これまで本連載では、「優先道路」「自転車並進可」「自転車一方通行」など、全国数ヶ所にしか設置されていないレア標識を紹介してきた。だがこの業界、いったいどこにあるんだと思わせる珍品はまだまだある。たとえば下に示す標識など、見たことのある方はおそらくほとんどおられまい。これら「平行駐車」「直角駐車」「斜め駐車」は、2008(平成20)年の法改正で登場した標識だ。だがこの三兄弟、制定から10年を経た今も設置例は非常に少なく、事実上幻の標識となっている。


「平行駐車」「直角駐車」「斜め駐車」標識
これら標識の意味するところはごくシンプルで、それぞれ道路に対して平行、斜め、直角に駐車せよという指示だ。だが実際のところ、駐車位置の指定は路面に白線で枠を引いておけば用は足りてしまうわけで、正直言って何のために制定されたのかよくわからない。激レアなのもむべなるかなである。
【まだある! 奇妙珍妙なレア標識 連載第7回:観光地に続々登場! 外国人増加でできた期間限定のレア標識 】「平行駐車」のある風景
というわけで、これら駐車三兄弟の発見報告はしばらくの間なかった。その沈黙が破られて「平行駐車」標識が登場したのは、筆者の記憶では2015(平成27)年のことだ。ということで筆者は、そのうちJR石巻駅(宮城県石巻市)の駅前通りに設置されたものを見に行ってきた。
仙台からJR仙石線に揺られること1時間、宮城県第2の都市石巻に到着する。

「平行駐車」は「駐車可」の標識とともに、ポールに2枚縦に並んで掲げられていた。標識は通りに2ヶ所あったので、裏表合わせて4枚ということになる。日本でも数ヶ所という超貴重品だが、人も車も標識に目もくれず通り過ぎてゆくのは悲しいところである。居酒屋の並ぶ通り沿い、タクシー乗り場に立てられていることから、客待ちタクシーに向けた標識であるのだろう。
他にこの「平行駐車」が立てられているのは、同じ石巻市の石巻あゆみ野駅前、女川町の女川駅前、東松島市の東名駅前と、いずれも宮城県の海岸沿いの駅前通りである。お気付きの通り、いずれも2011年の東日本大震災によって大きな津波被害を受け、再建されたエリアだ。

しかし、これらのエリアにだけ「平行駐車」を設置すべき明確な理由は見えてこない。画像などで確認する限りいずれも普通の道路であり、わざわざ言われなくても平行に止めるでしょ、という感じである。雪で路面のペイントが隠れてしまうからかとも思ったが、それなら北海道や新潟にはもっとこの標識が立てられていてよいはずだ。
というわけで宮城県警に設置理由を問い合わせたところ、返ってきたのは「道路管理者や駅の管理者といった関係者の意見等を踏まえて標識を設置した」という通り一遍な回答であった。まあ役所やら警察やらにこうしたことを問い合わせて、「なるほど!」と腑に落ちる答えが来たことは、ただの一度もありはしないのである。
では「斜め駐車」標識はどこかにあるのだろうか。これも長らく発見報告がなかったのだが、筆者の知る限り初の報告は2014年になされた。その場所はなんと東京のど真ん中ともいうべき、東京駅の八重洲バスターミナルというのだから、標識界(?)が震撼したのも無理からぬところであった。
筆者も一度訪れねばと思いつつ機会を逸し、ようやく現地に足を運んだのは2016年夏のことであった。が、現場にたどり着いた筆者の目に飛び込んできたのは、無情にもただの「駐車可」の標識であった。しばしその場で呆然と立ち尽くしたのはいうまでもない。

情報によれば、「斜め駐車」標識があったのは、バスターミナルの改装工事の間だけであったらしい。推測するに、奥のバス停(写真でバスがいるところ)はバスが道路に対して斜めに止まる設計のため、この位置に「斜め駐車」の標識が立てられた。が、工事が進んでこの標識の近くに道路と平行のバス停(白い枠線)が作られたため、紛らわしいと判断されて「駐車可」と入れ替えられた、ということではないだろうか。まあしかしこういうこともあるから、標識の道は油断がならないのである。
ということで、「斜め駐車」はひとときの幻と消えたかと思っていたのだが、最近になってまた設置例が報告された。場所は、これも石巻市の石巻魚市場前で、やはり津波被害を受けて最近再建された施設だ。
で、最後の「直角駐車」標識だが、どうもこれだけいまだ発見報告がなく、完全な「幻の標識」であるようだ。この標識がどうしても必要なシチュエーションというのはあまり思いつかないから、まあ当然かとも思える。設置の期待を持てるとすれば、やはり宮城県をおいて他にないだろう。そのときには観光を兼ねてじっくり見て回りたいので、宮城県警関係者にはぜひご検討いただきたいと思う次第である。
【まだある! 奇妙珍妙なレア標識 連載第3回:全国で2カ所だけ。幻の道路標識を求めて滋賀県・琵琶湖へ向かった】