〈連載「ラグビーのオモロイ観方」第2回〉〈第1回はコチラ〉
福田 やっぱりラグビーのわからなさって、ルールのわからなさなんです。
大西 そうですよね。
福田 えっ! そんな感じなんですね?
大西 そうなんです。なので安心してください。ここでは3つ、これだけは最低限知ってほしいというものに絞って説明しましょう。これらのルールはラグビーという競技の本質を知る上でも大切です。まず1つ目は「前にボールを投げてはいけない」(スローフォワード)。
スローフォワード
福田 それは知ってます! だから、平行にパスするんですよね。
大西 そう。ラグビーはボールを横、もしくは後ろに渡していきながら、前に進むという一見、理不尽なスポーツなんですけど、そこがラグビーの特徴ですね。
福田 確かに。よく考えたら、めちゃくちゃ矛盾してますね。
大西 2つ目は「ボールを前方に落としてはいけない」(ノックオン)。よくある場面としては、「味方からのパスを落とす」、「相手からタックルされ、落とす」、「キックで飛んできたボールをキャッチし損なって落とす」などがありますね。
福田 よくポロポロして試合が止まるのはこれですね。あっよく考えたら2つとも「前にプレーする」ことを禁じる、という共通点がある。
大西 おっいい視点です。そして、最後の3つ目は「ボールより前にいる人はプレイできない」(オフサイド)※2。つまり、ラグビーは「ボールが自陣の一番前にあるスポーツ」と言うことができます。わかりやすくたとえると、自分のチームと相手のチームの間に、常にボールがある状態。ボールが“サンドウィッチの具”みたいに挟まっているイメージですね。

福田 なるほど。徐々にラグビーの全体像が見えてきた気がします。とりあえずこの3つは、しっかり押さえます!
■とくに危険な反則は?大西 あとは危険な反則の代表格として「胸から上のタックル」(ハイタックル)があります。ただ「胸から上」のジャッジは微妙で判定がレフリーによって結構わかれます。
福田 う~ん。でもよっぽど危険だと、サッカーのようにレッドカードも当然ありますよね?
大西 もちろん。悪質な反則は一発退場です。ほかにもサッカー同様、イエローカードもあって、ラグビーの場合、一時的に10分間の退場になります。それを「シンビン」といいます。英語で「sin」(罪)+「bin」(小型の容器)という言葉を組み合わせた造語で、“罪(反則)を犯した選手が入る場所”といったニュアンスでつけられた名称だといわれています。イエロー2枚で、レッドカードになるのはサッカーと同じですね。
福田 一時的に退場するのは、アイスホッケーの「ペナルティボックス」と似てますね。
大西 そうですね。意味合いはほぼ一緒です。
福田 他にシンビンはどんなプレーでとられますか? 大西さんが現役のときはどんな反則でとられたんでしょう。
大西 いろいろなケースがありますが、ぼくが選手時代とられたのは「反則の繰り返し」ですね。チーム全体で同じ反則を繰り返すと、最後に反則をした選手がシンビンとなります。でも、これはちゃんと事前に予防線があって、反則が続き始めると審判が「次、誰か同じことしたらシンビン出すよ?」とか口頭で教えてくれるんですよ。
■ラグビーの審判はいろいろすごい。観戦時は目を離すな!福田 えっなんか親切笑。
大西 ラグビーの審判は、 「ジャッジ」するというよりも試合を「コーディネート」する役回りなんです。事前に「これをしたら反則だよ」って言ってくれる審判なんて、ほかのスポーツではないですよね。
福田 確かに。なんかめっちゃいい先生みたいです。
大西 だからラグビー選手は審判をとてもリスペクトしてます。審判と会話できるのも基本キャプテンだけ。審判は、「コーディネーター」として、状況をしっかり見ながら、数ある反則をさばいて、試合をつくっていく大事な役目なんです。試合観戦のときには、審判の動きは要チェックですよ。
福田 そうか…これまで完全にボールの動きに気をとられていました。審判見てみますね。
大西 反則だって、いま何の反則だったのか。じつは全部審判が説明してくれているんです。笛がなったあと、手でちゃんと反則のジェスチャーしていますよ※3。あとは、手の「高さ」にも注目です。真横にサッと伸ばしたらアドバンテージ、ちょこんとこぶしを突き出すとフリーキック、真上に腕を伸ばすとペナルティー。かなりざっくりとした説明ですが、初心者の方は手の上がる角度に比例して重い反則になる、ということはぜひ覚えておきましょう。

福田 ひえ~そんな意味があったなんて。審判の手はラグビー観戦の超重要ポイントなんだ! 今日のロシア戦、注目してみようっと。
※1…安全性や、競技スピード向上の観点から、ラグビーのルールは頻繁に改正される。
※2…オフサイドの基本原則は本文の通りだが、ラックやモールに横から入るオフサイドや、ラックから球が出る前にディフェンスが出てしまうラインオフサイドなど、いくつかのバリエーションがある。
※3…「スローフォワード」だったら、ボールを前に投げる素振りをする、「ノットリリースボール」だったら文字通り、ボールを胸に離さない素振りをする。
(第3回につづく)