〈連載「絵文字進化論」第2回〉
出典:筆者作成、画像に使われている絵文字(Twitter [CC BY 4.0], via Wikimedia Commons)前回は、携帯電話やスマートフォンに搭載されている絵文字やその祖先にあたるといえる判じ絵についてとりあげました。今回はそうした「絵」だけではなく、文字や記号を組み合わせて表情をあらわす「顔文字」についても考えてみます。
しかしこの顔文字。絵文字やスタンプに比べると「古臭い」と言われることもあります。その意味や使う頻度・使われ方はどのように違うのでしょうか?
まず絵文字と顔文字、それぞれの特徴をあらためて整理してみましょう。
絵文字の場合は、動物、や食べ物、、スポーツなど、物やアクティビティを表す絵文字が多く、、、といった感情を表すものは少数派です。Unicode11.0(2018年8月更新)に2789個の絵文字が登録されていますが、そのうち感情表現系の絵文字はハート類なども含めて120個くらいです。(出典:https://www.unicode.org/emoji/charts/emoji-counts.html)
それに対して、顔文字は感情表現がメインで、その種類が驚くほど豊か。例えば、顔文字投稿の人気サイト「顔文字屋」でなんと1万2千個もの顔文字が登録されているそう! 顔文字は、パソコンやスマホなどに入っている文字や記号を組み合わせて、誰でも新しいものを作ることができます。感情ひとつとっても、使う記号や線によって、バリエーションが生まれるのです。
例えば、「顔文字屋」では、「笑う」の顔文字は、(^ω^) (●´艸`)ムフフ など120個、「泣く」の顔文字は、(T_T) 。゚(゚´Д`゚)゚。 など193個が投稿されています。ちなみに登録されている顔文字の数が最も多い感情は何だと思いますか? 答えは、「照れる」です。(*/▽\*) ┏(*^р^*)┛ 壁]ω・)ニャ などなど、何と446種類(!)も登録されていました(2018年8月23日現在)。
それに対して欧米式の顔文字は、多く見積もっても全部で1000個ほど。日本とのギャップにショック(゜ロ゜;)!! 欧米の横向き顔文字と言えば、;-) :D :-( などがありますが、 日本の「照れる」に相当する顔文字はないようです。:-S という顔文字は存在しますが、「シャイ」より戸惑った/困ったという意味合いが強く、筆者自身はこの顔文字が実際に使われているところを見たことがありません。
日本の顔文字は、欧米式の顔文字、そして絵文字よりも感情表現が豊かだというのは1つの特徴ですね。
顔文字の全体的な特徴としては、数本の線だけで表情を表現するので、極めて抽象度が高いといえます。
それに対して絵文字はカラーで、口や目がリアルに描かれていますね。近年、さらに絵文字がどんどん具体化し、人の顔や姿の絵文字は、性別、肌・髪の毛の色、髪型などの選択が可能になりました。

今は、何とサンタクロースも、肌色を選択できるようになっています。これは、2015年にAppleやTwitterが「絵文字が白人中心で、人種多様性を反映していない」という批判の声を受けて、5色のスキントーンを追加したことが始まりです。その他にも、同性カップルに対応した絵文字や働く女性の絵文字など、現代社会の多様性、女性の人権を重視した絵文字も追加されて、絵文字の数を爆発的に増やしました。
次に、24人の日本語話者に絵文字・顔文字の好みと使い方を聞いてみました。
1.絵文字・顔文字をなぜ使うか?という問に対しては、
「メッセージに効果的に感情を添える働きがあるから」(20代、大学生、男性)
「自分の感情をより分かりやすく表現できる/相手に伝えられるから」(30代、会社員、女性)
「言葉のイメージが伝わりやすく、柔らかい印象になるから」(30代、主婦、女性)
などの意見がありました。これらは絵文字・顔文字が共通して持つ力ですね。若い女子からは「人にかわいいイメージを与えるため」という意見ももらいました。
大学の先生(50代、男性)からも、カジュアルなメッセージの場合は、^^ぐらい何かを付けないと文章が無愛想に感じる、との回答がありました。絵文字・顔文字はひろく受け入れられているようです。
2.絵文字と顔文字、どちらの方が好きですか?という問に対しては、
「顔文字は幅をとり面倒だから、絵文字の方が好き」(20代、大学生、男性)
「絵文字の方がカラフルで可愛いから好き」(40代、主婦、女性)
「絵文字の方が表現する力が強い」(20代、大学生、男性)
など、絵文字派の回答がやや多かったものの、ほとんどの回答者は顔文字も使うと答えました。そして、
