難病「道化師様魚鱗癬」を患う我が子と若き母の悲しみと苦しみ。「ピエロ」と呼ばれる息子の過酷な病気の事実を出産したばかりの母は、どのように向き合ったのか。
『産まれてすぐピエロと呼ばれた息子』の著作を綴った「ピエロの母」が我が子を抱きしめた瞬間、「生まれてきてありがとう」と思わず心からの声が溢れた。それは若き夫婦が、我が子誕生の奇跡に「すべてを受け入れる」覚悟を決めた瞬間だった。
「母ちゃんを見て!」難病「魚鱗癬」の我が子を抱きしめた瞬間、...の画像はこちら >>
 ◆母ちゃんを、見て。

初めて抱きしめる我が子。
強く抱き締められず、そっと抱きよせる我が子。

しかし、その温もりはなかなか感じない。
陽(よう:我が子)と私の間に、まだまだ隔てるものが多い。何枚ものエプロンに手袋、分厚いバスタオル、ごわごわして、やわらかくない。

それでも陽の温もりを感じるため、じっと待った。
自分の胸と腕に、全神経を集中させる。
呼吸をする動きを感じても、それが陽のものか、私のものか、それすらもわからないでいると、傍で見守ってくれていた看護師さんが陽を覗き込み、

「やっぱりママは分かるんやね~」

「こんな陽ちゃんの穏やかな顔、見たことないよ。落ち着くんやねぇ」と声をかけてくれた。

そうかな?
いつもと変わらない?
分からないよ。涙が滲んでしっかり見れない。

分厚い皮膚からは、独特な臭いがする。
塗り薬の臭いだと思いたかったけれど、これは陽のにおい。
それも、抱きよせることによって、いつもより感じた。

前よりも見せてくれることが増えた、可愛い黒目。
その可愛い目で、私を見てほしい。

母ちゃんを、見て。

今抱っこしてるのは、陽の母ちゃんだよ。

遅くなってごめんね。

待っていてくれて、ありがとう。

頭を撫でてあげたいけれど、まだ頭を触ることはできない。


かわりに、そっと唇に触れた。

そして5分も経たないうちに、初めての抱っこは終わる。
喜びと緊張で、手袋の中が手汗でしめっていた。

この日からタイミングが合えば、抱っこできるようになった。
限られた時間の、唯一のスキンシップ。
ただひたすらに、我が子を抱き寄せた。

そして陽が産まれて2カ月と少し、
色々な検査結果を聞くため、夫と病院に向かうこととなった。

◆どんなことでも受け入れる覚悟

検査結果などを聞くため、夫とともに病院へ向かう車内、
真っ直ぐ前を向いたまま、夫がつぶやいた。

「もう何聞いても驚かんよなぁ」

「生きてくれとるだけでも凄いことや」

「これからもっといっぱい、悩んだり、ショック受けることもあると思うけど、どんな試練があったとしても、すべては陽のおかげで経験できること」

「陽が僕らを強くさせてくれる」

「僕らなりに、この病気に立ち向かって、どこの家族よりも笑って過ごそな」

・・・ずるいなぁ。
と思ってしまうほど、いつも夫の言葉に励まされる。

病院に着き、まずは陽との面会。夫は初めての抱っこ。


慌てすぎて、準備にもたつき、看護師さんたちに笑われ、恥ずかしそうに照れながらも、不器用に準備を終わらせた。
夫らしいな、と私も笑う。

そして陽が看護師さんから、夫のもとへ。
陽は気持ち良さそうに寝ている。
大きな腕の中で、安心しているかのように眠っている。
なぜか自分が陽を抱き寄せた時よりも、感動が大きくて、嬉しくて、
何枚も何枚も、写真を撮った。
同じ角度の写真ばかり、何枚もカメラに収めた。

陽、父ちゃんの抱き方、下手だね。

これから上手になれるように、いっぱい、いっぱい

手伝ってあげてね。

そしてしばらくして、先生方に呼ばれ別室に移動する。

「検査結果」

どんなことを聞いても、受け入れる覚悟はできている。
できているはず・・・。


きっと、大丈夫。
絶対、大丈夫。
前を歩く夫の後ろ姿を見て、再び覚悟を決めた。

『産まれてすぐピエロと呼ばれた息子』より)

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