焼肉で使われる成型肉は、「カルビ」「ハラミ」「タン」に多い。
カルビは脂肪部分に牛脂などを注入してカサ増ししているケースと、赤身と白身を二層に結着している場合もある。また、牛の横隔膜などを貼り合わせている例もある。
ハラミは肉の筋を細かく切断し、食品添加物を加えて肉を柔らかくしており、タンは本来、型にバラつきがあるため、カットした際に同じ型になるように、重ね合わせて均一に型を整えている。
だが、焼肉店側は客に成型肉を使っていることをあまり知られたくないからなのか、メニューの下に小さな文字で「やわらか加工」「霜降り加工」「形を整える加工を施しております」などと、消費者には逆にいいイメージを与えてしまいそうなコピーを使って明記していることが多いようだ。
しかし、焼肉店はステーキ店とは違い、表示に関しての国の指針が曖昧なままなので、店によっては成型肉を使っていても、一切メニューに表示すらしていない店もある。
成型肉は約40年前に、牛肉の自由化前に流通量の不足を補うため日本で開発されたものだ。捨てるようなクズ肉や牛脂を使って、庶民にも手が届くよう安価な成型肉にしたのである。
●成型肉の種類と製造方法成型肉には、大きく分けると「結着肉」と「霜降り加工肉」(インジェクション加工肉)、「やわらか加工肉」がある。
「結着肉」とは、サイコロステーキのように、ハラミなど内蔵や、腹横筋や脂身、すね肉や、肩肉などの端肉をかき集め、食品結着剤を使って固めてカットしたものだ。また、牛横隔膜などを数枚重ね合わせた肉も結着肉。
また、ブロック肉同士をステーキ型など均一の型にするために結着することもある。ただし、肉を固める過程で使う結着剤の中には、リン酸塩が含まれているものがある。これは骨を弱くするという添加物だ。だが、リン酸塩を使うと退色防止にもなり、弱アルカリ性であることから肉を日持ちさせる効果もあり、加工肉での使用は珍しくない。
「霜降り加工肉」は、剣山のような注射器針のついた機械で圧力をかけながら練乳や牛脂を肉に注入してつくり上げたものだが、見た目には和牛霜降り肉との差がわからないレベルにまで達している。一般的に米国やオーストラリアなどの外国産牛肉に、国産牛の脂身を打ち込んで霜降り加工肉をつくるケースが多い。牛脂の質がいいと、どんな肉でも美味しく化けるのだ。だが、牛脂が固まらないように注入するには乳化剤を添加する必要があり、乳化剤の味をごまかすために化学調味料を加える例もある。
「やわらか加工肉」は肉の筋や繊維を細かく切断したり、酵素添加物を加えて肉をやわらかくしたもの。また、その過程で化学調味料を染み込ませて肉に味つけをする場合も多いのだ。成型肉は肉の品質をごまかしやすく、消費者は知らずに結着剤や牛脂に含まれている食品添加物を摂取してしまう可能性が高い。
●食中毒の危険
しかし、成型肉の最大の問題は、成型肉製造の過程で菌が混入しやすいため、しっかりと加熱して食べないと「食中毒を起こしやすい」ことである。
肉は大きなブロックにカットされて運ばれてくるが、外側面は大気や人、機械、刃物などに触れる可能性があるため菌が付着しやすいが、肉の中側は雑菌がない。だが、成型加工を施すために針や刃などで切り込みを入れることで、外側の菌が肉の内部まで侵入してしまうケースがあり、これまでにも度々食中毒を出している。行政側でも、成型肉は菌による汚染が肉の中まで及ぶため「75度で1分間の加熱」を飲食店に指導しているのだ。
しかし、焼肉をカリカリに加熱して食べる人は少ないだろう。焼肉は半生で食べる人のほうが圧倒的に多いはずで、これが食中毒を招いてしまうことになりかねないのだ。焼肉店では絶対に成型肉を食べないように注意してもらいたい。
著者が調査したところ、焼肉店での成型肉の見分け方は次の5つなので、参考にしていただきたい。
(1)焼いたら、すぐに火がついて焦げやすい。
(2)重ね合わせた肉の場合は食べると食感が不自然で、ボソボソとした感じになる。
(3)一枚の肉の中に不自然なつなぎ目がある。
(4)皿に赤い汁がたまりやすい。
(5)箸で肉の脂を落としながら焼くと、極端に縮まり、ゴムのような筋しか残らない。
(文=椎名玲/食品ジャーナリスト)