他者と、円滑にリアルタイムでコミュニケーションできることは人間が持つ根源的な欲求だ。こうした要請を受けて固定電話、ファクシミリ、携帯電話などといった、モノ=通信機器は独自に進化を遂げてきた。
「2040年のモノ」を考えるために、いままでの進化の歴史を30年スパンで振り返ってみることにしよう。〈前後編・前編〉【「2040年のモノ」目次】【読者が考える「2040年大変身しているモノ」】■30年前「黒電話」がブームだった

 まずは固定電話から。40代読者であれば、子供の頃に家に「黒電話」があったという方も多いのではないだろうか。

 黒電話は1950年に「4号電話機」という型が電気通信省によって制式化された。

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見覚えはある? これが600形電話機だ!(写真提供:NTT東日本)

 黒電話の中でも多く使用されていたのが、「600形自動式卓上電話機」だ。日本電気、沖電気工業、日立製作所、富士通、岩崎通信機、東京芝浦電気(現:東芝)、日本通信工業(現:NECプラットフォームズ)といったメーカーが電電公社の委託を受けて製造していた。ちなみに黒電話は、公社からの「レンタル品」という形をとっていた。

 ちょうど30年前の雑誌記事にも、黒電話の人気ぶりが伝えられている。1988年10月7日号の「週刊宝石」では、「引っ越しシーズンになると若い人がよく買っていきます。1日に平均1個ですが、1日に5個売れたこともあります」と池袋のショップの声を紹介している。

 ダイヤル式の黒電話の次にコンピュータと連結できるプッシュホンタイプの電話機があらわれた(1969年に押しボタン式の600P電話機が登場)。これを機に新しいサービスが次々と生まれ、短縮登録サービスや伝言ダイヤル、転送電話などが追加されていく。

 ちなみに1988年当時に固定電話はどれだけ普及していたのだろうか。正確な数字を出すのは難しいがひとつ指標になるのが、加入電話契約数だ。情報通信白書によると、1988年9月末時点で、住宅用一般加入電話契約数は3000万を超えていた。固定電話は1人1台ではなく、1世帯で1台をシェアするのが普通であるから、この数字は「かなり普及していた」と言えるのではないだろうか。

 1985年に電電公社民営化と、通信の自由化が起こっていた。以後ユーザーは各々が好きな電話機を選べるように。その後コードレスフォン、FAX一体型など様々な電話機があらわれ普及していく。

子供の頃家にあった「黒電話」はいつ消えた?
スタイリッシュかつ、多機能になった固定電話。(写真:フォトライブラリー)

 現在はどうか。電話機本体にディスプレイを備え、無線通信が可能な子機が付属したタイプが主流になっている。機能も年々進化しており、登録した電話番号だけの着信を許可する「限定着信機能」、振り込め詐欺電話勧誘をシャットアウトする「迷惑電話防止機能」などを備えていることが特徴だ。

 携帯電話の爆発的な普及に伴い、一時は消滅するかに思われた固定電話だが、ビジネスシーンや高齢者でも扱いやすいよう工夫されたことで粘り強く生き残っている。

 ■30年前、ファクシミリは時代の最先端のアイテムだった

 ファクシミリが商用の通信機器として登場したのは1964年で、1980年代から2000年代にかけて一気に普及率が高まった。ちょうど30年前はファクシミリが普及し始めだったようだ。情報通信白書によると、1988年9月末におけるNTTのファクシミリ通信網サービスの契約数は、前年同期比で71.1%増と急増している。

子供の頃家にあった「黒電話」はいつ消えた?
これが30年前のファックス「M-1」。古さは意外に感じない? (画像提供:村田機械)

 

 1988年に、村田機械が業界初の10万円を切るファクシミリ「M-1」を発売するなど、低価格化がすすみ、これまでは作家や翻訳家といった一部の専門職のアイテムだったファクシミリが企業や一般ビジネスマンにも普及していく。

 電話を使うより、長距離通信料金が割安になるというメリットがあり、また利用可能な原稿のサイズがA4判からB4判に拡大し、一挙に利便性が向上したことも背景にあったようだ。

 今主流になっているファクシミリは、固定電話機との一体型だ。固定電話同様に限定着信機能のものや迷惑防止機能などを備えている。また、SD カードに対応したものや、受信した内容を紙に印刷せずディスプレイに表示する「ペーパーレス機能」なども人気になっている。

 形状はやや大きな固定電話機といった具合で、一般的な固定電話よりも横幅が広い製品が主流。SOHOや高齢者の利用を想定している製品が増えている印象だ。

後編では「携帯電話」の30年を振り返る。
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