「まずは能動的にツッコミを入れつつ見ることです」と話すのは、絵画をわかりやすく紹介する書籍を執筆する佐藤晃子さん。
「名画だからすごい絵なのだろうなと最初から思うのではなく、まずは第一印象で気になる箇所を探してみてください」。
例えば有名な『最後の晩餐』は何人もの画家が描いている。この絵画のツッコミどころはイエスを裏切ったユダの位置や表情だ。15世紀のイタリアの画家、カスターニョが描いたものとレオナルド・ダ・ヴィンチが描いた有名な絵ではまったく違う表現がされている。
「ユダだけを孤立して座らせるのが定番の描き方ですが、レオナルドはそれをやめ、『裏切り者がいる』というイエスの言葉に動揺する弟子たちの心理を身振りで表現しようとしています」。

またドミニク・アングルの名画『グランド・オダリスク』も「なぜこんなに胴が長いのか? がツッコミどころ」と佐藤さん。
「アングルはあえて女性の美しいラインを際立たせるために描いているのです」。
まずはツッコミポイントを見つけてから絵の解説を読む。さらに歴史的な背景や聖書を紐解いていけば、作者の意図がよくわかる。
「絵は1点だけを見ていても、表現されている意図や魅力は伝わりづらいもの。似た作品を多く見くらべると、いろいろな発見があります」と佐藤さん。
「描かれているのは生身の女性ではなく、神話に登場するヴィーナスです。当時はまだ、生身の女性のヌードを描くことはタブー視されていました」。
一方で、同時代の画家のティツィアーノは、神話の女神を描きながらも目を開き、鑑賞者を見つめるヴィーナスを描き、現実の女性が持つリアルなエロティシズムを表現。さらに19世紀に入ると、マネが『オランピア』で高級娼婦を
描いた。このように似た作品を見くらべることで、画家の意図や時代背景も伝わり、鑑賞眼も肥えていくのだ。
また佐藤さんは難解な現代美術の鑑賞にも、様々な作品に触れた経験が役に立つと話す。
「古典的な作品が作り上げた枠を越えてオリジナルを生み出すのが現代美術。『あの時代のあの作品を意識しているのでは』と考えることができれば理解も深まります」。



〈雑誌『一個人』2018年3月号より構成〉