
東京の猫町といえば、『一個人』2017年6月号の特集「猫個人(にゃんこじん)」でも紹介している谷中が有名ではないだろうか。昔ながらの街並みが残る下町で、猫モチーフのグッズやスイーツを扱う店が多い。いまでは世界的にも知られる存在となり、外国人観光客も多数訪れている。
本誌ではさらに浅草も紹介しているが、谷中と比べると猫町というイメージがあまりないかもしれない。しかし、歴史的にはもちろん、現在も猫町といわれる理由がある。
浅草が猫町として知られるようになったのは、今戸神社の存在が大きい。生活苦のため手放した愛猫をモデルに、老婆が片手をあげた猫の人形を作ったところ、これが評判となって生活を立て直したという逸話がある。これが招き猫の原型で、次第に今戸焼で作られるようになったとされる。

江戸時代の浮世絵師、歌川広重の『浅草田甫酉の町詣』という作品にも、格子窓から外を眺める猫が描かれている。本作の舞台は、吉原の遊女たちが暮らす控屋だ。
当時、猫を飼う遊女は多かったという。
現在も猫を愛する人たちが多いようで、喫茶店やアパレルショップなどに看板猫がいることも。猫カフェも複数あり、浅草観光に訪れた外国人に人気のようだ。
さらに、猫好きの作家によるハンドメイドの猫雑貨やアートなどが並ぶ「ニャンフェス」や、猫の写真店などのイベントも開催されている。このように、昔から猫好きが集まるという背景があり、今回の猫町特集に浅草も紹介させていただいた。
しかしながら、外猫の数は減っているのか、昔と比べると見かけなくなった。浅草の人々にも訪ねてみたが、やはり同様に感じているようだ。少し寂しい気もするが、きちんと飼われている猫が多いということなら、これほど喜ばしいことはない。
浅草は谷中と比べると、外猫との遭遇率がたしかに低いかもしれない。しかし、猫を愛してきた歴史は決して負けることなく、現在も猫型のせんべいや猫グッズを扱う店がじつは多い。