吉原では初めての客を「初会」といった。2会目を「裏を返す」といい、3会目で客は「馴染み」と呼ばれた。
一方、いったん遊女を買うと、客はその妓楼のほかの遊女を買うことはできないしきたりがあった。客の意向を無視したルールともいえるが、これには妓楼の側の切実な事情があった。妓楼は職住接近である。しかも、下級遊女である新造(しんぞう)や見習いの雑用係である禿(かむろ)は、それぞれ花魁に付随する仕組みになっていた。
花魁同士が客をめぐって反目すると、配下の新造や禿まで巻き込んだグループの対立となり、妓楼は立ちいかなくなる。そこで、そんないさかいを避けるため、客の取り合いにならないようにしたのである。また、花魁の馴染みになった客がほかの妓楼で遊ぶと「浮気者」として配下の新造や禿が男に制裁を加えることがあった。
文/永井義男(江戸文化評論家)