「見たまえ彼らの満足そうなこの表情を。ズワイガニ食べ放題ツアーの帰りのバスの中そのものじゃないか。
黛君、よく覚えておきたまえ、これがこの国の馴れ合いという文化の根深さだ。人間は長い年月飼い馴らされるとかくもダニのような生き物になるのだよ……(以下略)」
そんな挑発的な言葉も使い、会話の応酬も交えて進む『リーガル・ハイ』第9話の堺雅人演じる古美門研介の長ゼリフは、今も語り草だ。同ドラマの脚本家の古沢良太さんは、そのような印象に残るセリフをどうやって生み出しているのだろうか。

――古沢さんの作品には心に刺さるセリフが多くありますが、そのような名ゼリフはどのようにして生まれてくるのでしょうか。

 僕は名ゼリフなんて書けない人だし、“ザ・名ゼリフ”みたいなものは得意ではないと思っています。だから「名ゼリフが多い」と言われても正直ピンと来ないし、「名ゼリフなんて僕は書いてない」と思っちゃうんですよね。僕は脚本では、名ゼリフを書くことではなく、人物をおもしろくすること、魅力的にすることを一番に考えて書いているつもりです。名ゼリフと感じてもらえるものがあるとしたら、発した言葉が魅力的なのではなく、そういう言葉を発するその人が魅力的なんだと思うし、そういう人物を作りたいと思っています。

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――セリフよりも先にキャラクターがあるわけですね。

 そうですね。だから考えるとしたら、この人物をおもしろくするため、魅力的にするためには、ここでどんなことを言わせたらいいのかということや、「この場面でこの人はどんなことを言うだろうか」ということです。特別な言葉ではなく、ごく普通の言葉なんだけど、この状況でこの人が言うからグッとくる。

そういうものが、本当にいいセリフなんじゃないかと僕は思っています。

――古沢さんの脚本には長いセリフもあって、そこの中に凄く刺さる言葉がありますよね。

 僕はそんなにセリフは長くないと思いますよ。『リーガル・ハイ』は1回長いセリフをやったけど、そのくらいじゃないかな? ドラマの『デート』(2015年)とかでは、応酬という形でやってはいますが。

――その会話の応酬もロジックがしっかりあって、しかも見ていて感動させられるのが面白いと思いました。

 長ゼリフとかセリフの応酬は一つの見せ場にはなるので、クライマックスにもできるんです。俳優さんに「ごめん! あなたの力でクライマックスにしてください」って思いながら書いていますけどね(笑)。だから僕の脚本が素晴らしいんじゃなく、俳優さんたちが素晴らしいんだと思います。

〈明日の質問は……Q14.「”こういうことを書きたい”という脚本家としてのテーマはありますか?」です。〉
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