買春男性を論じる上で外せない媒体として、月刊誌『裏モノJAPAN』の編集に携わっていた鈴木俊之さんに、これまで取材や編集の過程で接してきた買う男たちの実像について話を伺った。
買う男性もそうですが、売る女性の動機を掘っても何も出てこないと鈴木さんは語る。鈴木「例えば、ホストクラブに通う女性に動機を尋ねても、『イケメンだから』『行くとテンション上がるから』といった表面的な答えが返ってくるだけだと思います。そこからホストに行く人はこういう特徴があり、行かない人にはこういう特徴がある…とカテゴライズすることは難しいでしょう。せいぜい『キャバ嬢や風俗嬢は、夜の街をよく歩くこともあり、ホストに行きやすい』といった、対象との親和性やアクセシビリティについて言及できる程度でしょう。
『フーゾク噂の真相』という連載の中で、援交デビューした女の子との会話の記録を載せたことがあります。彼女が身体を売ることを決断した時の会話の流れを分析すると、居酒屋で新メニューの唐揚げを店員から勧められて『じゃあお願いします』と答える瞬間に近い。『せっかくだし、まぁいいか』というテンションです。
メディアやライターは『身体を売る女性の心の揺らぎや葛藤』的な描写を求めたがりますが、実際に女性に『どんな葛藤があったのですか?』と聞いても、何も出てこない。『就活も始まるし、金が必要だからやろうか。でもフェラとかはきついから手だけでやるか』みたいな感じ。有名大学に通っている手コキ嬢とかに話を聞いても、全然つまらない話しか出てこないのではないでしょうか。
出会いカフェで茶飯(食事のみのデート)にこだわっているんだけれども、しゃべった男がたまたま感じ良くて、『この人だったら、まぁいいかな』と思ってその日だけ寝た、という女性も少なくないはずです。
同様に、一回だけ買ったことがあるという男性もいます。売ることや買うことを明確に意識したり、習慣化している人はむしろ少ないかもしれません。一回も買ったことが無い人と、一回だけ買ったことがある人の間にどれだけの違いがあるかは微妙です。買う男性をモンスター化しても仕方が無い。
だから『なぜ買うのか』『買うのに躊躇しないのか』といった質問はあまり意味が無い。買う・買わないの間に、明確な線引きは無い。言うなれば『空気』があるだけです。『あの街には売春がある』という感じの空気があり、売る側も買う側も裏表がない。日常と買春が地続きになっている」
買う男の実像をより分かりやすく説明するために、鈴木さんは地方都市における愛人契約の事例を紹介してくれた。
鈴木「そういった女性の相手方がどういう男性かというと、『彼女と同い年位で、かつ彼女の希望する金額が払える普通の男』としか言いようがない。
埼玉の田舎で普通にスーパーのレジ打ちをしている女性にも、月5万くらいで愛人契約をするオッサンはいる。そのオッサンがどんな仕事かというと、言うほど金持ちでもなく、年収も高くない。毎月の小遣いのうち5万円を、風俗に使うか、愛人契約に使うかだけの問題に過ぎない。
美女は美男子と付き合うし、不細工は不細工同士で付き合う。ワリキリをしている中高年女性も、その人に価値を見出す人と付き合う。それだけのシンプルな話です。
買う男性も、本当は芸能人で言えば佐々木希のような若くて可愛い女性を相手にしたいかもしれない。でも自分の年齢や容姿、年収では佐々木希は無理。若い女も無理。
売る側の女性も買う側の男性も、自分のスペックや商品価値を冷静かつ客観的に判断している。言うなればフリーランスの契約の世界なので、「2回戦だったらプラス5千円」「二回目以降だったら1万円でいいよ」など、支払える金額、提供できるプレイやサービスの内容も事前にお互いで確認する。
鈴木さんは20代後半だが、テレクラでは「若すぎる」という理由で、あるいは冷やかしや警察だと疑われて、女性から断られることもあるという。「40歳未満の男性とは会わないようにしているから」と言われたこともあった。年齢を偽って30代後半と名乗ることによって、ようやく女性と会えるようになったこともあった。
売買春の世界は、実は結婚や恋愛と同じように、単純な欲望だけではなく、お互いの打算や妥協によって動いている。「極めて合理的なロジックで動いている世界だが、それが外部に伝わっていない」と鈴木さんは言う。
売買春を語る際、多くの書き手は売る女性や買う男性に何らかの「物語」を見出し、活字化する。読者もまたそういった「物語」を読みたがる。
『裏モノ』のワリキリ特集の記事は「物語」ではなく「カタログ」として読まれており、基本的に不必要な物語や文脈は描かれない。活字と現場との間にはかくも大きな乖離がある。
(「見えない買春の現場 『JKビジネス』のリアル」より構成)