大卒より高卒が有利になる、といったら驚かれるだろうか。ここに一つのデータを示そう。
2016年の「ユースフル労働統計」によると従業員1000人以上の企業に就職した男性高卒者の方が1000人未満の企業に就職した男性大卒者より生涯賃金が高い。昨年『学歴の経済学』を上梓した上越教育大学教授・西川純氏は「学歴の持つ意味が変質してきた」と語る。■「大卒」=「正社員で安泰」という時代はもう終わった
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「これまでは大卒で“ 正規雇用”というのが流れでした。そうであれば一般的に大卒の方が高卒より給料がいいですし、大学入学までに投資した金額も回収できたでしょう。しかしいまは大卒でも“ 正規雇用”にならない、どころか就職できるとも限らない。前提が崩れつつあるということです」(西川氏)

 いまや六大学卒業者等であっても、ワーキングプア状態に陥っている者、また職にすらつけていない者は数多くいる。

企業側も人物評価による採用をすすめており、ただ大学に入っただけで満足し、社会に出てから求められる能力を磨いてこなかった者は容赦なく淘汰される時代になったのである。

 冒頭にあげた「大卒より高卒が有利になる」。特徴的な例として西川氏は愛知県をあげた。

「愛知県などではトヨタがあるので、大卒で小さな企業に入るよりも、高卒で地元の大企業に、というのはかなり知れ渡っています。そして高校の選び方というのも少し違っています。中学校の先生方は生徒たちに普通科高校を目指させるより、工業・商業系の地元企業とのパイプを持っている学校を目指させるそうなんです」(西川氏)

 たとえば愛知県立豊田工業高等学校は、偏差値的には県内中位であるが、自動車科や日本で初めて設置された電子機械科をそろえトヨタ自動車、そして関連企業へ多くの卒業生を送り出している。

 また県内にはトヨタ自動車が運営するトヨタ工業学園もある(同校は職業能力開発促進法に基づく職業能力開発校であり学校教育の施設ではない)。ここでは「モノづくりのプロフェッショナルを育てる」を理念として、高等部3年間約2000時間もの技能教育で、トヨタのモノづくりをみっちりと学ぶ。現在トヨタ自動車社内に8600名もの卒業生が在籍しているという。さらに毎月10万円以上もの「生徒手当」がつき、経済的なフォローも手厚い。

 こと愛知エリアに限れば、こういった「ジョブ型」の高校を卒業しトヨタ自動車なりの大企業へストレートに就職する方が、ただ漫然と普通科高校から大学へ進学、そこから自分の進路を考えていくより、初期投資も抑えられ、はるかに堅実な選択なのである。

■子どもの特性を見極めて普通科高校以外を選ぶのもアリ

 西川氏は、「うちの子は勉強が得意じゃない」という子どもには無理に普通科高校に進学させる必要はない、と言う。

「そういった子は就職指導のしっかりしている高校に進学した方がいいのは確かです。工業高校の先生は地元企業とのパイプもあります。反対に普通科高校の先生はそもそも就職指導より進路指導を有すべきだと考えている先生の方が多いと思います。ウチの学校は別に職業学校じゃない。普通科教育をやっているんだと。つまり就職を世話するのは普通科高校の教育の本筋から離れるのでは。

そう考えていても無理はありません」(西川氏)

 これまでは普通科高校の教師であれば、生徒をよい大学に進学させることだけを考えていればよかったかもしれない。しかしたとえ名門大学に送り込んだことができたとしても、正規雇用が保証されるわけではない時代だ。西川氏は、教師たちが学校の外に目を向けていないことを指摘する。

■目先の進学しか考えられない教師が多すぎる

「結局学校の先生方は仕事の範囲を、小学校の先生だったら中学校に入学させるまで、中学校の先生だったら高校に入学させるまで、高校の先生だったら大学に入学させるまで、が自分の仕事だと思っている。そうではなく――私は一貫して主張していますが――子どもたちの“ 一生涯”を考えなければなりません」

「危機意識がないので、単純に自分たちが守ってきた古いモデルを踏襲しています。これは言いすぎからもしれませんが、私も含めて結局“職が保証されている”だからでしょうね。

危機的な状況であるということに気づける環境ではないということ」(西川氏)

 問題は根深い。学歴の持つ意味が変化しているものの、教師たちはその変化に対応できていない現状がある。子どもをちゃんと「メシが食える」道に導けるかは、やはり親のマネジメントにかかっている。子どもの能力・適正をよく見極めた上で、高卒で就職というルートも選択肢に入れるべき時代だ。