「瘦せることがすべて」。そんな生き方をする女性たちがいます。

 いわゆる摂食障害により、医学的に見て瘦せすぎている女性のことですが、そんな彼女たちを「瘦せ姫」と呼ばせてもらっています。

 彼女たちはある意味、病人であって病人ではないのかもしれません。

 というのも、人によってはその状態に満足していたりしますし、あるいは、かつてそうだったことに郷愁を抱く女性や、むしろこれからそうなりたいと願う女性もいるからです。

 瘦せ姫たちの憧れの対象でもある人気のスレンダー女優といえば、桐谷美玲戸田恵梨香。いま映画やドラマで活躍し、人気が非常に高い。またこれまでにも、宝生舞ともさかりえ榎本加奈子などのスレンダー女優が活躍しメディアを騒がせてきました。

 話題の書『瘦せ姫 生きづらさの果てに』の著者・エフ=宝泉薫氏が、「瘦せ姫」の美は2・5次元に向かうと語っています。

 これまでスレンダー女優として最高のハマり役だったのはいったい誰だったのか?

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美は2・5次元へと向かう

 人類という種の営みを自在に操ろうとする試み。それが本格化してきたのは、ここ半世紀です。1978年には世界初の試験管ベビーが誕生し、体外受精による出産例はいまや6万にも達したといわれています。

 しかし、そのはるか前から、人類はほかの生物の「種の営み」に手を加えてきました。手を加え、というより、いじくり回してきたといったほうがよいかもしれません。

家畜だったり、観葉植物だったり、その例は枚挙に暇(いとま)がありません。

 最近だと、F1品種と呼ばれるものが市場を席巻しています。人工交配によって作られる、人間にとっては何かと好都合な、しかし、ほぼ一代しか続かない動植物です。以前、息子が小学校低学年の頃、理科の教材用に種をもらったミニひまわりもそれでした。

 このいわば「種なしひまわり」が子供の教育に用いられることへの違和感をブログに書いたところ、こんな皮肉めいたコメントをくれた人がいます。

「恐ろしいというか、いっそすがすがしいというか」

 そう、自分たちの利益になることなら、そこまで割り切ることができるのも人間の本質なのです。

 そんな人類がついに自らの「種の営み」にも積極的に手を加え始めたわけです。その試みは今後、行きつ戻りつしながらも、便利で清潔で無痛なものを目指し、性行為や出産、さらには体型なども変化させていくことでしょう。

 そこでカギとなるのが「美意識」です。特に体型については、何を美ととらえるかがストレートに反映されていくことになります。

 たとえば、現代の先進国で「瘦せ」がもてはやされるのは、太ることよりもそれが難しいからだともいわれます。そんな「ないものねだり」が人間心理の根底にあり、しかも飽食の世の中が維持されていく限り「ぽっちゃり」の大々的な復権は考えにくいところです。

 実際、すでに触れたフランスの瘦せすぎモデル規制問題で、デザイナーのカール・ラガーフェルドはこう反論しました。

「太った女性が、細いモデルは醜いと文句を言っているだけ。ファッションは夢と幻想の世界であり、丸々と太った女性を誰が見たいものか」

 この発言には「ないものねだり」に応えてこそ「夢と幻想の世界」なのだという確信と矜持(きょうじ)が見てとれます。

 また数年前、米国でバービー人形をぽっちゃり体型(163センチ68キロ)にしたラミリー人形というものが発売されました。ありえない細さの人形がボディイメージの歪みをもたらすとして、啓発的な目的で作られたわけですが、評判はかんばしくなく、企画倒れに終わったようです。先のデザイナー風にいうなら「丸々と太ったバービー人形を誰が見たいものか」というところでしょう。

桐谷美玲、戸田恵梨香…スレンダー女優のなかで最高のハマり役だったのは誰か?
 
