみ方としてあまりに狭く浅いというほかない。

 そこには結局、他人の自由、すなわち、自分が守っているルールを破っている人が許せないという感覚も潜んでいたりするのだろう。しかし、破る人はそれをルールとは思っていないのかもしれず、しかも、そういう人が繰り広げる人生のほうが見ていて面白かったりするのだ。

 だからこそ、かつて石田純一が発した「不倫は文化」という言葉も意味を持ってくる。あれは、不倫のような忍ぶ恋から芸術や芸能が生まれたりもするという趣旨だった。

今回も、怒っているのは文化的レベルの低い人たちなのだろう。いや、別のもっと健全な文化が好きなだけということなら、ただの趣味の違いだから、不倫という文化を貶めないでほしいものだ。

 ちなみに、唐田の魅力についてはすでに触れたが、東出には台詞回しの弱点が指摘される反面、そこにいるだけで不気味さをかもしだせる存在感を推す声もあり、その表現力は今後ますます深まりそうだ。また、杏にはこれから不幸な役も似合うようになるだろう。

 要は三人三様に、この出来事を活かしていけばいいだけのこと。それが唐田や東出に対し、ダメということになるようでは、芸能はおしまいだ。試されているのは芸能人のモラルではなく、芸能を愛でるうえでの文化のレベルなのである。

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