先日発表された、タイムズハイヤーエディケーションによる世界大学ランキング。日本のトップ、東京大学ですら46位。
ではその上位に食い込む大学は何が違うのか?  同大学ランキング10位、チューリッヒ工科大学の対策を読み解く。【あわせて読みたい:どういう基準なの?そもそも「世界大学ランキング」とは何か。】■スイスの小さな町ほぼ一個分の規模
「STEM教育」で世界が注目する名門大学の画像はこちら >>
 

 チューリッヒ工科大学はスイスのチューリッヒにあります。この大学はヨーロッパのみならず世界でも有数の名門大学で、Times Higher Education誌の2018年度世界ランキングでは、10位にランクしています。特にSTEM(科学・技術・工学・数学)の分野では高い評価を得ていて科目別順位は、Times Higher Education誌では、工学・技術部門で世界第8位、QS世界大学ランキングでは工学と技術部門で世界第5位、となっています。大学職員と学生合わせて25,000人も在籍するこの大学は、スイスの小さな町ほぼ一個分の規模といえるでしょう。 学生の数は、学部生が8704名、大学院生や博士課程の学生は9000名以上となっています。

チューリッヒ工科大学は、別称で「スイス連邦工科大学チューリッヒ校」とも呼ばれています。「スイス連邦工科大学ローザンヌ校」という名前の大学もあり、これらは姉妹校ですがそれぞれ独立して存在しています。チューリッヒ校はドイツ語圏にありますが、ローザンヌ校はフランス語圏ローザンヌにあります。いずれも自然科学と工学に特化した大学です。

 

 チューリッヒ工科大学にはキャンパスが二つあり、メインのキャンパスはチューリッヒに、もう一つのキャンパスは、チューリッヒから北西に約5kmにある市郊外、ヘンガーベルグにあります。

メインキャンパスにある本館は、ドイツの建築家ゴットフリート・ゼンパーによりネオクラシック様式で設計されたもので、建築物としても世界的な評価を受けているものです。一方、ヘンガーベルグでは、持続可能性(Sustainability)という理念に基づき、キャンパスを自然と調和した美しさを持ったものにしていこう、という取り組みが行われています。

 ■STEMの分野で常に世界をリード。アインシュタインの母校。

 この大学の歴史は、18世紀初めに、時の指導者らがスイス国立の高等教育機関設立の構想を立てたことから始まります。1848年のスイス連邦設立を機に構想が現実化していき、連邦議会で具体的に国立大学の設立が議論されるようになります。当時、スイスには既に州立の大学が存在していましたが、特定の州に属さない国立の教育機関はありませんでした。スイスは多言語国家であるため、国立大学を設立しようという提案に対しては様々な議論がありました。多くの自治体が、国立大学が設立されることで、自治体にある州立大学との競争を生み出したくないと思っていたのです。

 そのため、大規模な国立大学設立には反対の声が強かったのですが、その国立大学を「STEM専門にする」という妥協案に計画関係者が賛同し、1854年、チューリッヒ工科大学が、「ポリテクニック(職業教育に特化した高等教育機関)」としてスイス連邦政府により設立されたのです。

 現在、大学には科学分野で23の学士課程があります。具体的には、建設(建築、土木、環境、測量)、自然科学・数学(計算科学・工学、健康科学・技術、人間医学、物理学、数学、化学、生物、化学工学・バイオ技術、薬学)、エンジニアリング科学(コンピュータサイエンス、情報技術・電気工学、材質科学、機械・プロセスエンジニアリング)、システム志向の科学(地球科学、食料・農業科学、環境科学)などがあります。

学べる分野こそ幅広くなってきたものの、設立当初の STEM 専門という枠組みは維持されており、社会系、文系の科目の教育は非常に限られたもののみになっています。アメリカ、日本などの大学とは異なり、学士は平均3年間で取得することができる、という特徴もあります。

 設立以来、チューリッヒ工科大学は数々の科学技術の進歩と発見の場となっており、21名ものノーベル賞受賞者を輩出しています。アルベルト・アインシュタインは、このチューリッヒ工科大学の学生でもあり教授でもありました。大学設立初期の1866年には、構造工学エンジニアのカール・カルマンが代表作『Graphic Statics(図式静力学)』を出版し、工学のための新しい計算方法を発表します。1897年までにチューリッヒ工科大学は研究室に近代的装置を導入し、研究指導や実験が飛躍的に向上しました。そして1972年、ニクラウス・ヴィルトがプログラム言語のPascalを発表し、プログラミングやシステム開発の教育・研究に使用されることとなります。STEMの分野で常に世界をリードしていく大学のひとつとして評価されています。

■37.6%が留学生の国際色豊かな大学

 チューリッヒ工科大学の学生は、勤勉なことで有名ですが、学生たちがリラックスして楽しめるイベントも用意されています。毎年11月に開かれる“Polyball”と呼ばれる舞踏会は1880年代から続く伝統的なイベントです。大学の本館で行われるこのPolyballは毎年違ったテーマで催され、ヨーロッパで最も盛大な舞踏会と言われています。約9000人がこのイベントに参加し、様々なバンドやパフォーマー、ダンサーなどが参加者を楽しませてくれます。

イベントが終わるのは日曜の朝5時とかなり遅くまで続きます。

 チューリッヒ工科大学は、IARU(国際研究型大学連合)およびIDEAリーグの創立校でもあります。この両組織は、各国の研究型大学の国際的な架け橋となっています。IDEAリーグはヨーロッパの5つの大学から構成され、IARUには東京大学やイェール大学など様々な国の大学が加盟しています。IARUは、あらゆる研究や国際教育に関する構想や取り組み、大学同士のネットワーク作りなどについて議論を交わす場となっています。

 幅広く国際的な提携関係を持つ大学で、在校生も国際色豊かです。学部生、大学院生、博士課程の学生合わせて19233名のうち、37.6%が留学生です。留学生の数は、修士課程と博士課程で特に多くなっています。大学職員の多くもスイス以外の出身者です。これは大学の学生数が年々増えているので、学生対教授の割合を保つために、大学が外国から教授を多く採用しているためです。

 チューリッヒ工科大学の学部プログラムは非常に難易度が高いものとなっています。とくに初年度がヤマで1年生の終わりの試験では多くの学生が落第します。

学部生が最初に受けるのは、大規模なクラスでの講義です。一人一人が自主性を持って勉強することが求められます。チューリッヒ工科大学が学生に求めるのは、多くの勉強量、そしてその中でモチベーション高く学べる能力です。

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