桐谷美玲、戸田恵梨香…スレンダー女優のなかで最高のハマり役だったのは誰か?
バービー人形(上)とそのふっくらバージョン(下)。なお、ラミリー人形のぽっちゃりぶりはこの比ではない。

 

 

 生身の人間や人形ですらこうなのですから、二次元の世界はもっと徹底しています。マンガやアニメ、ゲームのなかには、ありえない細さのヒロインがしばしば登場して、男性の「萌え」や女性の「憧れ」を刺激します。

 興味深いのは、こうした作品が実写化される際、二次元上のヒロインほどでなくてもかなり細い芸能人が演じることがあり、それが見る人に自分もなれるのではという期待をもたらすことです。

 榎本加奈子、ともさかりえ、宝生舞、戸田恵梨香、桐谷美玲……。

彼女たちのスレンダーな容姿は、作品のリアリティ向上に寄与し、二次元作品の実写化という難題のハードルを低くすることに貢献しました。

 なかでも、最高のハマリ具合を見せたのが映画『NANA』の中島美嘉です。原作者の矢沢あいが描く女性は、少女マンガ史上でも有数の細さですが、中島も負けてはいません。食欲にムラがあるタイプのようで、160センチの身長に対し、体重は最も減ったときで35キロ。ファッションや雰囲気も主人公に似ていたことから、高い支持を得ました。

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公式ファンブックによれば、大崎ナナ(右)の身長・体重は162センチ43 キロ。絵だともっと細い印象だ。

 

 そして、二次元ヒロインになりきった彼女に近づくべく、ダイエットする人も多かったようです。そのなかのひとりが、こんなことを言っていました。

「自分の体型もそうなりたい、と思いました。そして、超えてしまいました」

 つまり、芸能人のスレンダーな容姿という域を通り越し、本格的な瘦せ姫になったということです。

 こうした例は「レイヤー」と呼ばれるコスプレ愛好者にもよく見受けられます。

二次元のヒロインになりきろうとすれば、そういうリスクもともなうわけです。

 世間的にいえば、それはダイエットの「失敗」ということになるでしょう。生身の人間が二次元のヒロインのように細くなったとしても、骨や筋、シワが目立ってしまい、別モノにしか見えないのだと。

 しかし、瘦せ姫は肉感を希薄にすることには「成功」しています。顔が瘦せにくいタイプの人が骨や筋の所在をうまくカムフラージュした服を着ているときなど、二次元から抜け出てきたかのように見えることも珍しくありません。

 そういえば、最近「ラブライバー」という流行語も生んだμ's(ミューズ)というグループがいます。アニメ『ラブライブ!』でスクールアイドルを演じる声優たちがリアルでも同じように踊り歌うところから「2・5次元の魅力」ともいわれていますが、それとはちょっと違う意味で「2・5次元の魅力」を体現するのが瘦せ姫なのです。

 そして今、二次元的な文化は三次元的なそれを凌駕(りょうが)しそうな勢いです。昔、マンガやアニメ、ゲームなどは子供が楽しむものでしたが、もうそんなことはありません。しかもその風潮は、世界的な規模に広がりつつあります。

 このことはおそらく「美意識」にも影響をもたらしていることでしょう。男性向けの作品ではまだまだ「巨乳」キャラも人気ではあるものの、手足の細さは二次元的だったりします。

そんな二次元的な文化に慣れ親しむほど、そこで描かれる細さをありえないものとは感じなくなるはずなのです。

 象徴的なのは、女の子向けの戦闘型アニメシリーズにおけるヒロインの体型変化です。先代の『セーラームーン』に比べ、現役の『プリキュア』はひと回りもふた回りも細くなっています。

 こうした二次元的文化の隆盛は、世界レベルで美意識をさらに瘦せ志向へと後押ししていることでしょう。

 ちなみに、瘦せ姫には二次元的な文化を好む人が多いという印象があります。そこにはさまざまな理由があるでしょうが、ここで着目したいのはその主流となっているモチーフです。

 子供だけでなく、大人も見るものになったとはいえ、二次元文化の中心には思春期や青春期の葛藤(かっとう)を描く作品群が位置しています。そういったモチーフが、瘦せ姫自身の葛藤とも通じるのかもしれません。

 実際、瘦せ姫のあり方を考えるうえでも参考になる作品が数多く生まれています。その代表的なものを見てみましょう。

(つづく……。※著書『瘦せ姫 生きづらさの果てに』本文抜粋)

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   【著者プロフィール】 

エフ=宝泉薫(えふ=ほうせん・かおる) 

1964年生まれ。

早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』などに執筆する。また健康雑誌『FYTTE』で女性のダイエット、摂食障害に関する企画、取材に取り組み、1995年に『ドキュメント摂食障害—明日の私を見つめて』(時事通信社・加藤秀樹名義)を出版。2007年からSNSでの執筆も開始し、現在、ブログ『痩せ姫の光と影』(http://ameblo.jp/fuji507/)などを更新中。

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