『ホンマでっか!? TV』(フジテレビ系列)などでおなじみの世代・トレンド評論家、牛窪恵氏。本連載では、8月23日に『男女1100人の「キズナ系親孝行、始めました。」』(河出書房新社)も出版した牛窪氏が毎回、賢くも楽しく生きる女子たちの“生態”を通じて、彼女たちが新しいマーケットやブームをつくりだしていく現実と可能性について探る。

日本の将来は、女ゴコロしだい!?

 突然だが、あなたはカノジョが「ヌードを撮りに行く」と言ったら、どう反応するだろう?

「おいおい、恥ずかしいからやめろよ」……?

 だが今、巷では女性専門のヌード撮りフォトスタジオが大盛況、なのだ。

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 地下鉄表参道駅から徒歩5分の場所にある、「スタジオ アイビー(studio IVY)」(東京都渋谷区)もそのひとつ。

 2011年4月、チル・プロダクションが「女性による女性専門フォトスタジオ」として開業。6月にメディアで「メモリアルヌード」が取り上げられた途端、「キレイなヌードを残したい」と希望する女性からの予約が殺到した。そして7月には、全撮影枠(75組)が完売するまでになったのだ。以来、ここにはヌード撮りを希望する女性たちが、ひっきりなしに訪れる。

主な内容は、次のとおり。

●基本プランの所要時間は、約1時間半

●100枚以上の撮影で、料金は33,600円

●撮影データはDVDで即日受け取り、メイク・ヘアメイクのお直しもしてくれる

●カメラマンだけでなくスタッフも全員女性で、リラックスして撮影しやすい

ヌードに変身…女性のフォト撮影ブームの舞台裏〜アラフォー中心に広い世代で人気のワケ

 気になる女性の年代だが、訪れるのは30代後半、いわゆるアラフォー女性を中心に、20代から60代まで幅広い。リピート率は3人に1人。あくまでも一般の女性たちが、“自分のキレイ”を残しておくためにやってくる、とのこと。

 中には、自分の新たな一面を発見したり、ヌード写真の美しさに感動して、「来てよかった!」と涙する女性もいるという。

 女性の「ヌード撮り」ブームに火を点けたのは、女性誌『美STORY』(光文社/現『美ST』)だろう。

 10年、40代女性100人によるヌード特集「読者100人の恋写プロジェクト」をスタートさせると、一般の40代女性にもブームが波及。カメラマン・野村誠一氏が、一般女性のヌード写真を撮影するというものだったが、応募が殺到して、第2弾、第3弾も行われたほどだ。

 また、昨今話題の「マタニティヌード」も、ブームに影響している。

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 妊娠期間中の姿を撮るサービスで、海の向こうでは映画『ゴースト』(パラマウント)の主演女優、デミ・ムーアを皮切りに、90~00年代初頭にかけて、ハリウッドセレブに人気だった。日本では09年以降、マタニティヌードの大ブームが到来。

 特に、20~30代の女性が「私も撮りたい!」と反応したのは、次の4人の「ママヌード」フォトだ。

●歌手のhitomi

●タレントの神田うの

●モデルの梨花

●同・SHIHO

 特に11年10月発売の『アンアン』(マガジンハウス)で、“美し過ぎる臨月ヌード”を公開した神田うのには、女子大生らからも絶賛の声が集中。

「妊婦ヌードってキレイ」「神秘的」との見方が定着した。

 実は、先の女性専門のヌード撮りフォトスタジオ「スタジオ アイビー」、もともとはマタニティヌードのブームに着目し、専用のサービスを始めたのだが、

「妊娠していないけど、撮ってもらえませんか」

といった、女性からの問い合わせが集中。そこで需要を感じ、一般のメモリアルヌード撮りを始めた、というのだ。

 同じく「マタニティ撮り」で人気の「アリア」(東京都港区)も、

「ここには、あなたをシンデレラにする技とノウハウがあります」

と呼びかけながら、ヌード・セミヌードの撮影プランを販売する。

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「でも、自分の『ヌード撮り』を希望するなんて、特殊な女性たちでしょ」
と一笑するなかれ。

 ある調査によると、30~40代女性のうち、「自分のセミヌードを撮影したことがある」と答えたのは、まだ6%。だが、「撮影してみたい」と希望する女性は、なんと33%と、3人に1人にも及ぶのだ(12年 トレンダーズ「自身のヌード撮影に関する意識調査」)。

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「キレイな自分を、第三者に撮ってもらいたい」と願う、ヌード撮り願望。 

 最近はヌードだけでなく、「コスプレ撮り」を希望する女性も増えている。

 例えば、12年1月、東京都文京区にオープンした「変身写真館ミニーナ」(合同会社ミニーナ)。コスプレニュアンスでさまざまな衣装に着替え、変身写真を撮りたい女性に人気だ。

