主要なテレビ番組はほぼすべて視聴し、「週刊新潮」などに連載を持つライター・イラストレーターの吉田潮氏が、忙しいビジネスパーソンのために、観るべきテレビ番組とその“楽しみ方”をお伝えします。 


 40歳を超えてから痛感する。

物事はあらゆる角度から見なければいけないことを。たとえば殺人事件が起きたとする。妻が長年連れ添った夫を撲殺した事件。報道は淡々と、あるいは被害者寄りの目線で語られる。でも夫を食器で殴り殺すほど、妻にも積年の恨みや鬱積があったのではないか、とか、「近所では有名な仲良し夫婦」が実は仮面夫婦だったのではないか、とか。何が善で何が悪か、何が正義なのか。ひとつの視点から見ることは実は危うい。たとえそれが大手メディアの報道だったとしても、鵜呑みにするのは恐ろしい。別の角度からも見るクセをつけ、偏った正義感を振りかざすことだけは避けたいところだ。

 正義とはなんぞや。この命題をきちんと突きつけてくれた今クール(10~12月期)の連続テレビドラマが、『リーガルハイ』(フジテレビ系/毎週水曜22時放送)だと思っている。堺雅人演じる拝金主義の悪徳敏腕弁護士・古美門研介が、悪人であり有罪であると誰もが信じて疑わない被告を奇想天外な根回しと策略で無罪へと導く法廷ドラマだ。

コメディ&パロディ、風刺とエスプリの効いた設定やセリフが人気の秘訣ではあるが、最大の魅力は「胡散臭い正義感をぶち壊す」ところではないか。

 一面的な報道を信じきって歪んだ正義感に燃える「世間」や「空気」に、卑劣な手口を使いながらも斬り込んでいく古美門の信念は、視聴者を唸らせるだけの説得力がある。どんな人間も、悪者や嫌われ者になりたくないと思うのが常だが、古美門は決して世間に迎合しない。汚れ上等、喧嘩上等でやりたい放題、ケチョンケチョンに罵詈雑言を浴びせまくるダークヒーローが、実は事件の本質、人間の弱さと脆さを教えてくれるのである。

 今回は、昨年放送されたシリーズ1に続くシリーズ2ともあって、さらに緻密な構造と展開に仕上がっていた。ビッチで鬼畜な殺人犯(小雪)の裁判をメインストリームに据えながらも、毎回数々の裁判で「被害者と加害者の間に存在する矛盾」を突いていく。古美門が裁判で初めて負けるという屈辱も描き、より深みと広がりのある物語になっていた。などと、真面目な話はさておき、やっぱり面白いのは「実在の人物、事件やトラブルへの揶揄」であり、テレビドラマが躊躇しがちな「良識」や「チンケなプライド」の範囲を軽々と飛び越えているところでもある。

●ワイドショーが自粛する領域まで踏みこむ

『リーガルハイ』を見ていれば、「ああ、これは芸能人夫妻が起こした狂犬傷害事件の揶揄ね」とか「巨匠と呼ばれるアニメ監督がモチーフね」とか「毒婦と呼ばれる女の詐欺殺人事件がネタ元ね」など、手に取るようにわかる。美容整形に対する世間の偏見やゆるキャラ著作権問題、世界遺産登録をめぐる裏事情など、ワイドショー的要素もてんこ盛り。いや、ワイドショーですら自粛する領域へズカズカと踏みこんでいく。堺雅人という役者が制作側のイタコとなり、世間が抱いている違和感やストレートで素直な毒を吐きまくる。

これが爽快であり、見事としか言いようがない。良識ある(とされている)大人は決して口にしないセリフがばんばん発せられるのが、小気味よいのである。

 シリーズ1、今年4月に放送されたスペシャルドラマ版を見逃している人は、冬休みの間にぜひ観てほしい。フジテレビは連続ドラマで10本に1本はこうした名作を生み出しているので、あなどってはいけない。

 残念ながら、今週18日(水)の放送分が最終回だ。2013年の毒納め、見逃すな。
(文=吉田潮/ライター・イラストレーター)

●吉田潮(よしだ・うしお):
ライター・イラストレーター。法政大学卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。「週刊新潮」(新潮社)、「ラブピースクラブ」(ラブピースクラブ)などで連載中。主な著書に『2人で愉しむ新・大人の悦楽』(ナガオカ文庫)、『気持ちいいこと。』(宝島社)、『幸せな離婚』(生活文化出版)など。カラオケの十八番は、りりぃの「私は泣いています」、金井克子の「他人の関係」(淫らなフリつき)など。

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