テクノロジーの進歩で2040年の生活はどうなるか。『シンギュラリティ・ビジネス』著者、齋藤和紀氏に話を聞く。
もちろん変わるのは車だけではない。医療も大きく変わるそう。さきほどのロードマップによれば2032年に「医療用ナノロボットが免疫システムを増強する」という未来が待ち受けている。
「医療ナノロボットの技術も劇的に伸び、iPS細胞などの研究も進むことで寿命がさらに伸びるのではないでしょうか。肉体の限界を最大限活かすような、例えば120歳くらいまで生きる事は現実路線としてあるのかもしれませんね」
■あと20年で日常生活と、身の回りにあるモノが消滅していくこのロードマップで気になるのが、2038年の「人類の日常生活が消滅する」という記述だ。
「これはネガティブな意味ではなく、我々が生きていくために仕方なく使っていた時間やコストが減るのではないかと考えたほうがいいでしょう。人間が行っていた作業をAIやロボットが代替することで、人間は人間本来の価値を手にするイメージです」
今回の「2040年のモノ」特集に当てはめれば、わたしたちの日常生活とともにあった「生活必需品」も今後はどんどん消滅していくのではないか。「モノ」そのものは実体をなくし、テクノロジーをよりダイレクトに利用できるようになる。
「これらの変化は突然来るのではなく、流れの中から徐々に変わっていくのではないかと予想しますね。とはいえ、予想より早いスピードで技術が進歩していく可能性も大いにありえます。

そういったテクノロジーが高度に発達するこれからの時代に、求められる力はなんだろうか。
「経営者の方々と話していても、『テクノロジーの影響を理解できないといけない』と多くの方がおっしゃいますね。ただしこれは、一つの技術分野を極めるといよりも、多くのテクノロジーを俯瞰する力を意味します。例えば、『ネットワークコンピューティングとナノテクが組み合わさったらどう社会を変えていくのか』ということを理解できるような力です。言い換えれば、“薄く広く”知識を知っておくことが重要でしょう。我々はそれをエクスポネンシャル思考と呼んでいます」
いずれにしても、技術の発展を不安に思う必要はないようだ。
「そもそも我々が仕事だと思っている部分の多くが正確性や速度を求められるものなど、ロボットが得意とするところ。これまでの仕事がなくなるなど、短絡的には悲観的になる可能性もあるかもしれませんが、技術の進歩は人類を幸福にしています。歴史をさかのぼれば、例えば奴隷制度のようなものもあり人間は相当時間過酷な労働を強いられていたわけですし、もっと遡ればその日生きていくことに精一杯の時もあった。我々の親の世代も『モーレツ社員』などといって、今では完全にブラックな働き方もしていました。時代が進むにつれ人間の生活は確実に良くなってきていますし、今後もテクノロジーの進歩にともなってよくなっていくと思います。