主な特徴は、下記のとおり。

●専門店から仕入れた、こだわりの衣装が勢ぞろい

●プロのメイクやスタイリストが、事前にカウンセリング&メイク

●「森」「書斎」や「ゴシック」「マリー・アントワネット」など“世界観”によって10のテーマが用意されていて、背景や小道具も凝っている

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 カウンセリングからヘアメイク、撮影終了までにかかる時間は約3時間。こちらも、ポストカード大の写真2枚(画像修正済み)とCD-ROMがついて24,150円と必ずしも安くはないが、同代表の太田美由紀さんによると、「お客さまの約半数は、リピーターだと思います」とのこと。

 特に、1着着用のプランで「コスプレ撮り」した女性は、変身した自分の姿に魅了され、2回目以降は、撮影までにダイエットして万全の体制で臨んだり、1回に2着以上着替えて女優気分を味わうケースが大半だという。

 なぜ女性たちは、そこまでして「ヌード撮り」や「コスプレ撮り」を望むのか?

 太田さんは次のように言う。

「女性はみんな“女優”だからでしょう。

機会さえあれば、変身して一番キレイな自分を見てみたい。だから私どもも、日常とは切り離した別世界で、お客さまに“プリンセス”気分を味わってもらうよう、心掛けています」

 それは、若い女性だけではない。最近は熟女にも「コスプレ撮り」が人気だ。

 子供向け写真館を運営するスタジオアリス(大阪市北区)は、13年4月、リニューアルした東京・銀座の歌舞伎座内に「スタジオアリス歌舞伎写真館GINZA KABUKIZA」をオープンさせた。

 「スタジオアリス歌舞伎写真館GINZA KABUKIZA」では、歌舞伎の扮装と化粧で、“鷺娘”や“櫓のお七”といった登場人物になりきった自分を撮ってもらえる。

 例えば、四切2面の和台紙やフォトホルダーなどがついた「歌舞伎セット」は35,000円~。決して安くはないが、スタジオは歌舞伎座を訪れる熟女たちで大盛況。国内だけでなく海外からの観光客にも対応できるよう、撮影から約1分で記念写真を提供するという。

ヌードに変身…女性のフォト撮影ブームの舞台裏〜アラフォー中心に広い世代で人気のワケ

 同じくスタジオアリスは、12年12月に東京・六本木に大人向けの写真館「グラッツ(GRATZ)」をオープンした。こちらも、先の「ミニーナ」同様、映画セットのようなスタジオで、メイクや衣装などのコスプレで、変身した姿を撮ってもらえる。約300坪にも及ぶグラッツのコンセプトは、「フォトコンプレックススタジオ」。このコンプレックスとは、「複合施設」を意味し、バラエティ豊かな5室で撮影ができる。

 狙うのは主に、結婚を控えた「ブライダルカップル」の需要。

 私が取材した中には、「結婚しようと思っていたカレとグラッツに行ったけど、結局は破談に。今は、“いろんな衣装を着て撮影してもらえること”のほうにハマってます」と話す20代女性もいた。

ヌードに変身…女性のフォト撮影ブームの舞台裏〜アラフォー中心に広い世代で人気のワケ

 いくつになっても、女は女優。

 妊娠やダイエット、結婚、あるいは歌舞伎鑑賞を“口実”に、今後も自分のヌードやコスプレ姿を写真に撮ってほしい、と希望する女性は、幅広い年代で増えていくに違いない。
(文=牛窪恵/マーケティングライター、世代・トレンド評論家、有限会社インフィニティ代表取締役)

ヌードに変身…女性のフォト撮影ブームの舞台裏〜アラフォー中心に広い世代で人気のワケ
●牛窪恵(うしくぼ・めぐみ)
マーケティングライター、世代・トレンド評論家、有限会社インフィニティ代表取締役。1968年、東京都生まれ。日本大学芸術学部映画学科(脚本)卒業後、大手出版社に入社。5年間の編集およびPR担当の経験を経て、フリーライターとして独立。2001年4月に、マーケティングを中心に行う有限会社インフィニティを設立。『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系列)、『キャスト』(朝日放送系列)、『あさナビ』(テレビ朝日系列)などに出演中。トレンドやマーケティング関連の著書が多数あり、「おひとりさま(マーケット)」(2005年)、「草食系(男子)」(2009年)は、新語・流行語大賞に最終ノミネートされた。
近著は『アラフォー独女あるある! 図鑑』(扶桑社)。 http://www.hachinoji.com/
http://ameblo.jp/megumi-ushikubo/
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