※当初、文中に「自転車レーン」とありましたが、「自転車専用道」(以下自転車道)」と修正いたします。「自転車レーン」(自転車専用通行帯)は、車道の左端に、歩道に隣接して作られた自転車専用の車線を指し、一方通行です。「自転車道」は、工作物によって区画された、歩道からも車道からも独立した自転車専用の道路で、基本的に相互通行です。
さて珍しい道路標識を追いかける本連載、今回は「自転車一方通行」を取り上げてみよう。何しろこの標識、筆者の知る限りで今のところ全国3ヶ所にしか設置されていない。自転車関連標識にはレア物が多いと以前書いたが、中でもこれは伝説クラスの一品といってよいだろう。
【以前の記事:見つけたらラッキー! 自転車にまつわる道路標識はレア度が高い】標識のデザインは下のような2種類で、横型と縦型がある。 普通の一方通行標識の矢印が短くなって、後ろに自転車が描き込まれたデザインで、初めて見ても意味がわかりやすい。
写真を拡大 「自転車一方通行」標識横型(左)と縦型(右)ちなみに、通常の一方通行標識が立てられている車道では、自転車はどうすべきか? 自転車も車両の一種なので、標識に従って一方通行するというのが正解だ。ただし、「軽車両を除く」という補助標識がついている場合は、この限りではない。
じゃあ別に自転車専用の一方通行標識なんぞなくてもいいじゃないか、と思うところだ。実はこの「自転車一方通行」は、自転車道に設置することを主眼においた標識なのだ。
よく言われることだが、道路交通における自転車の居場所はなかなか難しい。車道を走らねばならない場所、歩道を行ってもよい場所などが混在しており、しかもどちらを走っても邪魔者扱いされたりする。自転車専用レーンを作って、歩行者・自転車・自動車をきっちり分けるのが理想だが、そんなスペースがあるなら最初から苦労はないわけである。
そこで導入されたのが、「自転車の一方通行路」というシステムである。歩道の幅が狭く、自転車がすれ違える幅のレーンが作れない時、車道の両側に一方通行の自転車道を作ることで対応しようというものだ。これなら歩道から自転車1台分の幅を切るだけで済むので、だいぶスペースの節約になる。

これに合わせて2011年に新設された「自転車一方通行」標識だが、今のところ神奈川県の川崎市と相模原市、静岡県静岡市に設置されているのみのようだ。というわけで筆者は、一路神奈川へと調査に向かったのであった。
神奈川県・相模原駅の「自転車一方通行」相模原駅から現地へ歩いてみると、かなり多くの自転車関連の標識が目に入ってくる。自転車の街ということで整備を進めているのであろう。いやが上にも期待が高まるというものである。

歩くことしばし、目的の物件を発見した。

この道の両側に自転車道が作られており、標識は両側合わせて十数枚設置されている。なるほどこの幅なら、歩道のスペースもゆったり取れて、事故の心配も少なそうである。自転車一方通行のモデルとなりそうな道だ。

一方の川崎市の物件はどうか。こちらは川崎駅付近、JRの高架をくぐる形の県道に設置されている。相模原市の標識が全て横型であったのに対し、こちらは全て縦型である。

こちらの自転車道はどうやら車道を1車線つぶして作ったようであり、間違っても車が入ってこないよう、がっちりとガードレールで守られている。また路面を青くペイントするなど、自転車道であることを強調する工夫もなされている。

一方の出口側には、進入禁止の標識や矢印のペイントに加えて、蛍光色の「逆走禁止」などのプレートが林立しており、何としても自転車の逆走を防ごうという構えである。

【まだある! 奇妙珍妙なレア標識 連載第5回:まるでスキー場……全国で一番きつい「急勾配あり」標識は恐怖の連続だった 】自転車道が作られた理由
いかにも不自然な道であるので、何か理由がありそうだと思って調べてみたら、以前にここの歩道で自転車同士が正面衝突し、女性が死亡する事故が起きていたらしい。ガード下へ向けての急な下り坂である上、カーブしているので見通しが利かず、タイミングが悪ければかなりの速度で激突してしまうだろう作りだ。そうした悲しい事故を教訓に、わざわざ車道を削ってこの自転車道が作られたらしい。
ただ、これがうまく行っているかというと、そうともいえないようだ。相模原でも川崎でも、筆者が居合わせた数十分の間に、歩行者レーンを逆走する自転車を見かけた。ルールの徹底は想像以上に難しいようで、これが自転車一方通行の普及しない理由でもあるのだろう。
ただ、逆走してしまう気持ちも全くわからないではない。一方通行を遵守すると、たとえばちょっと後戻りしたいだけでも、車道を2度横断して非常な大回りをしなければならないから、相当に面倒ではあるのだ。
とはいえ、面倒だからと反対車線を逆走する自動車はいないわけで、このあたりは慣れと心がけの問題だろう。ルールと心構えが十分に浸透するまで、「自転車一方通行」はしばらくレア標識のままであり続けそうだ。
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