「顔文字の方が可愛く感じられる」(20代、大学生、男性)
「顔文字の方が種類が多いから好き」(30代、会社員、女性)
など、顔文字派の回答もいくつもありました。
3.絵文字と顔文字はどんな風に使い分けますか?という問に対しては、
「絵文字で自分の感情が伝えられるときや、すぐに返信をする場合は絵文字。どうしても表現したい感情がある場合は顔文字を使う」(20代、大学生、男性)
「ゆっくり入力できる時は顔文字で、急ぎで簡潔に様子や気持ちを伝えたい時は絵文字」(30代、会社員、女性)
「忙しい時は絵文字で、時間的に余裕があるときは顔文字」(30代、起業者、女性)
のように、入力にかかる時間や種類の豊かさによって使い分けている人が多いようです。
また送るメッセージの雰囲気にあわせて、絵文字と顔文字を使い分けるという回答も多かったです。例えば、
「少し真面目な雰囲気の時、目上の人に対しては顔文字。楽しい話・ふざけた話をしている時は絵文字」(20代、大学生、女性)
「絵文字だとフレンドリー過ぎるかなーって思う時は顔文字」(30代、主婦、女性)
「先輩や年上の人に対して顔文字を使うことが多い」(30代、主婦、女性)
など。
「すごく仲のいい友達とは逆に絵文字も顔文字もほとんど使わないことが多い」(30代、主婦、女性)
という、なるほど!と同感する回答も。
使っているデバイスや環境によって使い分けることもよくあるようです。「スマートフォンで友人とやり取りするときは絵文字、パソコンでのメールのやり取りのときは顔文字」(30代、主婦、女性)
「携帯のメールで相手はガラケーの場合は顔文字」(30代、主婦、女性)
ガラケー時代には、同キャリアでないと、絵文字が「〓」のように文字化けすることがあったため、
「同キャリア宛には絵文字、他キャリア宛には顔文字」(30代、会社員、男性)
というように使い分けて送っていたと語る回答者もいました。それでも、せっかく選んだ顔文字なのに、携帯電話の画面が小さくて、改行が入って崩れてしまうこともよくありましたね。みなさんは経験したことがありませんか?
今は、各社で絵文字の変換表を作ったり、絵文字がユニコード化されたりした結果、文字化けすることがほとんどなくなりました。顔文字も、スマートフォンならば、顔文字バーからワンタッチで選択できてしまうなど、入力が簡単になってきました。
4.ほかにも使い分け方法が色々
ほかにも「相手の文章に顔文字が使用されている場合は顔文字、相手が絵文字を使用している場合には絵文字」という女性の回答者が何人もいました。これは「相手に合わせる」という日本人の性格があらわれているのかもしれません。
さらに、
「日本人に対しては顔文字、外国人に対しては絵文字」(20代、会社員、男性)
「崩れた顔文字(´・ω・`)などはある程度親しい人に、絵文字はそこまで親しくなくても使える」(30代、会社員、男性)
「SNSでは顔文字、親しい人に対して絵文字」(30代、会社員、男性)
など、やり取りする相手によって細かく使い分けることも。色のバランスまで考えて「一個顔文字一個絵文字にしたりする」と答えた女子もいました。
■まとめ●これらをまとめると…
顔文字 ( ^ω^) ノ...
☆デバイスによっては入力するのに時間がかかるが、種類が1万以上で、感情表現が豊か。
☆ただ、種類が多いだけに、理解するのにも時間がかかる場合がある。
☆海外ではあまり馴染みがないため、外国人とやり取りする時は通じない可能性が高い。
☆文字と同色でシンプルなため、目上の人などに対しても、あまり固くないメールやメッセージを送りたいときに気軽に使えます。
絵文字...
☆入力が簡単で、一瞬で意味が伝わる。
☆顔文字と比べて感情表現を表す絵文字の種類が少ない。それに対して、食べ物や動物、スポーツなど、アイテム・アクティビティ系の絵文字が多い。
☆絵文字でも各表情の細かい解釈には個人差があるが、基本的に世界中で通じる。
☆カラフルな絵文字が、楽しい話や友達・家族との会話にふさわしいが、ちょっと真面目な雰囲気の会話や目上の人に対しては使いにくい。
ちなみに、筆者自身はというと、顔文字と絵文字、両方使います。
個人的には、 (‘◇’)ゞという「了解」を表す顔文字が好きで、絵文字には同じ表情・意味合いを表すものがないので、よく使っています。この2つも→^^、>< シンプルなので、好き。絵文字は色がついているので、場合によってはハデに感じることがありますが、この、^^ならばメールでも抵抗なく使えますね。また、の絵文字よりm(_ _)m の方が使う頻度が高い気がします。