代々木ゼミナールが2014年度末(2015年3月)をもって多くの校舎を閉鎖する、そして全国模試もやめてしまう――このニュースは、予備校界に関心を持つものすべてに、大きな驚きを与えた。これにより、優良な不動産を持っていた代ゼミに対し、「代ゼミは不動産業へと転換するのか」と揶揄する声も聞かれた。
代ゼミの総資産は、14年3月には4,406億円を超え、15年3月でも4,260億円以上となっている。これに対し河合塾は、15年3月で1,792億円以上、駿台予備学校は同じく637億円以上となっている。
確かに資産面では、代ゼミの存在感は圧倒的かもしれない。しかし全国ネットワークの校舎を縮小し、全国模試もやらないということになれば、「三大予備校」の地位を降りても当然のことだろう。
●「学校法人」格を持つ二大予備校予備校は、大きく分けて「学校法人」の予備校と、そうではない予備校(株式会社が多い)のふたつに分けられる。駿台予備学校、河合塾、代々木ゼミナールとも、グループ自体には株式会社を持っているも、中核となっているのは学校法人である。
学校法人であるかどうかは、予備校にとってはとても大きい。学校法人には校舎や設備について等、一般の建物よりも厳しい基準が設けられている。ちなみに、予備校の本科生(浪人生)が通学定期を持てるのは、学校法人の予備校だけである。
経営側としては、現役生向けの予備校の方が作りやすい。市進予備校や早稲田塾といった、浪人生を対象にしない予備校は、設備を充実させなくとも、ビルのワンフロアで校舎を開くことができる。河合塾の中にもそういった業態の校舎がある。
強調したいのは、全国の校舎ネットワークを持ち、全国模試を行える予備校、さらに学生寮も完備した予備校は、駿台予備学校と河合塾しかないということだ。
●着実に校舎を増やし実績を伸ばしている駿台予備学校は、代ゼミショック後、校舎を増やし続けている。広島校を新規に開設し、これまで学校法人格のなかった津田沼校を学校法人にした。津田沼校の新規の建物は、これまで代ゼミの津田沼校だった校舎を買収して使用している。また学校法人格は取得していないものの、代ゼミ浜松校の建物を買収し、駿台浜松校ができた。
一方河合塾は、(代ゼミショック前ではあるものの)水戸校を開校し、最近では松戸校を柏校に移転、大学受験業界で確固たる地位をキープしている。
駿台予備学校と河合塾は、浪人生減少の流れの中でも、校舎を減らさず、着実に実績を伸ばしている。
代ゼミと駿台・河合の差はターゲット層の違いだ。前者が私立文系を中心とした受験生をターゲットにしていたのに対し、後者は国公立大学や、私大でも難関私大を受験する人をターゲットにしていた。代ゼミにも国公立向けのコースはあったものの、メインとはならなかった。
●二大予備校、生き残るのは?代ゼミショック前にすでに、河合塾は東大受験生向けの駒場校を閉鎖し、その機能を本郷校に移している。一方駿台予備学校は、お茶の水校の校舎を立て直したり、大規模な改修を行ったりしている。
結局の所、駿台・河合とも、難関大学や医学部志望の浪人生を集め続けている。というより、いまの予備校業界に、こういったニーズに対応できる全国規模の予備校が、他にはないのである。
現役生向けの予備校が増え、しかも浪人生が減少している。選ばなければどこでも大学には入れる時代だ。自宅で浪人して「スマホ予備校」の映像授業を受けることもできる。
そんな中でライブの授業に力を入れ、高卒本科生を集めるのは、並大抵のことではできない。業界を取り巻く環境が厳しくなってくる中、かえって駿台・河合の「地力」が浮かび上がってきた。駿台・河合ともに、切磋琢磨している状況だ。「どちらも、生き残る」が私の答えだ。
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