2014年にノーベル物理学賞を受賞した青色発光ダイオードの発明。信号機、ブルーレイディスクなど私達の生活での実用も進んでいる。
しかし発明に至るまでには大きな壁があったという。 いまさら聞けない、ノーベル賞きほんの「き」をサイエンス作家・竹内薫さんがやさしく解説します。  「壊れやすい」窒化ガリウムに目をつけた
逆転の発想から生まれた青色発光ダイオードの画像はこちら >>
赤、緑、黄…までは順調だったが青色が難しかった

 次に青色発光ダイオードについてお話ししていきたいと思います。1962年、赤のダイオードが発明され、すぐに緑色や黄色のものも発明されていきました。ですので青色もそんなに時間はかからないだろうと思われていたんです。しかしこれが難航しました。

 いま材料に使われている窒化ガリウムという物質の結晶が「成長させにくい」ということで、違う物質を研究していたから見つからなかったんです。誰も扱いの難しい窒化ガリウムを使って青色発光ダイオードを作ろうなんて発想をもっていなかった。窒化ガリウムは「ダメ」「あれは使えない」というレッテルが世界中の研究者から貼られていました。

 しかしそこに逆転の発想で、作りにくいけれど、頑丈だから、一度完成すればすごく長持ちするだろうと考えた人たちがいたのです。その考えを信じて研究をやり続けたから日本人が受賞できたんです(2014年、赤崎勇氏、天野浩氏、中村修二氏3名がノーベル物理学賞を受賞)。これまで誰もやっていたことがない、周りはみんなダメだと言っている。

でも他の材料じゃ、作ってもすぐに壊れてしまうじゃないか。ホンモノはここに絶対あるぞ! と信じて研究を続けノーベル賞をとった彼らの直感の鋭さと粘り強さ、これはすごいですよ。

 青色発光ダイオードに関してはものすごい応用例があります。例えば日本の至る所にある信号機、みんな青色発光ダイオードが使われていますよね。3色揃ってはじめて信号機は成り立ちますが、赤・黄があってその最後の青を発見したのはものすごいことです。

大発見は誰も探さない暗闇の中にあり

 よく科学で言われるのは、真っ暗闇の公園で街灯があってその近くで指輪を落としました、その時にどこを探すかという話なんですよ。普通の人は光が当たっている街灯の下を探しますね、そこは眼に見えるから、見やすいから。でもそこには(発見は)ないんですよ。そこを探していたら見つからない。暗闇を探すしかないんですよ。

 大きな発見をする科学者というのはその暗闇にキラッと光るものをちゃんと拾った人たちです。目のつけ所がちがうんです。

みんな探している、みんなが集まっていて見やすいからといって探している場所にはないんですよ。

 2016年度のノーベル医学生理学賞を受賞したオートファジーもそうです。「オートファジー」という言葉自体は1960年代からありました。ただ他の研究者達はタンパク質を作ることばかり研究していた。じゃあそれをどうやって分解するか。いらなくなったタンパク質をどうやって壊すのか。それを誰も研究していなかった。そこに突っ込んだ研究が大隅(良典)先生の独創性であり、オリジナルであるということで、ノーベル賞の単独受賞につながったんです。 

 極端に言えば流行にのって、すぐに役に立つことを研究してもだめなんです。役に立たないし、これまで誰もやったことがないこと。これをやるのが大発見をする科学者です。

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