吉原で売れっ子になる遊女の条件は、「一に顔、二に床(とこ)、三に手」といわれた。「顔」は美貌、「床」は床上手、「手」は手練手管のことである。

顔は生まれつきだが、床と手は修練によって上達する。そのため妓楼は抱える遊女に床と手を徹底的に仕込んだ。教えるのは妓楼の主の女房、「遣手(やりて)」と呼ばれる遊女の監督係の女、先輩格の遊女である。

遊女見習いの禿(かむろ)が客を取り出す前に行う「水揚げ」は、妓楼の主が行うことはなく、女あつかいに慣れた初老の馴染みの客に依頼した。妓楼では妓楼の主や吉原で働く男衆が遊女と性的関係を持つのは厳禁だった。妓楼の秩序を守るためである。

妓楼では遊女たちに客の男を虜にする様々な性技を伝授する一方で、「感じるのは遊女の恥」と教え込んだ。遊女は1日に何人もの男の相手をしなければならない。性行為のたびに本当に感じていたら疲れてしまい、体がもたないからである。感じていないのに、さも感じているように演じることもふくめて、遊女の性技であり手練手管だった。多くの男は遊女の演技にまんまとだまされていたといえよう。

遊女は多くの男に身を任せなければならないだけに、真の恋愛にあこがれていた。

惚れた男「情男(いろ)」は苦界に生きる女の生きがいでもあった。情男との情交のとき、遊女は身も心も解放して性を享楽した。情男が金詰りになったとき、遊女は自分の借金にして妓楼にあがらせることもあった。吉原の遊女は多くの男を相手にしながら、同時に純情な恋愛にも落ちていたといえよう。

「水揚げ」は初老のなじみ客だった【吉原】女たちの仕事と恋愛事...の画像はこちら >>
遊女の部屋でくつろぐ馴染み客。馴染みになると妓楼内に専用の箸などが用意された。青楼絵抄年中行事. 〔下之巻〕/国立国会図書館所蔵

文/永井義男(江戸文化評論家)

 

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