昨年の8月末にJR根室本線の未乗区間である富良野~新得間に乗車しようと計画を立てたところ、台風の襲来で旅はキャンセルとなってしまった。ほぼ1年後、やっとリベンジする機会が訪れたので、札幌駅から特急列車に乗って新得駅へ向かった。
新得駅から富良野方面への列車は、2017年9月初旬現在、走っていない。1年前の台風によって線路が甚大な被害を受け、不通となったままなのだ。折からのJR北海道の経営不振により、この区間は将来的に維持困難な線区とみなされ、復旧工事が行われていない状況にある。幸い春頃から列車代行バスが運転されているので、新得駅と富良野駅の途中にある東鹿越駅まではバスで移動することができるようになった。
新得駅前には代行バス乗り場の表示があり、バスの発車時刻が近づいてくると、新得駅の駅員さんがやってきて、案内がてらきっぷのチェックを始める。列車代行バスなので、JR北海道の乗車券を持っていれば乗れるのだ。
田舎によくある路線バスかと思ったら、立派な観光バスがやってきた。ゆったりとしたシートで、乗る予定だったキハ40系ディーゼルカーより立派である。列車よりバスの方が楽でしょう、とわざとアピールして廃線に賛成させようとの魂胆かもしれない。新得駅から乗りこんだのは6人。50人ほど乗れるであろうから、ゆったりとした気分である。
新得駅前から列車代行バスで出発広々とした国道38号を、なぜかスピードを出さないで、実にゆっくりと走る。
道路脇には狩勝峠1合目、2合目という標識が立っていて、それを見るたびに、峠を徐々に登っているのだという実感が湧いてくる。かなり登ったところからは、ひろびろとした十勝平野が望まれる。かぶりつきで眺めたいところではあるが、バスは広い道路の中ほどを走っている。路肩までは少々距離があり、列車のように窓のすぐ下まで景色が迫ってくるような臨場感に乏しい。観光列車なら、席を移動して窓越しに車窓を眺めたりもできるのだが、バスの中では席を立つことなど許されない。やはり車窓を楽しむには列車が一番だと個人的には思う。

狩勝峠を越え、原生林の中をまっすぐに進むと、やっと落合駅だ。新得駅を出てからおよそ40分、ほぼ同じ時間帯を走る列車でも30分はかかるので、ずいぶん長い一駅間である。バスは国道を離れて律儀に駅に向かい、駅舎の前で停車する。ドアが開いて、地元の年配の女性が一人だけ乗ってきた。
時間になるとバスは発車し、再び国道38号に合流して先を目指す。次は10分程で幾寅駅。高倉健主演の映画「鉄道員(ぽっぽや)」のロケ地だったところで、銀幕に登場した幌舞駅の木造駅舎が、そのまま残っている。幾寅という駅名は、小さくしか書いていないところが面白い。映画の中で活躍したタラコ色のディーゼルカーも、車体の一部が保存されていた。こうした様子は列車の中からでは見えないから、駅前に発着するバスならではだ。これは、怪我の功名である。


それなりの観光地だからか、数人が乗ってきて、バスは少々賑やかになった。さらに10分程走り、途中で1年以上も列車の走っていない根室本線を2度、踏切と陸橋で越え、東鹿越駅に到着した。

駅舎の写真を撮っていたら、富良野方面から折返しとなるディーゼルカーが到着した。誰も降りてこないのでさびしい列車だなあ、と思ったが、時刻表を見ると東鹿越駅到着の列車はないので回送列車のようだ。

バス代行輸送でなければ、乗り降りすることもなかった東鹿越駅。利用者は1日平均1人以下ということで3月に廃止予定だったが、災害による代行バス輸送の中継駅として生きながらえている。二度と来ることはないかもしれないと思い、発車までの数分間で駅の様々な写真を撮り、列車に乗り込んだ。バスの乗客は全員列車に乗り換えている。

わずか1両のディーゼルカーは定時に東鹿越駅を発車。線路際のかなやま湖は木立に遮られて見えなかったが、しばらくして湖を鉄橋で渡る時に車窓から眺めることができた。カヌーやアウトドアが楽しめるリゾート地であるが、宿泊施設などは東鹿越駅の対岸にあって列車利用では不便なのが悲しい。

しばらくは山の中を走る。キハ40系の車内はすっかり古びてしまったけれど、列車ならではの安定感があって頼もしい。バスから乗り換えると、ホッとする。金山駅、下金山駅と過ぎ、空知川に沿って走る。9月初旬なのに、渓谷の木々が色づきかけていて、北海道はすっかり秋の風情である。
次第に山を降り、布部駅あたりから盆地の中を快走すると、富良野駅に到着。東鹿越駅からは、40分程であったが、充実した旅だった。この日の列車旅は、これで終わり。タクシーでリゾートホテルへ向かった。