しかし、近代の歴史学者たちの研究により、「義」を重んじて、「情」にも厚かったという人物像と官僚としての功績も見直され、再評価されている!
そこで、生まれ故郷・近江を訪れ、三成の実像と足跡に触れる「びわ湖北東部巡り」の旅を提案しよう!■領地と領民を愛し、民からも愛されていた石田三成肖像画
関ケ原の合戦後、三成を捕えた田中吉政の子孫が三成の菩提を弔うために、ゆかりの龍潭寺に奉納したとされる肖像。
三成は太閤検地(たいこうけんち)を奉行として取り仕切った優秀な実務官僚だった。半面、豊臣恩顧(おんこ)の大名では武功を誇る加藤清正(かとうきよまさ)、福島正則(ふくしままさのり)らと折り合いが悪く、戦巧者でもなかったという。
しかし、だからといって三成を「愚将」と一刀両断に論じるのは禁物だ。将たる者、戦に強いだけがすべてではない。三成は領国経営においては「名君」であり、その事績の痕跡は成菩提院(米原市柏原)や、居城であった佐和山(さわやま)城の周辺に多く残る。
『石田三成十三ヶ条成菩提院村掟書(じょうぼだいいんおきてがき)』は、三成みずから領地の農民に発した掟書である。

文禄5年(1596)3月1日付で一斉に公布した掟書。農民の保護を目指した名君・三成の姿を今に伝える。(成菩提院蔵、柏原宿歴史館提供)
農民が読めるようにあえて仮名を多用するなど配慮した、他に類を見ない書状である。
内容は農民の権利を保証したもの。
「農民夫役(戦の兵や築城の人足として徴用)には対価を提供する」
「農地は検地帳に記された農民のもので奪いとることを禁じる。糠(ぬか)や藁(わら)などを奪われても訴状を提出できる」などと記されている。
「年貢率は稲刈りの前に田の状態を見て決定する」ともある。米の収穫は天候などによって毎年異なるため、不作の年には高い年貢を強要しない、そう断言しているのだ。
また、『佐和山城図』からは三成の城下整備が読み取れる。

江戸中期作成。図中央やや左の茶色の部分(佐和山山頂)に「天守跡」と記されている。(彦根城博物館蔵)
佐和山は越前・美濃・近江・京都の中継地であり、かつ琵琶湖の水運の要衝(ようしょう)にあった。
三成は交通・流通の拠点を担うにふさわしい都市に整備した。佐和山の山頂に天守を持つ城、城下には侍屋敷を建て、人々の往来を奨励し発展させた。

佐和山は標高232.9m。団体で登る時には、清凉寺まで問い合わせが必要。☎0749-22-2776
宗安寺(そうあんじ)の歴史ある山門は、後に彦根を治めた井伊(いい)家が、三成の時代の佐和山城大手門を移築したものと伝わる。

通称「赤門」と呼ばれ、三成が城主時代の佐和山城から移築したものと伝わる。
■私腹を一切肥やさない!? 「大一大万大吉」の理念とは
佐和山城と城下は活気にあふれ、「三成に過ぎたるもの」と謳われるほどの賞賛を得た。
半面、城の内部は驚くほど質素だったという逸話も残っている。
関ケ原の戦いの後、三成が六条河原で斬首されると、佐和山城は東軍に接収された。

岩窟には林道を約40分、登山口から約40分、計片道約1時間20分。
新たに城に入ったのは、井伊直政(いいなおまさ)の軍。だが、兵たちは城内に財宝・金銀・宝飾品がないことに驚く。
龍潭寺(りょうたんじ)には、桃山時代の襖(ふすま)が現存している。これは三成が城主だった頃の佐和山城にあったものだといわれている。
表は一見華やかな花の絵が描かれた襖だが、裏は戸板といって差しさわりないほど質素だ。
境内には三成像も立つ。戦国武将にもかかわらず裃(かみしも)姿の坐像。
勇ましい甲冑(かっちゅう)の姿ではない庶民派の像は、三成の実像を忠実に再現している。
「残すは盗なり。つかひ過して借銭するは愚人なり」
三成が遺した言葉だ。農民から徴収した年貢を使い残し、私腹を肥やすは盗みと同じ。
使い過ぎて借金するのも愚か者という意味である。
三成は私腹を肥やすことを一切しなかったのだ。
「大一大万大吉」─一人が万民のため、万民が一人のために尽くせば、天下の人々は幸福になる。
その理念を旗印に掲げ、実践していた戦国武将こそが石田三成だったのである。
そんな男だっただけに今も地元で愛され続け、毎年11月、長浜市石田町で開催される石田三成祭は大勢の人で賑わう。

毎年11月に開催される。三成の法要や各種ステージイベントも行なわれる。
「筑摩江(ちくまえ)や 芦間(あしま)に灯す かがり火と ともに消えゆく わが身なりけり」
三成の辞世である。「筑摩江」とは、かつて琵琶湖にあった内湖(入江)であり、現在は米原町入江と呼ばれている。
その地名を枕詞に、かがり火のように我が命も消えゆくと詠んだ。
死の間際、三成の思いは故郷・近江にあった。そして、近江の人々の心は、今も三成とともにある。

昭和48年建立の三成一族・家臣の供養塔。石田町八幡神社内の石田神社にある。

龍潭寺に座する三成像。春には美しい新緑が銅像を鮮やかに照らし出す。