人気アニメの主人公ルパン三世の愛銃がワルサーP38であることは、少なくとも日本人男子の多くが知るところだろう。確かに同銃は、銃器史に名を残す名拳銃である。だが、実は銃とは「弾丸」の「発射装置」に過ぎず、その弾丸は、撃ち出すための「発射薬」が収められ、それに着火するための「雷管」が装着された「薬莢」の先端にねじ込まれた状態となり、これを「弾薬」と称する。そして、この弾薬の性能が優れており、さらに発射装置たる銃の構造が優れているという二つの条件が重なって、はじめて名銃が成立する。
20世紀初頭の1901年、銃器設計技師ジョージ・ルガーは、ドイツのDWM社で高威力の新しい拳銃用弾薬を開発した。同弾はその口径から9mmパラベラム弾と命名されたが、「パラベラム」の名称はDWM社のモットー、ラテン語の“Si Vis Pacem, Para Bellum(平和を欲するなら戦争に備えよ)”にちなむ。だが最近は、実際のユーザーの使い勝手を考慮して「弾丸直径×薬莢長」で弾薬の種類が表記されることになり、同弾は9×19mm弾という無味乾燥な記号で呼ばれる。だが、まがりなりにも戦史研究に携わる身である筆者は、ノスタルジックの誹りはあえて受け、歴史と来歴が込められた9mmパラベラム弾という名称で通すことにする。
さて、この9mmパラベラム弾、第一次大戦でのドイツ軍の主要拳銃ルガーP08に用いられて好評を博した。だがドイツは同大戦に敗れ、戦勝国が定めた懲罰的なヴェルサイユ条約で、軍備を厳しく制限されてしまった。
弾薬には第一次大戦で好評を得た9mmパラベラム弾を採用。当時の新技術のダブルアクション機構を組み込んで新型銃は完成した。ダブルアクションとは、薬室に弾薬を装填した状態で、安全装置を解除して指で撃鉄を起こして撃発状態にできることに加えて、引き金を強く引けば撃鉄が起きてからまた落ちて撃発できる機構のことで、各種の安全装置にプラスアルファで銃の安全な携行を可能とするものだった。
この銃は、ワルサーHP(ヒーレス(陸軍の意)・ピストーレの略)と命名されて当初は輸出に回された。しかし1938年、同年の下二桁を付与したP38の制式番号でドイツ軍が採用。ワルサーP38の誕生である。約123万5000挺が第二次大戦中に生産されたが、軍用拳銃として優れていたため旧西ドイツの再軍備化に際し、部分改良を加えた型式の生産が1958年に再開。改めてP-1の制式番号で同連邦軍に制式採用され、さらに市販モデルや近代化改修型のP4も生産されている。
【要目】
使用弾薬:9mmパラベラム弾
全長:214mm
銃身長:126mm
重量:945g
ライフリング:6条右回り
装弾数:弾倉8発+薬室1発
撃発方式:ダブルアクション
作動方式:ショートリコイル・ブローバック