ウェブのニュースなどで、ソーシャルゲームに途方もない金額や時間を費やしている人の話を見かけることがある。人をここまで夢中にさせてしまう魔法のキーワードは、「コンプ」(完全収集)と「レア」(希少性)であるらしい。単なる画像やデータとわかっていても、人は全種類を手元に揃えたがり、ごく稀にしか現れぬアイテムを追い求めずにいられない。欠落があると埋めたくなり、他人が持っていないものは欲しくなるのが人間というものなのである。
といってもこうした趣味は、別にいま始まったことではない。その昔から人々は、様々な分野でレアアイテムをあの手この手でかき集めてきた。切手や古銭、動植物や宝石など、コレクション趣味と呼ばれるものの根っこは、結局みな同じことだろう。
しかし世の中には、もっと妙なもののコレクションに励んでいる人もいる。ひとごとのように言っているが、筆者自身のことである。何をコレクションしているかというと、道路標識だ。あちこちの道路に設置されている、「止まれ」とか「横断歩道あり」とかの、あの道路標識である。コレクションといっても、もちろん現物を外して持って帰るわけにはいかないので、写真を撮って帰るだけであるが。
現存する道路標識の一覧によると、日本には200を超える標識が存在しているらしい。中にはこんな標識あるの?という代物が結構ある。これらを全て見たことのある人はいるのだろうか。根がマニアである筆者は、これら標識を全てコレクションしてみたいという衝動に駆られてしまったのだ。前述のレアとフルコンプの罠に、ずっぽりとハマったわけである。
というわけで本連載では、筆者が今まで発見したレア標識の数々をご紹介していきたいと思う。あまりにありふれすぎ、目に入っても気にかけることすらない道路標識というものは、予想をはるかに超えて奥が深いのである。
車だけじゃない! 自転車関連の標識はレア度が高い珍しい標識といっても、いろいろなパターンがある。たとえば、珍しい施設やらシチュエーションやらに付随する標識は、当然ながらレアである。例えば「自転車専用」の標識は、ありそうでいて意外に設置例がない。レア度は、5段階評価で3というところだろうか。
レア標識①「自転車専用」
自転車と自動車または、自転車と歩行者が走行可能な道路は世の中に山ほどあるが、自転車だけが通っていいという専用道路はそうないのだ。
レア標識②「自動車横断帯」
これ以外にも自転車関連の標識には、比較的レアなものが多い。たとえば「自転車横断帯」(下左)の標識も、ありそうでいてなかなかない。え、こんなのどこにでもあるんじゃないのと思った方は、もしかすると「横断歩道・自転車横断帯」の標識(下右)と勘違いしているかもしれない。自転車だけが横断してもよいという場所は多くないので、これはありそうでない標識なのだ。


自転車関連の標識で究極のレア品といえるのが「並進可」と「自転車一方通行」の2つだ。これに関しては、いずれ回を改めて書くとしよう。
ある地域でしか見られないご当地標識レア標識③「停止線」
ある地域にはいくらでもあるが、ない場所にはまるでない標識もある。「停止線」の標識などはその一例で、北海道の道路ではいくらでも設置されているが、関東以南ではほとんど見かけない。信号待ちの際に車が止まる位置は、通常路面に引かれた白線で表示されるが、寒冷地では雪が積もるとこのラインが見えなくなってしまう。そこで、路傍に立てられたこの標識で停止位置を示すのだ。

この写真の「停止線」標識は、珍しく茨城県つくば市にあったものだ。
レア標識④「安全地帯」
「安全地帯」の標識は、主に路面電車の停留所に設置されているもので、乗降客等の安全確保のために交通が規制されていることを示す。下の写真は高知市内で撮影したものだ。かつては多くの街の交通を支えていた路面電車は、近年次々と廃止されて今や貴重な存在となっている。この標識を見る機会も、さらに少なくなりそうな案配だ。

レア標識⑤「軌道敷内通行可」
下の標識は「軌道敷内通行可」というもので、これもかなりのレア標識に属する。路面電車が通行する「軌道敷」は、原則として車で通行することはできないが、この標識が設置されたところは例外的に通行が認められるというものだ。下の標識はJR王子駅付近、都電荒川線と明治通りが交わるあたりに設置されたもので、都内でこの標識が見られるのはここだけである。気づかずに近くを通っていたという方も多いと思うが、今度通る時にはぜひチェックしていただきたい。

というわけで、レア標識は身近にありながら、大半の人に見過ごされてしまっている。これをご覧のみなさんも、これから街を歩く際には少しだけ標識に注意を向けてみてほしい。