仮想通貨取引所大手コインチェックから、不正出金された「ネム」(当時の時価にして580億円相当)。ホワイトハッカーらの追跡をかいくぐり、「闇ウェブ」(ディープウェブ、ダークウェブ)と呼ばれるネット上のアンダーグラウンド空間で売買された模様だ。
「闇ウェブ」では、こうした違法売買が横行している。情報セキュリティー大手トレンドマイクロ社の協力を得て、実態を明らかにする。■個人情報やシステム攻撃ツールが売買される「闇ウェブ」
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写真を拡大 アンダーグラウンドサイトの実際のスクリーンショット (提供:トレンドマイクロ)

 写真は、同社が実際に確認しているアンダーグラウンドサイトのスクリーンショットである。商品名の見出しに「スパム」や「ハッキングの仕方」といった単語が確認できる。

 一般的にアンダーグラウンドサイトでは、「非合法に取得したと思われるアカウント情報、クレジットカード情報や攻撃ツール、特定のシステムの脆弱性情報などが情報交換・売買されている」とされる。

売買されている情報・ツール例

‐クレジットカード情報、ID・パスワード、

‐特定のシステムの脆弱性情報

‐攻撃ツール(不正プログラム作成ツール、脆弱性攻撃ツール)

‐攻撃代行サービスなど

※場合によっては、違法薬物や武器、物理的な犯罪請負を行っているサイトも存在。

 また売買にあたっては、このサイトではドル建てになっているが、仮想通貨ビットコインが使われるケースが多い。

■匿名性を守る仕組み

 こうした闇ウェブサイトは、通常の検索エンジン経由ではたどり着けない仕組みになっている。利用者が独自のアクセス方法を把握していなければ、アクセスすることができない。

  さらに「Tor(トーア)」と呼ばれる匿名化ソフトによって、利用者は身元を隠して閲覧することができる。「Tor」とは「The onion router」の略で「onion」とは玉ねぎのこと。玉ねぎは一皮むいても、また次の皮が表われる多層構造だが、「Tor」もこのように暗号化された通信が、幾重にも積み重なっている。

■「5ちゃんねる」を模した「闇ウェブ」の存在

 闇ウェブに対しては各国の捜査当局や、民間のセキュリティー団体が監視をすすめている。トレンドマイクロ社が確認したのは、日本の巨大掲示板「5ちゃんねる」を連想させるサイトだ。下のキャプチャは、そのトップページである。

ネムが売却。「闇ウェブ」のヤバすぎる実態
写真を拡大 シンプルなリンクが張ってあるだけ。■フォーラムで交わされるやりとり

 こうした日本人向けのTorサイトでは、どんなやりとりがされているのだろうか。続いて紹介するのは2015年時点で確認した、「Tor2ちゃんねる」※のフォーラムでのやりとりだ。

(※「Tor2ちゃんねる」は現在閉鎖されているが、同様のやりとりが「Onionちゃんねる」でも続いている模様)

ネムが売却。「闇ウェブ」のヤバすぎる実態
写真を拡大  フォーラムでは、 各種の隠語を利用して覚せい剤や大麻栽培用の種の取引が行われていた。  (提供:トレンドマイクロ)

「冷」「ワックス」「紙」など、特定の薬物名を想起させる隠語と金額が記されている。このサイトでは、大麻栽培ビジネスに関心があるユーザー向けに大麻の種まで販売されていたという。  また取引には「Safe-Mail.net」という匿名のメールサービスが活用されることが多い。売り手側は「まずはメールでご相談ください」とメールでのやりとりに誘導している。

 

 マネーミュール(不正送金への加担)サービスの提供も確認されていた。

こちらも例によって、メールでのやり取りに誘導している。支払い方法で金銭の代わりにAmazonギフトコードが求められているのが特徴的だ。

ネムが売却。「闇ウェブ」のヤバすぎる実態
写真を拡大 「不正取引の郵便物(金銭もしくは商品)受け取り用の名前と住所を貸す」という書き込み。 賃貸料としての月額最低5000円の支払いを「アマゾンギフトコード」で求めている。  (提供:トレンドマイクロ)

 こうした闇ウェブには興味本位で決して近づかないこと。匿名化できる仕組みがあっても、完全ではない。違法な取引に関わったことが突き止められれば刑事罰に問われる可能性もある。

 冒頭のネムのケースでは、闇ウェブでネムを他の仮想通貨(ライトコイン)と交換した日本人男性が警視庁サイバー犯罪対策課から事情聴取を受けている。

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