現代では、「マック」か「マクド」か?なんて論争もあるが、これはもっと前の話。日本マクドナルドを創業した、藤田田氏は、英語の発音に近い「マクダーナルズ」ではなく「マクドナルド」という名前にこだわった。
そこにある細かな意図とは。『金持ちだけが持つ超発想』より紹介しよう。■英語読みでは「マクダーナルズ」だが…
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東京・銀座の三越にオープンした日本マクドナルドの第1号店。1973年9月16日撮影

 マクドナルドで私が成功したひとつの理由は、店名を「マクドナルド」としたからである。

 マクドナルドを英語読みにすると『マクダーナルズ』になる。

 はじめ、アメリカの連中は『マクダーナルズ』という共通の呼び名で世界にチェーンを広げているのだから、日本でもそれでいきたい、といった。

 私は反対した。

 

「日本語というのは、3音か5音か7音で成立している。3音か5音か7音で音が切れない“マクダーナルズ”では、日本人には受けない。日本で事業をしたいのなら、3音で切れる“マクド/ナルド”にすべきだ」

 そう主張した。

『マクドナルド』といえば、六音で長いが、三音ずつ切れる「マクド/ナルド」がいい、といったのだ。

 日本人はこうした場合、けっして『マク/ドナルド』とは切らない。

『マクド』と『ナルド』を切りはなして発音する。そのほうが、日本語のフィーリングに近く、親しみやすいからだ。

 もちろん、日本語のわからないアメリカ人たちは、『マクド/ナルド』に難色を示した。しかし、私も『マクド/ナルド』をゆずらなかった。

 今では、押し切ってよかった、と思っている。

 それと、ネーミングではもうひとつ、成功している。

■ニコイチネーミング作戦

『マクドナルド・ハンバーガー』と、常に『マクドナルド』に『ハンバーガー』をくっつけたことだ。

『マクドナルド』だけでも『ハンバーガー』だけでもなく、最初から『マクドナルド・ハンバーガー』とふたつをひとつの商品名にして、売って売って売りまくったのだ。

 表音文字の漢字民族の日本人には、これは効果があった。

 

 たとえば「村」という漢字は「木」と「寸」でできている。単独で読めば、あくまでも「木」は「木」、「寸」は「寸」である。ところがこれが一緒になると、まったく別の「村」という字になり、意味もまったく違ってくる。

『マクドナルド』も『ハンバーガー』も片仮名であるが、これを一緒にして『マクドナルド・ハンバーガー』と続けることによって、「木」と「寸」を一緒にして「村」というように、漢字的に作用させることを私は狙った。

 これも狙いどおりに成功した。

 看板も広告もすべて『マクドナルド・ハンバーガー』として『ハンバーガー』を『マクドナルド』からはなさなかったのが大成功だった。

 つねに『マクドナルド・ハンバーガー』と続けて書いた看板を眺め、続けて読んでいるうちに、一般の人の意識の中で、両者は不可分のものになってしまったのだ。つまり『マクドナルド』と聞いただけで『ハンバーガー』を連想するようになったのだ。

 先日、大阪へ行ったとき、ある人が私にいった。 

「藤田さん、マクドナルドのライバル店ができましたよ。そこでもやはりハンバーガーを売っています。面白いから行ってみましょう」

 そういって誘う。 

■子供が「マクドナルドください」と言っている

「何が面白いのですか」

 とたずねると、

「とにかく行ってみればわかりますよ」
 とニヤニヤするばかりだ。仕方なく、その店に連れて行ってもらった。

 ところが行ってみると、子供たちがやってきて、

「マクドナルドください」

 とハンバーガーを注文する。

来る子供、来る子供、みんな、

「マクドナルドください」
 という。
「ね、面白いでしょう、藤田さん」
 案内してくれた人はそういって笑ったが、このとき私は、『マクドナルド・ハンバーガー』と常に続けて、漢字的に表現してよかった、としみじみ思ったものだ。

 漢字的表現を徹底したために、今や『マクドナルド』は『ハンバーガー』の代名詞になってしまったのだ。

 

 10年経った今も、振り返ってみて、うまくいったと思う。

 日本語は、俳句にしろ短歌にしろ、すべて、5、7音が基礎になっている。日本語で語呂がいいという場合は、3、5、7音で成立している。『マクドナルド』も今では、単に『マクド』といわれることが多くなった。
「マクドの誰が来た」とか「マクドの広告を見た」というように使われている。
 この前も国文学の大家の暉峻康隆先生とお話する機会があったが、暉峻先生も「マクド/ナルド」と三音ずつに区切って発音しておられた。私があえて『マクダーナルズ』をけって『マクドナルド』を主張したのが正しかったことは、暉峻先生が「マクド/ナルド」と発音されたことで証明されたようなものだ。
 このライバル店で子供たちが「マクドナルドください」というのを聞いたとき、私は、マクドナルドは勝っている、と思ったものだ。

『金持ちだけが持つ超発想』より)

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