■ホラ貝と和風の個室

 通常、軽井沢駅~長野駅間で食事付き観光列車「ろくもん」を運行しているしなの鉄道は、「ろくもん」の特別運行によるユニークなプランをいくつも企画している。今回は2019年1月と2月に北しなの線の長野駅~黒姫駅間で初の試みとなる「北信濃雪見酒プラン」を発売するにあたり、試乗会を行った。

幸い参加することができたので、その模様をレポートしたい。

 出発は長野駅。JR線との共同使用駅で、しなの鉄道の115系を用いたローカル列車のほか、名古屋と長野を結ぶJR東海の特急「しなの」やJR東日本飯山線のディーゼルカーなどバラエティに富んだ列車が発着している。

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長野駅で発車を待つろくもん

 その7番線に「ろくもん」はすでに停車していた。「ろくもん」恒例の客室乗務員によるホラ貝吹鳴でドアが開き、車内へ入る。案内された席は3号車の和風個室。2人向かい合わせのテーブル席で、通路とは障子で仕切られている。前にも3回ほど乗ったことがあり、お馴染の客室だ。すでに食事の準備は整い、箱に入った食事とソフトドリンクが置かれていた。

しなの鉄道の観光列車「ろくもん」北信濃雪見酒プラン試乗会
ホラ貝吹鳴で列車のドアが開く
しなの鉄道の観光列車「ろくもん」北信濃雪見酒プラン試乗会
和風個室内のテーブル席■長野の地酒と料理に舌鼓

 列車が長野駅を離れると、さっそく地酒が運ばれてきた。佐久市の伴野酒造提供のボー・ミッシェルという低アルコール純米酒でライスワインという愛称がある。私は元来日本酒が苦手で悪酔いしてしまうのだが、このお酒はなめらかな味わいがあって、飲みやすい。

もっとも、調子に乗って飲んでしまうと後が怖いので、舐める程度にしておいた。今回、雪見酒列車を企画した理由の一つは、長野県は全国で2番目に酒蔵が多く、女性杜氏は全国で一番多いので、沿線女性杜氏の地酒をPRして盛り上げたいとの思いからということだ。

しなの鉄道の観光列車「ろくもん」北信濃雪見酒プラン試乗会
地酒を持ってやってきたアテンダントさん

 料理も日本酒に合うような中身だ。信州サーモンの煎り酒浸しと地物野菜のうるか豆腐添えという2つの小鉢がメインで、あとは大王イワナ南蛮漬け、人参生姜醤油漬け、ひとくちヒレカツなどたくさんの肴が添えられていた。これらは、ろくもん2号の和食を担当していて長野県内の小布施にある鈴花という名店が提供したものである。

しなの鉄道の観光列車「ろくもん」北信濃雪見酒プラン試乗会
車内で提供された食事

 豊野駅を出てJR飯山線の線路が右へ分かれていくと、アテンダントさんが再び現れて温かい茶碗蒸しを運んできた。とろろがけ茶碗蒸しなので蓋をあけると一面真っ白である。雪見酒プランということで雪をイメージしたのだという。

 雪見にはまだまだ早い秋の車窓からは、赤くたわわに実ったりんご畑や鳥居川に沿った渓谷が眺められる。試乗会の列車に乗り合わせたしなの鉄道玉木社長お気に入りの車窓とのこと。実際に雪見酒列車が走る頃はどんな情景になっているだろうか?

 ■味覚と視覚でリンゴを堪能
しなの鉄道の観光列車「ろくもん」北信濃雪見酒プラン試乗会
牟礼駅ではアップルシードルの試飲会が行われた

 列車は牟礼駅に到着、ここで17分停車する。ホームに降りると、大きな樽をテーブル代わりにして、りんごを並べ、瓶を持った女性が立っていた。

牟礼駅のある飯綱町はリンゴの産地で、それを使ったりんごのシードルのPRだった。試飲させていただいたシードルはふじりんごと高坂りんごという飯綱町でのみ栽培されている貴重な品種をブレンドしたもの。お酒とは思えない爽やかな飲み心地だった。りんごの産地をアピールするため、駅舎内の玄関上方には飯綱のりんごを描いた壁画が飾られていた。田窪恭治画伯が描いたもので、ここに飾られているものは複製だ。原画は、駅からクルマで5分くらいのところにあるアップルミュージアムに展示している。

しなの鉄道の観光列車「ろくもん」北信濃雪見酒プラン試乗会
牟礼駅駅舎内に掲げられたりんごの絵

 牟礼駅には山羊の駅長がいるそうで、駅舎から少し離れたところには屋根がなく囲いだけの駅長室があった。もっとも、6月から10月までの決められた日曜日にしか出勤しないので、この日は駅長の影も形もなかった。

 何かと話題の多い牟礼駅を発車。ろくもんは、再び鳥居川に沿って走る。車窓を眺めているとアテンダントさんが、今度は焼おにぎり茶漬けを運んできた。ご飯の代わりに焼きおにぎりが浮かんでいるところが風変りだ。

これまた美味で、食事の最後を飾るにふさわしいものだった。

■旅の締めくくりは音楽
しなの鉄道の観光列車「ろくもん」北信濃雪見酒プラン試乗会
黒姫駅に停車中の「ろくもん」

 途中の長い停車時間を含めて55分程で黒姫駅に到着。ここでも17分停車して長野駅へ向けて折り返す。黒姫駅のある信濃町は、江戸時代に活躍した俳人小林一茶の生地で、ホームのはずれには一茶の詠んだ「やれうつな 蝿が手をすり 足をする」の句碑が立っていた。駅舎内には、ゆるキャラ一茶さんが乗客を迎えてくれる。駅からすぐのところには一茶記念館があるので、次回訪れたいと思う。

しなの鉄道の観光列車「ろくもん」北信濃雪見酒プラン試乗会
黒姫駅ホームの俳人一茶の句碑

「ろくもん」は黒姫駅で折返し、もと来た道を帰るだけ。それでは退屈する乗客がいるかもしれないので、車内でバイオリンとチェロによる生演奏を聴いてもらうというイベントが用意されていた。地元出身で東京の有名音大を卒業したあと長野県を本拠としつつも全国で活動する2人の若き女性演奏家によるアンサンブルである。エルガー作曲の「愛の挨拶」に始まり、「浜辺の歌」や長野県ゆかりの「早春賦」などの有名な曲を優雅に奏でてくれ、聴き惚れてしまった。3号車から2号車、1号車へと演奏してまわるので、誰もが近いところで楽しむことができる。良い企画だった。

しなの鉄道の観光列車「ろくもん」北信濃雪見酒プラン試乗会
帰路の車内で行われた生演奏

 かくして、長野駅を発車してからちょうど2時間で再び長野駅に戻ってきた。終わってみればあっという間の旅。飲食をメインに生演奏や車窓を楽しめる何とも贅沢な鉄道旅行だった。本番の運転では、牟礼駅での停車時間がやや長くなるなど、全体的にさらにゆったりした旅となる。雪景色の中を走る列車の旅は楽しみが倍増することだろう。

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